第58話 一年次パートナー戦 6
乙女ゲームの世界には、数多くの困難が存在することを俺は知っている。
厄災の魔女ベリベット。
闇の結社。
貴族社会のしがらみ。
女性が多いということでの、男性を狙う盗賊集団。
その一つ一つを気にして、レオやマシロを守ることは俺にはできない。
厄災の魔女ベリベットを相手にした時に学んだことだ。
抗いようのない出来事に対処するのは自分自身でなければならない。
だから、学園に入る前に、俺はレオに宣言した。
「レオ、俺は自分の能力を隠して過ごす」
「どうしてだ?」
「この世界は男性にとって、とても危険な場所だ。厄災の魔女ベリベットに相対したことで俺はそれを実感した。油断をすれば、すぐに女性達に喰い物にされて身動きが取れなくなる」
警戒しても仕切れないほどであり、誰が敵で誰が味方なのか見極めが必要になる。
「そうか、俺様は自分を高めるつもりだ。強くなって、女性にも負けないようにする」
「レオ、その覚悟は本物か?」
「ああ、俺様は強くなりたい。どんなことがあっても」
「なら、俺はレオが強くなるのを見守っておく。どんな方法でも力を手に入れろ」
「任せろ! どんな方法を使っても絶対に強くなってやる!」
俺たちは互いの気持ちを宣言して、入学した。
レオは強くなることを。
俺は力を隠して爪を砥ぐことを。
それぞれの宣言通りに動き始めた。
その結果、レオは新たなステージへの扉を開いた。
咆哮を上げるレオが雨の中に佇む。
「ウオォーーーー!!!」
全身にパワースーツを発現させて、闇の結社と思われる黒いフードを着た集団に取り囲まれている。
闇の結社は、もともとレオを操り利用しようとしていた者達だ。
事前に手を打って妨害することもできたかもしれない。
だけど、俺たちはその妨害を跳ね除けるほどの力が必要なんだ。
レオが一人でそれを乗り越えられない場合は、助けるつもりだったが、どうやら土壇場でレオは限界を突破したようだな。
「さて、俺がやることは決まっているな」
戦いは一方的なものであり、闇の結社でも幹部以外の構成員はたいした魔導士ではない。レオがパワースーツの力に目覚めたなら問題なく倒せるだろう。
それが暴走であったとしてもだ。
成長するパワースーツにはそれほどの可能性が秘められている。
それぞれのパワースーツに秘められた性能は、鍛え抜かれた魔導士と遜色がない力が秘められていて、それを覚醒させたレオは歴戦の猛者ということになる。
だが、今回の覚醒はあくまでレオが力を確認するために必要な処置ではあったが、精神的な負荷や自己の暴走というリスクが多く含まれていた。
「君がオレオさんだよね?」
「はい! アンディウス様」
「トゥーリ、ありがとう。オレオさんを連れてきてくれて」
「どっ、どういたしましてであります!」
「オレオさん、君に問う。レオのことを好きかい?」
「なっ!」
一気に顔を真っ赤にするオレオさんだが、すぐに気持ちを切り替えたように表情を引き締める。
今の緊迫した状況は二人もわかっている。
ここに来るまでに俺は二人に協力を要請して、レオを救ってもらう手伝いを頼んだ。
「……それを言う資格があるのかわかりませんが、好きです!」
「よかった。君がレオのことを好きでなければ、この役目は俺がするつもりだったからね」
「アンディウス様が?」
「ああ、(本当はマシロがオレオの役目を担うと思っていたが、運命とはわからないものだ)。レオにとって大切な人じゃなければ意味がないんだ。レオは君にパートナーになって欲しいと声をかけた。それはレオにとって君が一番だと証明している」
俺にも教えてくれなかったほどの想いだからな。
「協力してくれるかい?」
「……はい! 私にできることであれば!」
「ならば、レオの尻尾を掻い潜って、後ろからレオを抱きしめて気持ちを伝えてやってほしい。今、レオの意識を覚醒できるのは君だけだ」
「はい!」
「トゥーリ、俺たちはオレオのサポートをする」
「はいであります!」
レオが闇の結社たちを蹴散らして、リーダー格の女性を持ち上げる。
「今だ!」
「はい!」
オレオがレオに近づいて、トゥーリの精神魔法でレオの心に呼びかける。
「おい! 親友! お前はその程度なのか? 強くなるために覚醒したんだろ?! なら負けてんじゃねぇよ!」
レオの心にどの程度作用しているのかわからない。
だが、オレオの呼びかけにレオが答えやすい土台作りになってくれればいい。
オレオがレオの尻尾に腹を貫かれる。
「オレオ氏!」
「任せろ。不死火よ! 我命に答え、彼の者を支えよ」
治療ができるわけではないが、不死の力でオレオの延命処置を施す。
あとはレオが医務室にオレオを連れて行くだけだ。
「トゥーリ、ここまでありがとう。オレオが心配だろうから、レオの様子を見てきてくれ」
「わかりましたであります!」
三人が立ち去った後に残された隠された場所では、倒れる闇の結社が息も絶え絶えで横たわっている。
俺はヘルメットだけを発動させて近づいていく。
「くっ!」
リーダー格の女性メリッサが悔しそうに息を吐きながらこちらを見上げてきた。
「な、なんですかあんたは?」
「俺か? 教える必要はないな。ただ、言えるのは俺はあいつが本来悪役に落ちるはずだった負の部分とでも言っておこうか。悪には悪で、お前は強引な手段でやりすぎた」
「ひっ!」
「悪と断定できたなら容赦はいらない」
物言わぬ骸と化した者達を炎で燃やし尽くす。
骨も残さぬほどに跡形もなく消え失せた者達を探す意味はないだろう。
厄災の魔女と対峙するために、俺が選んだ道を進むだけだ。
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