第57話 一年次パートナー戦 5

《sideメリッサ》


 私は昨晩のキャサリンさんとの出来事で、危機感を覚えました。

 彼女はとても危険な存在です。

 あのような顔を持っていたとは見た目で人を判断することはできませんね。


「皆さん、計画を早めなければいけないようです」

「どういうことですか?」


 彼女たちは同じ魔導クラスで、精神魔法を得意としている二人です。 

 私の操作魔法で気持ちをコントロールしながら、精神魔法の二人に徐々にレオ様の心を侵食させていたというのに、ここでアンディウス様のような強烈な刺激を与えられては意識が覚醒される恐れがあります。


「敵は内側にいるのかもしれませんね」


 私は苦虫を噛み潰したような顔で、お二人に視線を向けます。

 お二人は怯えたような表情を見せました。


「ですが、いいでしょう。レオ様の精神が壊れようと次の段階に言ってしまえば問題ないのですから。ふふ、ふふっふ、ふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 私はキャサリンさんが動く前に、レオ様の侵食を早めることにしました。



《sideレオガオン・ドル・ハインツ》


 自分でも何かがおかしいことには気づいている。


 だけど、何がおかしいのか頭がまとまらない。


 昔はどうだっただろうか? 「レオ」そう言って俺様を呼んでいたのは誰だっただろうか? 俺様は誰と遊び、誰と過ごし、誰と勉強をしてきたのだろう。


 記憶が思い出せない。


 だけど、どうしても強い記憶が一つだけあって、それはどうしても忘れられない。


「俺とお前は親友だろ?」


 そう、その言葉だけが俺様の心に残り続けている。


「レオ様、よろしいですか?」

「メリッサ?」

「はい。今日はレオ様にお願いがあってきました」

「お願い?」

「はい」


 そう言ってメリッサは来ていた衣服を脱ぎ始めた。

 お風呂にでも入るのだろうか? だが、まだそんな時間ではないはずだ。


「私を召し上がっていただきたいのです」

「召し上がる?」

「ええ、レオ様の初めてを私に」


 初めて? メリッサと? 俺はメリッサが好きなのか? 確かに何度か風呂に入り、裸を見せ合ってはいるが、それは家でもメイドがしていたことだ。

 

 母上とだって一緒にお風呂に入る。


 だけど、初めて? 初めてとは……。


 俺様は意味がわからないまま、パワースーツを発動して、全身から拒否して、部屋から飛び出した。


「ウオォーーーーーー!!!!」


 もうどうでもいい。


 なぜ、こんなにも虚しくて悲しいのだろう。


 俺様は何をしたかったんだ? 俺様は何が欲しかったんだ?


「レオ様お鎮まりください!」


 メリッサが何かを言っている。

 そうか、わかった。


 こいつは俺様の体が目当てなんだ。

 だから、今まで俺に優しくして付き纏っていたんだ。


「グルルル」


 不思議だ。


 今まで一度も発動できなかったのに全身にパワースーツを纏うことができた。


 俺様は獅子王レオガオン。


「反抗されるのであれば、調教が必要ですね」

「グルルル」

「いいでしょう。闇の結社が一員メリッサの名の元に命じます。構成員はレオガオンを捕まえなさい」


 メリッサの声に応じるように数名の黒いフードを被った女性が現れる。


 ここはどこなんだ? どうしてこのような者たちがこんな場所にいる。


「そのような獣の姿になられても、所詮は男性です。男性が女性に勝てるはずがないのですよ。大人しく軍門に降って私の物におなりなさい」


 メリッサが命令を下すと、数名の黒フードたちが一斉に襲いかかってくる。


 不思議だ。


 あれほど怖かったのに、勝てないと思っていたのに、今の俺様には怖さがない。


「ウオォーーーー!!!」


 一人目を噛み付いて、二人目を爪で引き裂く。


「なっ!」

「あなたたち! そこで何をしているんですか?!」

「チッ! 目撃者ですって!」

「ウオォーーー!!!」


 群がってきた8名を瞬殺した俺はメリッサに狙いを定める。

 お前のような者は許さない。


「どうして?! どうして男にこのような力があるのですか?! このっ! この化け物め」


 化け物? 俺様が化け物なら、お前たちはなんなのだ? 人の気持ちを弄び強引に何かをなそうとする貴様ら?


 俺様はフォルムを獣型から、人型へと変化させてメリッサの首を掴み上げる。


「ぐっ! 離しなさい! この化け物」


 もう一捻りで殺すことができる。

 襲いかかってきた者たちは殺していないが、こいつだけは生かしておいてはいけない気がする。


「もうおやめください」


 そう言って、俺様の腰に誰かが抱きついてきた。


 邪魔するなら、殺す。


 俺様は振り返って噛みつこうとして、その顔に驚いてしまう。


「オ・レ・オ?」

「はい。ハインツ様、ずっとお探ししておりました。あの日パートナーとして、お誘い頂いた次の日からお姿が見えなくなり、後悔しておりました。どうして断ってしまったのだろう。どうしてお受けしなかったのだろうと。そして、一瞬だけ見かけたハインツ様は虚な目をしておられて心配しておりました」


 彼女の口から血が流れる。


「オレオ!」


 俺様はメリッサを投げ捨てて、オレオを抱き上げた。


 抱きつく際に、尻尾によって腹を貫かれている。


「死ぬな! 必ず助ける」

「ああ、ハインツ様にお姫様抱っこされてしまいました」


 俺様は必死に医務室へオレオを運んだ。

 なんとか一命を取り留めたオレオ。


 それと同時に何が起きたのか学園側に全てを報告した。


「アイツに会いに行こう」


 アイツって誰だっけ?

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