第56話 一年次パートナー戦 4

 今日は、カグラ王女と、トゥーリの試合があり、キャサリンは観戦者として控えている。今朝になってメリッサさんと話がついた近いうちにレオに時間を作ってくれるように話をしてくれたそうだ。


 キャサリンは、迅速に行動してくれる優秀な人間だ。


「何をよそ見していますの。今は私の試合に集中しなさいですの」

「ああ、悪い悪い。カグラ王女は優勝を目指すんだよな?」

「当たり前ですの。王族が優勝しなくて、誰が優勝すると言うんですの?」

「そうだな。それで? カグラ王女は全ての魔術が得意なんだったな?」

「違いますの」

「えっ?」

「それは私が特別な力を使った時だけですの。普段は、器用貧乏で全ての魔法を満遍なく飛び抜けた者よりも使えませんの」


 なるほど、チート級の能力を使える代償ということか、武術クラスが強化魔法や操作魔法に強い者が多い傾向にあり。魔導クラスが自然魔法や精神魔法に強い傾向にある。


 座学クラスは、他のクラスとは違って、魔法や戦闘の訓練は授業の一つで習得は可能ではあるが、基本的に自主トレが主な手段となっている。


「なるほど、能力は落ちるが結局は全ての魔法が使えるということだろ?」

「まぁそうですわね。ですが、あまり期待しないで欲しいですわね」

「別にそれほど難しい話じゃない」


 俺が作戦を伝えるとカグラ王女は首を傾げた。


「そんなことで良いんですの?」

「ああ、相手は魔導クラスのようだからな」


 キャサリンの時は搦手を使って相手を翻弄することにしたが、今回は別の方法で相手と相対する。


「第一回戦を始めます」


 敵は、水の自然魔法を発動して、攻撃魔法を作り上げていく。

 そこにカグラ王女は肉体を強化して、一気に駆け抜けた。


「なっ!」


 魔導クラス生徒が驚いて魔法を放つが、それをカグラ王女は同じく自然魔法の防御を発生させて躱した上で、肉体強化を継続して一気に距離を詰めた。


「終わりですわね」


 カグラ王女の武器は短剣と杖の二刀使いだ。

 その短剣が首筋に突きつけられた。


「勝者カグラ・ダークネス・ヤンデーレ」


 審判の声を聞いて、カグラ王女が俺の元へ戻ってきた。


「あっさりでしたわね」

「相手に合わせて臨機応変に戦えば、火力は必要ないからね。むしろ、大きな魔法を使えば使うほどに反動によって次の魔法が使えなくなる」

「そういうことですの。私は小さな魔法を使って最小限の結果を生み出し、相手は魔法を使って最大限の成果を求めた」

「ああ、まだまだ一年次で戦闘に慣れていない相手だから、有効な一手なんだ。カグラ王女は今後も、全体的な能力向上を目指してくれるといいだろうね。ただ、必殺技は必要だ」

「必殺技ですの?」


 俺の言葉にカグラ王女が首を傾げる。


「ああ、あなただけのオリジナルの技があれば、決め手になるからな」

「わかりましたわ。学園に通っている間に必殺技の研究をしてみます」

「うん。それじゃ次はトゥーリの試合だな」

「一回戦敗北は、私と同じチームとして許しませんの」

「その辺はトゥーリ次第だね」

「頑張るんですのよ」

 

 カグラ王女に代わって、戦いの場にトゥーリが現れる。


「よっ、よろしくお願いしますです!」

「はは、緊張しないで大丈夫だよ」

「アンディウス様は落ち着いておられるのです」

「うん。三回目だからね。キャサリン、カグラ王女と続いてだから」

「そっ、そうでありますか。私は震えるのであります」

「トゥーリは、操作魔法が得意なんだよね?」

「そっ、そうであります。本来は魅了の魔眼によって相手を誘惑して操作するであります。ですが、異性に強い効果を発揮して、同性にはあまり効果がないであります」


 トゥーリは警戒心なく自分の魔法について語ってくれるが、あまり良いことではない。戦闘において奥の手でもある魔法を相手に知られれば対策を取られてしまうからだ。


「相手は武術クラスの子で相性は悪くない。強化魔法が一番恐れるのが操作魔法だ。自分の意識や体を操られてしまえば、終わりだからね。トゥーリの魔法を発動させる条件を教えてくれるかい?」


 魔導クラスでは自然魔法の練習をしていたが、自分の得意ではない魔法を練習するのは実は非効率なのだ。


 操作魔法は、具現化魔法と強化魔法に需要があり、自然魔法、精神魔法はそれほど得意ではない。


「相手の全身を見れば発動できるであります。それでも無理であれば、こちらの瞳を見せれば、ある程度は強化できるであります」

「それは凄いな。つまり距離を魔法を発動できればいいわけだ。よし、ならやってみようか」

「はいであります」


 素直なトゥーリは、俺の指示に従って戦場に赴いた。


「それでは試合を開始します。始め!」


 開始の合図と共に、トゥーリを警戒して、武器を構える相手に対して、トゥーリはゆっくりとした動作で後に下がっていく。


 相手は警戒を強めながら、トゥーリを見つめるが、その間に勝敗は決した。


「えっ?」

「終わったであります!」


 トゥーリが相手の全身を認識した瞬間に、拘束が発動して相手は身動きが取れなくなった。


「ショッ、勝負あり!」


 審判もあっさりとした決着に驚いているようだ。

 一年次の魔法など力量差は、そこまで存在しない。


 ただ、相性や発動タイミングで、いくらでも勝利することはできる。


「やっ、やったのです!」

「おめでとうトゥーリ」


 ハイタッチをして、勝利を祝った。

 これで三人とも一回戦は勝利することができた。


 

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