第55話 キャサリンの日記 2

《sideキャサリン》


 この日記も五十冊を超えてしまったわ。

 ふふ、やっぱりお側にいられるってこんなにも幸せなのね。

 パートナーとしても選んでいただいて、アンディ様と私はやっぱり両思いなのですね。


 黒髪のメスブタが一緒なのは、面倒ではありますが、もう一人はただのモブですからね。何も問題はありません。


 アンディ様を真似たあの雑誌のせいで、アンディ様の人気が上がってしまったのは、本当は嫉妬深い。

 だけど、有象無象の女たちなどもうどうでもいい。


 だって、パートナーとして選ばれたのは私。


 他の雑魚たちじゃないんだから今日だって、アンディ様は私のために作戦を考えてくれて、勝利をしたら手を握って下さった。


 ああ、もうこの手を洗うわけにはいかないわね。

 いえ、彼にはこれからも全身を触っていただくつもりです。


 ですから、全身をくまなく洗って綺麗にしなければならないですよね。

 だってこの体は全てアンディ様の物なのです。

 最高の状態で、提供できなければ意味はありません。


 美しく、強く、賢い。


 ふふ、そうこの国はとてもわかりやすくていい。


 彼にとってどういう自分でいればいいのか、教えてくれているのですから。


「そういえばアンディ様がクズのことを望んでおられたわね。私がいればそんな存在はいらないと思うのですが、今はまだアンディ様に望まれる私でいたいと思います」


 私は本日の出来事に感想を添えて、日記を閉じました。


「メリッサさん。すみません、よろしいですか?」

「あら? キャサリンさん。どうしたんですか?」

「少しお願いしたいことがありまして、ハインツ様のことでお話が」


 私がハインツ様の名前を出すと、メリッサ様の顔が少し硬くなります。


「どうしてキャサリンさんが、レオ様のことを話題にあげるのかしら? あなたにはミルディン様がいるでしょ?」

「それがアンディ様から頼まれてしまったのです。最近、ハインツ様とお話ができる時間がないことが悲しいと」

「……そうですか」


 思案する素振りを見せるメリッサさん。

 そうですね。私にもよくわかります。

 もしも、アンディ様と私の時間を邪魔するようなことを言われれば、虫唾が走りますからね。


「いいでしょう。ですが条件があります」

「条件?」

「ええ、私にもアンディ様の味見を」


 私はメリッサ様の首にナイフを突きつけました。

 

「冗談冗談ですよ。ふふ、あなたの覚悟を問いたかっただけなのです。ですが、私の気持ちもわかってくださるでしょ?」

「申し訳ありません。私は少しメリッサさんのことを誤解していたようです」

「どういうことでしょう?」

「私はアンディ様一筋なのです。あなたのように冗談でも、味見などと口にすることはありません。どうやらあなたは男性であれば誰でも良いと思っておられるようですね」


 闇の結社所属でありながら、それぞれの思想までは同じではありません。

 男性至上主義と言っても、各々が感じる意味は違うというわけです。


「ふふ、何を甘いことを言っているのかしら?」

「どういうことです?」

「あなたは男性至上主義の社会にする気はないのですか? 男性を崇め支え奉る。それが我々の考えなのですよ。男性を選ぶ権利などこちらにないのですよ」


 私のナイフを弾くどころか、首筋から血を流しながら近づいてくるメリッサさん。


「あなたの覚悟は甘いのではないですか?」

「どうやら決裂してしまったようですね」

「そのようです。レオ様は我々が大切に男神としてお育ていたします。くれぐれも邪魔にならないようにミルディン様を監視いたしませ。さもなくば」


 今まで見たこともないメリッサさんの顔に背筋が震える。

 

「ふふ、どうやら我々は同じ穴のムジナのようですね」

「……キャサリンさん。あなたを敵にしたくはありません」

「私は結構ですよ。メリッサさん。もしも、アンディ様に何かするならば、私は何者も容赦をすることなく、この命尽きるまであなたを敵として呪いましょう」


 果たして、彼女と私。


 狂っているのはどちらなのでしょうね?


 どちらも男性を愛し、男性に愛されようとしている。


「……レオ様のお時間が必要ならばいいなさい。お時間を作りましょう。ですが、我々の計画を邪魔立てするならば、許しません」

「毛頭そのようなつもりはありません。ですが、アンディ様が望まれている。そして、私はどんなことがあっても揺るぎません」


 我が身を震わせたことは認めましょう。

 ですが、私を変えるほどの力はありません。


 やはり私に影響を与えられる人は、アンディウス様だけなのです。


「わかりました。もう何も申しません。求められるがままに」

「メリッサ」


 私は上下関係をはっきりさせるために名前を呼ぶ。


「……」

「良いですね?」

「はっ!」


 すでに序列はついた。

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