第54話 一年次パートナー戦 3

 パートナー戦が始まると、学園の雰囲気はお祭り騒ぎのような様相を呈した。

 選ばれなかった女生徒たちが、学園側の働きで観客席を設置したり、反則が起きないように選手たちの監視をしている。


 その瞳には羨望や嫉妬など、様々な感情が組み込まれており、ふとゲーム世界の話を思い出す。


 この野外学習でマシロと仲良くなった男性キャラとパートナーを組むことが多いのだが、その中に悪役貴族としてレオにも三人の女性が付き従う。


 最初はマシロにパートナーを求めるレオだったが、それに振られて自暴自棄になったレオは、マシロが組んだパートナーを排除するために色々と裏工作に走るのだ。


 だが、此度のレオには動きは全くみられない。

 マシロには、興味がなさそうに声もかけない。

 次に一目惚れしたはずのカグラ王女のことも、見ようとしない。


 最近、気になっているように見えたさんにも声をかけていないようだ。意外だったのは、キャサリンの友人であるメリッサさんと、その友人たち三人の魔導クラスのメンバーで構成されていた。


 レオならば、武術クラスの三人と一緒に楽しそうに参加するのだと思っていた。


「どうかされましたか? アンディウス様」

「最近、レオと話ができていなくてな。あのメリッサという女性は、野外学習は一緒だったが、あまり話す機会がなかった。キャサリンは友人なんだよな? どんな人なんだ?」

「そうですね。メリッサさんは、とても世話好きなお姉さんっていう感じですね」

「世話好きのお姉さん?」


 緑色の髪に優しそうな顔立ちは常にニコニコとして、確かに世話好きのお姉さんという言葉はあっている様に思える。


 だが、レオはどこか覇気を失ってしまったように思えるのだ。


「はい。私も色々と教えてもらっています。もしも、ハインツ様のことが気になるようでしたら、私の方からメリッサさんにお伝えしておきましょうか?」

「頼めるか?」


 俺はキャサリンの手を取って、レオと話す機会を作ってもらうようにしてもらう。


「アンディウス様は、本当にハインツ様を大切に想われているのですね」

「ああ、友人だからね」

「わかりました。必ず、時間を作ってもらうようにします。その前に本日は私とパートナー戦です。頑張っていきましょうね!」

「ああ、キャサリンが望むままにするよ。今日は勝ちたい? 負けたい?」

「一日でもアンディウスのパートナーでいたいので、勝ちたいです」

「わかった。なら勝つために動こう」


 対戦相手は名前も知らない男子生徒、パートナーの女性は武術クラスで剣を持っている。


「アンディウス様は、戦闘になられておられますよね?」

「そう思うかい?」

「はい。共に盗賊と戦った中ですから」

「そうだね。戦うことはそれほどだけど、作戦を考えるのは好きだよ」

「なら、私に指示を出してくれませんか?」

「俺がキャサリンに?」

「はい。私は精神魔法を得意としていて、直接的な戦いはそこまで強くありません。対戦相手は武術クラスで強化魔法、自然魔法を得意としていると思います。ですから、私が下手な戦いをするなら、アンディウス様の指示を仰ぎたいと思ったのです」


 キャサリンに頼られて悪い気はしない。


 魔法だけの戦いならキャサリンにも勝ち目はあるだろう。

 だが、戦闘とはそう単純なものではない。


「いいだろう。なら、キャサリンが得意な精神魔法の土俵に相手を引きずり込もうか」

「どういうことですか?」


 魔法とは繊細なものだ。

 

 強化魔法が、自身の力の強さを証明したいという強い意志とするならば、精神魔法は相手の精神に介入するという難しさがある。


 だからこそ、魔法を使えれば成功するというわけではない。


 相手の精神を崩して、初めて成功させることができるのだ。


「キャサリン、まずはこうして、俺がこうして」

「そっ、そんなことを! 大丈夫でしょうか?」

「俺を信じてくれるかい?」

「もちろんです!」

「なら、行こうか」

「はい!」


 一回戦、最初の相手に相対する。


「それではパートナー戦一回戦を開始します。両者互いの雌雄を決して力を尽くすように」


 審判の先生が、開始の合図を開始して、相手が剣を構えて、肉体強化をかける。


 だが、キャサリンは女生徒を相手にしないで、パートナーの男性の方に向かう。


「どうもキャサリンと申します。本日は対戦ありがとうございます」


 丁寧な挨拶をしただけだ。

 しかし、美少女であるキャサリンが丁寧な挨拶をすれば、パートナーの男も悪い気はしない。


「貴様! 対戦相手は私だぞ!」


 怒りを表す対戦相手。


 そこに俺が。


「君は俺に挨拶をしてくれないのかい?」

「ふぇ?」

 

 俺に声をかけられて女生徒が、強化したばかりの魔法が乱れてしまう。


「それでは失礼します」


 キャサリンが男に挨拶をして、戦いの場に戻る頃には、俺に挨拶をした方がいいのか、戦うべきなのか迷っている女生徒が完成して。


「マインドコントール」


 キャサリンが魔法を発動すれば、あっさりと精神魔法に苦して敗北を宣言した。


「お疲れ様」

「なんだか相手には申し訳ない勝ち方ですね」

「そう? 挨拶をしただけなのに?」

「ふふ、アンディウス様が悪い人なのは理解できました」


 キャサリンが心かた楽しそうに笑うので、俺も笑って返した。

 

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