第53話 一年次パートナー戦 2

《sideレオガオン・ドル・ハインツ》


 黒いフードを着た集団に囲まれて、何か儀式をしていた。

 だが、そんな記憶は俺が作り出した妄想かもしれない。


 そんな怪しげなことをする者がいるだろうか? 俺様だって昔は漆黒のライオンに跨ることが夢だった。

 

 強さに憧れ、強さを求め、剣術に打ち込んだ。

 だけど、どうしても女性に勝てない。

 パワースーツを着て戦っても魔女一人倒せない。

 

 俺様の力とはなんだ? 俺様は無力なのか? そんな折に出会ったのが、オレオだった。


 魔法を最小限にして、最大限の成果を出しているオレオは美しかった。


 共に歩んでいきたいと思った。


 だけど、振られてメリッサに出会った日から、俺様の世界は変わり始めている。


 幾人かの見目麗しき令嬢たちが、俺様の周りに近づいてくることが増えた。

 女生徒たちは、とても美しく、妖艶で、それでいて強い。


「レオガオン様、今日はどう過ごされますか? 戦闘の訓練をされますか? それともまた我々と良いことをしますか?」

「あっ、いや。今日はいい」


 朝も、昼も、夜も、彼女たちは俺様のために尽くしてくれる。


 朝食を一緒に食べ、勉強をして、昼にはランチの席をとり、草むらに移動して膝枕で眠る。夜は、また夕食を共にして、体を洗ってもらう。


「メリッサ」

「はい。どうされますか? 全てはレオ様のお心のままに」


 心のままに? 俺様の自由? お前たちは俺様のいうことならばなんでも聞くのか? 本当にそれは正解なのか?


「そういえば、オレオ様が訓練をされていましたよ。お声をかけしませんか?」


 不意に意識が覚醒していく。

 

 オレオ? 最近、彼女が戦っている姿をちゃんと見ていない。

 洗練された技術と、唯一無二の美しさ。

 

 賢さは知らないが、それでも学園に通えている時点で優秀な人物だ。


「いいのか?」

「なぜですか? 私はレオガオン様の望みを叶える存在であり、男性を支える存在です。レオガオン様がオレオ様に好意を持たれているのは知っております。ですから、成功するための手助けをさせていただきます」

「ああ」


 俺様は、メリッサの優しさに全てを委ねている。

 なんと心地よく、なんと気配りができる女だろうか? メリッサほどの女性に出会ったことがない。


 男性を心から支え、崇め、優先してくれる。


「なら行こう。もうすぐパートナー戦だ。オレオを俺様のパートナーにしなければ」

「そうですね。その前に準備をいたしましたので、どうぞこちらへ」


 いつもとは違う制服に、いつもとは違う場所で、俺様はメリッサのいう通りにオレオを待った。


 オレオは恥ずかしそうに槍を隠しながら近づいてくる。

 彼女の真髄といえる槍を見て、意識がはっきりと覚醒した。


「久しいな、オレオ」

「はい! レオガオン様におかれましてはご機嫌麗しく」

「そのような堅苦しい挨拶はいらぬ。単刀直入に告げる。改めて俺のパートナーなってほしい。今度は優勝などという重荷をオレオに背負わせない。ただ、俺様のパートナーとなってくれるだけでいい」

「……わかりました。ですが、私は勝利を大切だと思うことはありません。それだけはご理解ください」


 彼女が頭を下げて、俺の手を取ってくれる。


 とても嬉しい。とても嬉しいはずなのに、どこか心にモヤモヤしているように感じる。

 彼女の手を握っているはずなのに、別の誰かの手を取ったような違和感を覚える。


「オレオ?」

「はい? レオガオン様?」

「いや、なんでもない。これからよろしく頼む」


 オレオに問いかけると、少し疑問系で可愛く首を傾げる。

 普段通りだろうか? もっと俺様に対して冷たい印象で、だからといって話しかけたら、彼女はとてもいい人だった。


「はい! それでは失礼します」


 あっさりとパートナーとしてペアを組んでくれた。


 本当だろうか? だけど本当なら嬉しい限りだ。


「今後ともよろしくお願いします」

「あっ、ああ」


 あっさりと、それでいてどこか怯えている様子で、返事をするオレオ。


「さぁ残り一人を見つけて、パートナー戦に挑みましょう」


 それから数日が過ぎて、メリッサが可愛い女性を連れてきた。


「こちらは?」

「私の友人で座学クラスに在設しております。私が魔導クラス。オレオ様が武術クラスですから、バランスの良いチームです」


 メリッサが紹介してくれた女性はとても愛らしくて、親睦を深めるように伝えてきた。


「そうか、あとは全てメリッサに頼む」

「はい。お任せください」


 知らない名前の女性が加わって、パートナーとして登録がなされてた。


 不意に、アンディの顔が浮かんでくる。


 朝に何度か声をかけられたが、メリッサとの約束があって話ができていない。


「どうかされましたか?」

「えっ?」

「何か考え事をされておられたのようなので、喉が渇いたならをどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 甘くて美味しい飲み物を飲み干すと眠気が襲ってきた。

 もう何も考えたくない。


「今はゆっくりとお休みください。もちろん、レオ様の不利益になることは一切ありません。多くの快楽と幸福をあなた様にお届けするだけでございます」


 メリッサの声は心地よくて、身を委ねてしまう。


 全ては夢の中の出来事だ。

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