第50話 ツレに彼女ができた?

 最近、レオの付き合いが極端に悪くなった。


 今までは寮に帰れば、夕食を一緒に食べたり、学園に行く際には一緒にいったりしていた。それなのに、夕食時の時間には戻ってこない。朝は女生徒と共に登校しているようだ。


「いきなり変化すると寂しく感じるな」


 レオのパートナーになってくれる女性が決まったのは嬉しいが、俺としてはないがしろにされるとは思っていなかった。


 レオのことだから、彼女が出来ても今までと変わらないと思っていたのに、意外な結果になったと思ってしまう。


「あれ? アンディ。一人?」

「マシロ、久しぶりだな」

「そうだね。最近はなかなかお話ができる機会がなかったね」

「ああ、お互い学園に入ってからは忙しくなったからな」

「うん。そうかも」


 久しぶりに朝の登校でマシロを見つけて声をかけたが、遠目では見ていたので、俺としては実はそれほど久しぶりには思っていない。

 だけど、マシロと話をするのは久しぶりなので、幼馴染の女子が少しだけ遠い存在になったような寂しさを感じる。


「レオの奴もパートナーが決まってから、何かと付き合いが悪くなってんだよ」

「それは仕方ないんじゃないかな?」

「えっ?」

「みんな成長しているんだよ。私たちは確かに幼い頃に出会って、冒険をして、訓練をして、過ごす時間が長かったけど、今はそれぞれの道に進んでいるからね」


 マシロの発言は一年前とは違って、少し大人っぽい言葉に変わっている。

 それは、彼女の成長なんだろうな。


 クロード王子からパートナー養成をもらったということは、野外学習で上手く好感度を上げることができたんだろう。


「そうか、それぞれの道を進んでいくか。少し寂しくはあるけど仕方ないんだな」

「寂しいの?」

「ああ、俺にとっては、レオも、マシロも特別な存在だって思っていたからな。自分だけなんだと思うと寂しいな」


 俺の言葉を聞いて、マシロが足を止める。


「うん? どうかしたのか?」

「ねぇ、アンディは私たち三人がどうなるのが良いと思っているの?」


 いつも明るくて俺たちのムードメーカーだったマシロにしては、珍しく真剣な顔をして問いかけてきた。


 だから、真面目に考えて答えを返さないといけないと思ってしまう。


「そうだな。レオは少しバカなところがあるから、支えてくれる女性と付き合ってほしい。マシロはどんどん綺麗になって、強くもなっていくと思う。そんなマシロが、どんな男性を選んでも応援してやれるように準備をしたいって思っているからな」

「アンディは変わらないね。いつも自分のことよりも、私たちのことを考えてくれている」


 マシロは諦めたような大きな溜め息を吐いた。


「アンディ、確かに私たちは仲良しだったと思う」


 仲良しだった?


「だけど、学園に来て付き合う人が変わって、お互いの時間が大切になっていく。多分、パートナーになった人に不信感を持たれたくないから、他の異性とはあまりお話をしない方がいんだと思う」


 恋愛の機微キビとでも言えばいいのだろうか? 俺よりもレオやマシロの方が先に成長してしまって、俺は気づけていないだけなんだろうか?


「マシロに話しかけるなってことか?」

「そうだね。パートナー戦が終わるまでは、その方がいいかも。きっと、アンディが選んだ女性たちも私と話していると良い気分にはならないと思うから」

「……ハァ、わかったよ。ただ、これだけは言わせてくれ。俺は二人のことを大切に思っているから、何かあればいつでも相談してくれよ」

「うん。ありがとう」


 マシロに言われたことを自分の中で意識して、俺はマシロから離れるように歩き出した。


 マシロも魔導クラスに向かって歩き出す。


 三人の道は本当に別れてしまうのか? 今でも俺はレオの親友で、マシロの友人だと思っている。


 だけど、乙女ゲームの世界で恋愛を重視する登場人物たの思考に、友情を大切にしたいと思う俺の考え方が間違っているのかもな。


「あっあの!」

「えっ? やぁ、トゥーリ。おはよう」

「はっはい! おはようなのです」

「声をかけてくれるって珍しいね。嬉しいよ」

「ハウゥ! 眩しいのです! 朝から優しいのです!」

「うん? どうかした?」


 何やら小さい声でブツブツと呟いているので聞こえない。


「アヒャ! いえ、なんでもないのです。だけど、アンディウス様がとても悲しそうに見えたので」

「ああ、心配して声をかけてくれたのか。ありがとう、うん。ちょっと悩んじゃってね。そうだ、トゥーリ」

「はい?」

「ちょっと俺に付き合ってくれない?」

「えっ? でも、今から学園が」

「少しだけならいいだろ? 午後には戻るからさ」

「わっ、わかりましたのです! 今日は午前は、実技で自主訓練ですから」

「よし! なら行こう!」


 俺はトゥーリの手を取って走り出した。

 街にいくわけにはいかないから、広大な学園の敷地内で見つけた隠しスポットにトゥーリを連れていく。


「手っ、手が…」

「うん?」

「なんでもないであります!!!」


 俺はトゥーリの手を取って学園をサボることにした。


 たまには気分転換が必要だよな。

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