第48話 それぞれが歩む道

 パートナーを三人決めたことは、すぐに学園中に広まっていった。

 それも俺が一番最初に三人を決めたことに関係しているようだ。


「おい、ミルディン! お前、カグラ王女のパートナーになったようだな」


 そういって声をかけてきたのは、ブルーム・ハーラー・マックーロだった。

 ブルームは、クロード王子に恋焦がれるカグラ王女に対して好意を抱いている描写がゲーム内でもあったので、難癖をつけてくるかと思ったが、案の定だ。


「ええ。そうなんです。カグラ様からお声をかけていただきました」

「カグラ王女様から? ふん、どうせ媚びて懇願したのだろう!」

「そうなのかもしれません。普段からだらしなくしている僕を見て、お優しいカグラ王女が心配してくれたのだと思います」


 相手の言葉を否定してもバカを見るだけだ。

 ならば、肯定した上で皮肉を言ってやればいい。


「ふん! 貴様のような者にカグラ王女は相応しくない。我と代われ」

「あ〜、申し訳ない。それはできません」

「なんだと!」

「ブルーム様も、三名とパートナーを結んだことを聞いて、声をかけられたと思います。つまりは、すでに三人がパートナーとして登録されて公式な情報として確定してしまいました。それに登録した相手を今からキャンセルと伝えるのは不義理に当たると思います」

「うっ!」


 ブルームは狡賢い人間であると同時に正論や、事実に基づいたことは覆せないと理解する頭の良い人間だ。

 下手に小細工した方が足元を掬ってくる相手には、事実を淡々と述べるのが一番手っ取り早い。


「申し訳ありませんが、取り消しを行うのであれば、カグラ様の同意をマックーロ様が取っていただけないですか? 僕にはとてもそんな恐ろしいことはできないので」

「ふん、もういい。このかりは絶対に返すからな」

「いやいや、僕なんてマックーロ様に勝てるはずないじゃないですか。むしろ、手加減をお願いします」


 のらりくらりと受け流していると、ブルームは呆れた様子で立ち去っていった。


「大丈夫か?」

「レオか、ああ問題ない。マックーロ様からパートナーを譲れと言われただけだ」

「何? そんなことを言ってきたのか?」

「まぁ、男の方にも好みがあるから仕方ないことだろう。男女の同意が得られなければパートナーとして組むことはできないのだからな」

「それはそうだな。女性が優位だと言っても、男にも選ぶ権利を残してくれているんだ」


 レオは握り拳をして、どうやらパートナーを組みたい女性がいるようだ。


「それで? レオはどうなんだ?」

「うっ!」

「マシロは、クロード王子のパートナーとしての申し出を受けたようだぞ」

「ああ、わかっている。俺様たちも、もう子供じゃないんだ。それぞれの道を行く時が来たのだろうな」


 レオにしてもは珍しく成長した言葉をいうものだ。


「レオはパートナーにしたい女性がいるんだろ? 手伝ってやろうか?」

「アンディ、それはダメだ。俺様が相応しいと思った女性に、アンディの協力を得てパートナーになってもらっても意味はないだろ」

「そうか、なら頑張れよ」

「おう!」


 俺はレオと別れて、口角を上げてしまう。

 

 悪役貴族になるはずだったレオが自分の足で女性を口説きに行くのだから、成長と言わずになんと呼べばいいのか。


 頑張れよ、レオ!



《side レオガオン・ドル・ハインツ》


 俺様はやっぱりオレオとパートナーを組みたい。

 一ヶ月後に行われるパートナー戦。


 そこでは男性と女性がタッグとなって戦いを行う。

 戦うのは主に女性だが、それを支える男性として、俺様はオレオを支えたいと思った。


「オレオ、少し話をしてもいいか?」

「えっ?」


 いつもの手合わせだと思った様子で武器を構えるオレオ。

 そんなオレオに俺様は、パートナーになって欲しいと申しでる。


「オレオ、俺様のパートナーになってくれないか? 戦い方を知っているオレオとなら優勝が狙えると思うんだ! 頼む」


 俺様は右手を差し出して、握手を求める。

 この手を取って貰えばれば、オレオとパートナー組むことができる。


「ごめんなさい!!!」

「えっ?」

「私には、レオガオン・ドル・ハインツ様のパートナーを組む責任が取れません」


 完全に拒絶をしたオレオは、脱兎の如く逃げていく。


 何が起きたのか分からなかった俺様は呆然と、その姿を眺めることしかできない。


 周りではヒソヒソと女生徒たちの声が聞こえてくる。


 まるで自分が笑われているような恥ずかしい気持ちになってくる。


 なっ、何が起きているんだ? どうして俺様は拒絶された? 荷が重い? どういう意味だ? 優勝したいって言ったのが、オレオにとっては重荷だったのか? いや、彼女の槍術なら優勝が狙えるだろう。


 俺様は間違った選択をしていないはずだ。


 雨が降り出して、次第に生徒たちが姿を消していく。


 その中でも俺様だけは、どうしても動けないまま固まってしまっていた。


「俺様は振られたのか?」


 人生で経験したことがない絶望感に、心にポッカリと穴が空いたように感じて、トボトボと一人で帰る途中で、クロード王子と談笑するマシロの笑顔を見てしまった。


 最初から、マシロにパートナーを申し込んでいれば、こんな惨めな気持ちにならなかったのだろうか……。


 俺様はただただ呆然と雨の中を歩いて寮へ戻った。


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