第47話 パートナー候補

 最近は、学園の雰囲気が少しずつ変わりつつある。


 一年次の終わりが近づくにつれて、学園に入ってから鍛えた力を披露したいのだろう。

 この世界は女性が強くて、それを証明することで自分の価値を示すことができる。


 だからこそ、今回行われるパートナー戦は彼女たちとって大事な試合だ。

 男性の数が少ないこともあり、選ばれる女性は一人の男性に対して三人だけと決まっている。


 つまり、男性側は女性側から申し込まれた場合に選ぶ権利があり。

 男性側は自分を守ってくれる女性を選抜して、自分の好みとなる女性を選択できるわけだ。


 男性が優位な選択権を持つのは、女性にとっては魅力の一つを選んでもらったことになる。


 ここで選ばれた女性は、男性と結ばれる確率が高くなると言われている。

 女性たちの気合も高まるというものだ。


「あなた、パートナーをお決めになったのかしら?」

「えっ?」


 呆然と外を眺めているとカグラ王女に話しかけられた。

 パートナーのことを考えていたので、話題的に問題はないが意外だった。


 カグラ王女はクロード王子の三人に選ばれることが確定している。


「えっ、ではありません。決まっておられないのでしたら私が立候補して差し上げてもよくってよ」

「え〜と、クロード王子はいいんですか?」

「どうしてお兄様が出てくるのかしら?」


 俺が首を傾げると、カグラ王女も首を傾げる。

 

 あれれ? おかしいな。

 

 クロード王子とカグラ王女の兄妹ルートは王道ルートのはずなのに、どうしてこんなことを言ってくるのか理解できない。


「いや、カグラ様とクロード王子は仲がいいので、パートナーはクロード王子と組むのだと勝手に思っていました」

「そういうことですの。そうですわね。確かに私とお兄様はとても仲が良くて誤解されやすいでですわ。ですが、仲がいいからと言って結婚をするわけではありません。ですからパートナーはお兄様が好きな方を選べば良いのです」


 至極まとものことを言っているはずなのに、疑問を感じてしまうのは俺だけなんだろうな。これも俺というイレギュラーがいるからだろうか?


「それで? 私をパートナーとして選びますの?」


 カグラ王女を選べば、マシロにとってはライバルが減ることになる。


 これもマシロを助けるためだと思えば、アリなのか?


「ええ。カグラ王女がクロード王子と組むことがないならいいですよ」

「ふふふ、なんじゃそんなことを心配しておったのか? 愛い奴じゃのう」


 たまに出る老人言葉は、彼女なりの砕けた時にする話し方なのだろう。


「それではパートナーとし今後もよろしく頼むぞ。それとな、お主が他に決める二人もよければ紹介してくれれば、妾が世話をしてやっても良いぞ」

「それはまだ決めていないので、その時は頼むかもです」

「ふふふ、良い良い。お主と妾の仲じゃ」


 何やら上機嫌で何度も背中を叩かれる。


 カグラ王女は黒髪黒目の清楚系に見えていたが、どうやら中身はロリババアなのかもしれない。


「俺はいくところがあるので」

「うむ。行ってくるがいいぞ」


 機嫌が良くなったのはいいことだ。

 座学クラスを出た俺はフラフラと、魔導クラスに足を向けることにした。


 マシロの様子が気になったのもあるが、何度か目にしている内にどうしても気になる女性になってしまった。


「あら、どうされたのですか? アンディウス様」

「やぁ、キャサリン。トゥーリはいるかい?」

「トゥーリさんですか? まさか!」

「ああ、トゥーリにパートナーをお願いしようと思ってね」

「なっ! アンディウス様、それは聞き捨てなりません。私もアンディウス様のパートナーになりたいと思っているのに、どうして彼女が」


 一瞬、キャサリンの瞳が怪しく光ったように見えた。

 

 正直な話、人選は誰でもいい。

 パートナーとして戦うのに真面目に参加するつもりはないので、適当に敗北して終わっていればいい。

 男性の義務として、女性を支えるという学園の規則があるので参加するが、その大会での優勝などは目的にしていない。


「そうだったのか? なら、キャサリンも俺のパートナーになってくれるか?」

「なっ! よろしいのですか?」

「ああ、一人はカグラ王女が決まっていてね。あまりクロード王子や他の上位貴族と争う気はないんだ。適当に敗北してもらいたいけどいいかな?」

「……なるほど、本命はカグラ王女で、私とトゥーリさんは数合わせですか?」

「あっ、怒ったならごめんね。キャサリンが勝ち上がりたいなら、そこそこの順位までは付き合うよ」

「いえ、大丈夫です。アンディウス様のお気持ちが分かりましたので、是非パートナーとしてよろしくお願いします」

「そう? ならお願いします」


 俺が握手を求めるとキャサリンが握手を返してくれる。

 細くて小さな手を包むこむと、普段は真面目そうなキャサリンがしっかりと手を握ってくる。


「うん?」

「あっいえ、それではトゥーリさんにも声をかけましょう」

「ああ、頼む」


 キャサリンがトゥーリを呼んできてくれる。


「なんでありますか?」

「トゥーリ、俺のパートナーになってくれないか?」

「ふぇ? ふぇえええええええ!!!!!!!! ダッダメであります。我など足手纏いにしかなりませぬ」

「ああ、それでいいんだ。あまり本気で大会に参加するつもりはないから、トゥーリは戦うことが得意じゃないだろ?」

「ううう、はい。得意じゃないであります」

「だから、俺を助けると思ってパートナーになってくれないか?」

「……わっ、我で良ければ」

「ありがとう」


 つい、トゥーリに手を差し出して、抱きしめてしまう。


「あわわわわわわわあわわわわわわわあわわわわわわあ」


 慌てるトゥーリの柔らかさをしばらく堪能してから、離して三人を早々に決めることができた。


 

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