第45話 巷で爆発的な売れ行き

《sideある編集者》


 私はバーンズ文庫編集をしていて、今ほど興奮を覚えたことはない。


 名前も素性もわからない作家オトリ先生から、原稿が送られてきた。


 先生はある日、作品を私の元へと送って来られました。


 やりとりは原稿と手紙のみで、冒険者ギルドを介して慎重に行われています。


 作者について我々は全く感知できない状態で見た一作品目に度肝を抜かれました。


 作品のクオリティの高さだけでなく、女性たちを惹きつける内容に食い入るように見てしまったのです。


 我々はすぐさま契約を結んで作品の提供を求めました。

 

 どの作品もヒット! ヒット! の連続で、今作が五作品目になるのですが、今回もとんでもない一品が出てきました。


 この女性が多い世界の中で、男性同士のカップリングを思いつくとは恐れ入る天才です。


 それだけでも背徳的なのに、ピンクの描写が艶かしく、決して絵では表現されていないのに伝わってくる妖艶な雰囲気。


 触れ合ってはいないのに、妄想が捗ってしまう。


 このもどかしさがなんとも言えないプラトニックさと、こちらの想像力を掻き立ててくるのだ。


 「ハァー。今作品は、また女性たちの情欲を鷲掴みにしてしまうわね。タイトルはこちらで決めていいと言うことだったけど……」


 いつも読ませてもらった私の感性に合わせて、タイトルを付けさせてもらっている。


 毎度、作者様には満足いただいているから、今回も良い物を思いつきたいわね。


「やっぱり情欲、ピンク、妖艶、プラトニック……。《歓喜と恥じらいの間に》なんてどうかしら? このどうしようもないこれを読んだ読者の喜びと、作中で見せる二人の触れそうで触れない恥じらいが、もどかしくて切なさを表して、イケる! イケるわ!」


 私は早速お手紙を書いてタイトルと発売しても良いのか、お伺いをたてることにした。

 

 すぐに返事が来たので、すぐに出版にこぎつけて、販売を許可してもらうために女王へ献上します。


「これは!」

「いかがでしょうか、女王様。此度はわんぱく系銀髪美少年とミステリアス紫髪の少年が友情を育む話です。王国に住まう女性ならば、皆がこの友情の話に心から感動することでしょう」

「友情の物語?」

「そうです。傷を負った銀髪美少年を労って、ミステリアス少年が、傷を癒すために庇って戦うのです。傷を負った二人は、互いに触れ合うことなく立ち去っていくのです」


 私は女王が読まれた内容を要点をまとめてお伝えさせていただきました。

 民衆に広がっていく書物は教育の一環になりかねない。

 

 男性が、どのような存在なのか、教えるために男性同士の友情が尊く美しいことを知れる良い教材になれることを伝えなけれならない。


「……わかった。認めよう」

「ありがとうございます!」

「うむ。これは我に献上された物であるな?」

「はい! もちろんです」

「ならば良い。下がるがいい」

「はっ!」


 私は執務室から退出して、盛大にガッツポーズを取る。

 女王様のお墨付きがいただけた。


 もうこれで安泰だ!


 先生にお知らせして、発売開始になる。


 まだまだ書物は、高級品ではあるが、それでも貴族令嬢たちにはラブロマンスや、男性主人公は評判がよく。

 此度の親友同士のやりとりは、かなりの評判を呼ぶだろう。


「王都に住まう貴族だけで、1000は売れる計算だ。値段設定は高めで発売するぞ」


 普通の5ページ程度の画集が、銀貨10枚で取引される中で。

 オトリ先生が書いた書物は、金貨1枚、約100倍の値段で取引がなされる。


 金貨一枚で三人で暮らす家族ならば、三ヶ月は暮らせるほどの物価の中で、貴族の方々ならば、痛くもないだろう。


 必ず大ヒットさせて、先生たちに次の作品を書いてもらうために営業は欠かすわけにはいかない。


 そこで、私は一つの秘策を仕掛けることにした。


「どうも、此度は皆様に集まってもらったのは、軍資金の調達のためにご協力してもらいたいと思ったからです」


 私は黒いフードに仮面をつけて、自分の素性を隠している。

 さらに、ここに集まっている者たちは全員が黒いフードを隠して正体を隠す仲間だ。


 そう、ここに集まっているのは闇の結社に取り仕切る幹部たちだ。


 本当は情報調査のために参加していたが、こういう時に利用させてもらうことで、貢献しているアピールをする必要があるのだ。


「それで? なんですの?」

「皆さんの手元にある書物をまずは見ていただきたい」


 私は自慢の一冊を披露する。


 しばしの沈黙が流れ、集まってくれた者たち書物を読み終えたところで、私は声を出す。


「今後の資金源として、皆様にはこちらを広めていただきたいのです。いかがでしょうか?」

「……」


 全員が沈黙しているので、冷や汗が背中に流れる。

 

 そんな中で一人の使徒が手を挙げた。


「はい?」

「これはシリーズ化させるつもりですか?」

「出来れば、そうしたいと思っています。そこから軍資金を作ることも考えています」

「わかりました。私は賛成します」


 使徒の発言によって全員が挙手してくれる。

 つまり、女王だけでなく、闇の結社がバックアップしてくれて広げてくれることが決まったのだ。


 勝ち確キターーーーー!!!!



《sideキャサリン》


「ハァハァハァハァハァハァハァ、ふふっふふっふふふウフフふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 私はしばらく外に出られないほど、一冊の書物に心を奪われてしまいました。


「これは絶対にアンディ様です! 間違いありません!!! 誰がなんと言おうとこの少年はアンディ様をモデルにしております。私にはわかるのです!」


 これを書いた先生を私は支持します!


 顔はわからなくても必ず!!!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る