第41話 鈍臭い?

 野外学習を終えてから、チームを組んだことがある女生徒とは、少しだけ話をするようになった。


 授業をサボる際に、マシロ以外のところに行くようになった。


 キャサリンがいる魔導クラスを眺めていると、瓶底ビンゾコメガネに明らかに魔法の杖だと言わんばかりの大きな木の杖を持った魔女っ子に目が止まってしまう。


 他の女性たちとは動きが全く違う。


 明らかに鈍い。


 この女性が強い世界で鈍臭くて、動きが遅いのは珍しくて逆に目立つ。


「アンディウス様、またサボりですか? カグラ様に怒られますよ」

「キャサリン、お邪魔しているよ。どうしてカグラ王女が出てくるのかわからないけど、俺は彼女のお世話係でも婚約者でもないからね、自由にさせてもらうよ」

「ふふ、そうですね。そう言えば、誰を見ていたんですか? 私を見てくれないので妬いてしまいます」


 楽しそうに笑っていたキャサリン声に、俺はもう一度鈍臭い眼鏡っ娘に視線を向ける。


「あの子だけ明らかに他の子と違って動きが鈍いなぁ〜て思ってね」

「ああ、トゥーリさんですか」

「トゥーリさんって言うんだね。名前も知らなかったよ」

「アンディウス様が気にするような子ではないと思いますよ。話し方も特徴的で、少しクラスでも敬遠されているので」

「敬遠?」


 ますます気になってしまう。


「話してみますか?」

「邪魔にならないかな?」

「アンディウス様を邪魔扱いする人はいないです!」


 何やらキャサリンのスイッチが入って、トゥーリさんを俺の前に連れてきてくれる。


「なななななな!!! なんでござんしょ?!」

「ござんしょ?」


 あまりにもヘンテコな口調にびっくりしてしまう。


「アヒャ! えっとえっと」


 戸惑い顔を赤くする姿も新鮮でちょっと見ていて面白い。


「うーん。ねぇ、トゥーリさんはメガネを外すとどうなるの?」

「はっ、はい! 全く何も見えませんです!」

「ならさ、その方が緊張しないかもね」


 俺は立ち上がってトゥーリさんのメガネを外す。

 瓶底眼鏡は、彼女の瞳を歪ませていたが、メガネを外すとクリクリとした美しい瞳が俺を見上げていた。


「わわわわ! 何も見えないのです! あっ、でもこれなら確かに緊張しないのです! ミルディン様! ありがとうございますなのです」

「あっ、ああ」

「もういいでしょう」


 キャサリンにメガネを取られて、トゥーリの顔に装着させる。


「あわわわわ、こんなにも近くにミルディン様がいるであります!」

「トゥーリさん。もう大丈夫ですから授業に戻って」

「はっ、はい!」


 立ち去っていくトゥーリの背中を追いかけてしまう。


 あっ、コケた。


「アンディウス様は、あのような子がタイプなのですか?」

「うーん、正直わからないかな」

「わからない?」

「うん。鈍臭いから気になるっていうか心配には思うよね。キャサリンって凄く優秀そうで、なんでも出来そうだから」

「むっ、む〜、私だってたまにはミスをすることもあります。川に落ちたことですし」


 何やらキャサリンが頬を膨らませて、ブツブツと言っている。

 俺の意識はキャサリンよりもトゥーリに向いてしまう。


 なぜか、凄く気になってしまうのだ。



《sideトゥーリ》


 あわわわわわ、アンディ様が我氏に話しかけてくださったのです。

 しかも我氏の顔に触れてメガネをお取りになられました。


「トゥーリ? どうかしたの?」

「一生の記念日にしようと思うのです!」

「えっ? 何かいいことがあったの?」

「我が生涯に一片の悔いなしなのです」


 我氏は部屋の天井に拳を突き上げて、今日の出来事を胸に刻んだのです。


「ふぅ、なんなのよ。今日もレオ様が私に話しかけてきたから、自慢しようと思ったのに」

「ふふふ、もうオレオ氏に負けぬ出来事を、我氏も手にしてしまったのです」

「どういうこと?」

「ふふふ、聞くが良いのです我氏のターン! 召喚する派、アンディ様のメガネ外し事件!!!」


 メガネを外される瞬間に、至近距離でアンディ様のご尊顔をマジマジと見てしまったのです。


 本当は、私はレオ様派だったのです。


 ですが、あの距離であれだけ美しい顔を見せられて、もうレオ様派には戻れないのです。今日から私の心はアンディ様一筋に染められてしまったのです。


 これは仕方ないのです。


 友人のオレオ氏は、最初はアンディ様派だったのに、抱き止められてからは、レオ派になってしまったのです。


 特定の異性に、至近距離で優しくされて落ちない女はいないのです!


 ましてや、陰キャで、優秀でもない我氏にとっては奇跡のような出来事だったのです。


「ちょっと待て、アンディウス様は貴殿の瞳を見たのか?」

「そうであります!」

「それは……大丈夫なのか?」

「む〜多分大丈夫なのです。普段から、男性と接する機会がなかったので、今まで使えたことがないのです」


 大袈裟なのです。

 これまで一度も使ったことがないので、大丈夫なはずなのです。


「それならばいいが、貴殿の瞳は《魅了の魔眼》だからな。無闇に男性に見せてはいけないぞ」

「わかっているのです。ですが、アンディウス様は平気な顔をされていたのです。きっと私のような魔力が低い者では魅力も上手くでないのです」


 それにもしも魅了されてくれるなら、最高なのです。

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