トライアングル

第40話 レオの好きな人

《sideレオガオン・ドル・ハインツ》


 アンディから、何度も好きな人はいないのかと言われて顔が浮かぶ女性がいないわけではない。


 武術クラスになった際に初めて、彼女の舞を見た瞬間に心奪われた。


 普段は、メガネをつけて大人しい印象がある女性なのに、一度槍を持ったならその動きは洗礼されて何者も寄せ付けない美しさを放つ舞武に心を奪われた。


 だが、俺に声をかけてくれる女性たちと違って、男性への興味がないように思えるほどに距離を取られて冷たくあしらわれる。


「オレオ、今の舞武素晴らしかった」


 一度彼女の舞武があまりに綺麗なので、声をかけた事があるのだ。

 

 その際に彼女から帰ってきた答えは……。


「そうですか、それがハインツ様にどのような関係があるのかわかりませんが、目に留まったならよかったです。それで」


 他の女性たちは褒めれば、喜んだ顔見せる。


 俺様に対して、適当にあしらってくるマシロですら褒めれば喜ぶのに、オレオは一切興味がない態度で立ち去ってしまった。


 その態度があまりにもそっけなくて俺様が何か嫌われることをしたのかもしれないが、悲しくなってしまう。


 そんな日々が過ぎている時だ。


 オレオが珍しく立ち合いでミスをした。


「やっ!」


 槍を振るう姿に精彩を欠いて、目元には隈が出来ていた。


「危ない!」


 倒れそうになるオレオを抱き止める。


「大丈夫なのか?体調が悪いなら休んでいた方がいい」

「さっ、触らないで!」

「えっ?」


 強い力で払い除けられる。


「あっ、ごっごめんなさい」


 そう言って走り去っていくオレオ。

 周りの女性たちはそんなオレオに対して怒りを発していたが、俺様は初めて抱いたオレオの細さにびっくりしてしまう。


 あれだけの美しい舞武を生み出す女性が、細く柔らかい。


 しかも慌てて謝罪を口にする姿も心から、詫びているのが伝わってきた。


「皆の者よ。俺様は気にしてない。オレオもどこか体調が悪かったのであろう。どうか怒らないでいてやってくれ」

「お優しいのですね」

「皆が喧嘩する姿など見たくはないからな」


 俺様の言葉に女性たちは納得してくれた様子で、その後を追求する者は

いなかったことに安堵する。


 だが、やっぱり気になってしまうのだ。



《sideオレオ》


 私の家は昔から剣術や槍術の道場を開いていた。

 そんな家の中でも私は才能があり、母からは期待されて学園への入学を認められた。


 しかし、私が本当にしたいのは槍術ではない。


 私は本当は……。


「おや、オレオ氏。どうされました?」

「トゥーリ!!!」


 平民は寮の部屋が同室で、私は部屋に帰ってきて、同室のトゥーリに抱きついた。


「なっ、ななななな何をするでありますか? 我女性を好きになる性癖はないでおじゃる。むしろ男同士がくんずほつれつ淫らにぐへへへへへ」

「ヨダレ出ているわよ」

「はっ! つい、妄想に耽ってしまったであります。そんなことよりも我の貞操を狙われておられるのであればお断りするであります」

「そんなことしないわよ。そんなことしないけど……レオ様に触れられてしまったの」

「なっ!!!」


 私と同じくメガネをかけているトゥーリのメガネがキラリと光る。


「そっ、それは肌と肌が触れ合ったということでありますか?」

「ええ、ちょっとここ最近の徹夜のせいで眠くてふらついた際に、レオ様が近くにいてふらついたところを助けていただいたの」

「フォーーーーーーーー!!!! 紳士!!! 紳士なのです!!!」 やっぱり、レオ様とアンディ様は他の方々と一味も二味も違うであります! 女をそのように助けて、かっこよく決められるなど、あのお二人しかいないであります!」


 興奮するトゥーリを放置して、私は自分のベッドに横になる。


 そして、レオ様に触れられた場所に自分の手を重ねる。


 熱い。


 ううん。そう思うだけ、本当はレオ様の美しい顔と、あの鍛え抜かれた剣タコの感触がお腹に残っていて、ヤバい!!!


 クラスで一番のイケメンが私を抱いた!!!


 しかも優しく大丈夫って声をかけてくれて……。


 恥ずかしく話せるわけないでしょうがーーーーーー!!!


「ふふふ、オレオ氏荒ぶっておられますな。それも仕方ありますまい。我らがレオ✖️アンディのカップリング王子様は幻に見えるほどの至高の存在。そんな方に触れられたのです。いいでしょう。三日三晩風呂に入らなくて噛み締めるのもありでしょう」


 トゥーリはお風呂を嫌っている。


「いや、普通にお風呂には入るけど。でも、幸せってこういうことを言うのかな? もしかしてあれだけ優しいからレオ様は、私が好き? 私って惚れられている」

「オレオ氏……」

「うっ、わかっているわよ。そんなことないって。平民で武術ばかりの脳筋で、漫画作りが趣味なコミュニケーション能力が皆無な私が愛されるはずないって」

「いえ、普通にオレオ氏は美人なので、ありだと思うであります。それにそれだけオレオ氏に特別優しいのです。これはワンチャンありですな!」


 トゥーリの推測に一気に顔が赤くなって体が熱くなる。


「くくく、見ものですな。陰キャのオレオ氏が、キラキラ王子様キャラであるレオ様に口説かれる。くくく、我も捗るであります!!!」


 私はオーバーヒートして、そのまま意識を失った。


 三日寝ていないのはやっぱりダメだ。頭がおかしくなる。

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