第37話 演習 終
川沿いを上流に向かっていけば、丘の上にたどり着くことができた。
キャサリンと水汲みをした経験が役立ってくれたようだ。
見覚えのある景色になり、自分たちがテントを張った場所を見つけることができた。
俺がいなくなったことで、カグラ王女以外のメンバーは慌てて周囲を探してくれていたそうだ。
魔導騎士たちにも連絡がいって、盗賊に誘拐されたのではないかと言われていた。
なんとか無事に帰ってくることができてよかった。
俺たちは事情を話して、キャサリンの体調不良によって川に落ちた話から、帰還するまでの経緯を話した。
説明を終えた俺たちは少しテントで仮眠をとってチェックポイントへの確認をしないまま期間を許された。
此度は盗賊の襲撃に対しいて、魔導騎士たちが後手に回って深くをとったこともあり、学生たちは無事に生き延びたことを褒められた。
ただ、犠牲者や負傷者も数名は出たので、今後の方針は学園側で話し合いが行われるようだ。
♢
野外学習を終えた俺は、レオと向き合いながら、盤上ゲームに勤しんでいた。
「それで? なんなんだそれ?」
「知らん」
テントで眠りについた後も離れることなく、なぜか俺の顔にまとわりについていたムササビの魔物を連れて帰ってきてしまった。
「テイムはできていなのか?」
「先生に聞いてみたが、誰にもテイムはできていないが、俺との結びつきは強くなっていると言われたよ。普通に懐かれたらしい」
「そういうこともあるのか?」
「さぁな。まぁ害がないならいいさ。先生の話では稀に魔物の方が主人を決めてついてくる場合もあるそうだ」
頭に乗って寝ているムササビを捕まえて、手のひらに乗せて問いかける。
「お前は俺の味方でいいのか?」
問いかけに頷くように体を使って首を縦に振る。
「そうか、なら名前をつけるとしよう」
「おい! 大丈夫なのか?」
「大丈夫な気がするんだ」
「お前は全く相変わらず不思議な奴だな」
レオに見守られながら、俺は名付けを行う。
「お前はキュって鳴くから、キュキュだな」
「また安易な」
「えっ?」
「うん?」
名付けを行うと、俺とキュキュの体が光を帯びて繋がったような感触がする。
「おい! 今のって」
「どうやらテイムが出来たらしい。もしかしてこいつはメスか?」
「マジかよ。魔物も女なら魔法を使えるのか?」
「知らん。ハァー、とにかく続きをしよう」
俺はキュキュを頭の上に戻して、盤上ゲームに視線を落とす。
白と黒の単純な陣地取りゲームだが、奥深くて最近のお気に入りだ。
この世界で囲碁ができるとは思わなかった。
「なぁ、レオ。学園はどうだ?」
「なんだ藪から棒に。そうだな。楽しめていると思うぞ」
「そうか、好きな女は出来たか?」
「なっ!」
黒石を持っていた手がズレてレオの打つ場所が失敗する。
「あっ!」
「なんだ。手加減してくれるのか? 今の所、俺が全勝なのに優しいじゃないか」
「くっ! 打ち間違えた。お前が俺様の気を逸らすようなことを言うからだろ!」
「何をそんなに動揺する? 俺たちは成人を迎えて学園を卒業すれば、好きな女性とクイーンバトルに挑むのか、それとも大勢の女性を相手にして悠々自適な暮らしをするのか決めなくちゃいけないんだぞ」
大きなレオの陣地が崩れたことで形成は一気に決まってしまった。
「わかってるよ! くそ、参りました」
「どうする? まだやるか?」
「いいや、何度やってもアンディには勝てる気がしない! 俺様はやっぱり剣が一番だな。今回の盗賊とも打ち負かしただぜ」
「守ってくれてたチームメイトに止められなかった?」
「最初は俺様も我慢してたんだけどな。あのブラックウルフが出たからな」
ブラックウルフは全部で五体出て、被害もあったようだ。
レオとマシロは上手く対応して見せたようだが、ブルームのチームには被害が出たようだ。
「頭目は結局捕まらなかったのか?」
「そうみたいだな。かなりの強さだったらしいぞ」
レオは近くて戦っているのを見たそうだ。
魔導騎士団団長と戦っている光景は圧巻だったと話してくれた。
「そうか、俺も見たかったな」
「アンディは、これからもベリベットを警戒しながら生きていくのか?」
「ああ、それを変えるつもりはないさ。油断した瞬間に闇に引き摺り込まれる恐れがあるからな」
厄災の魔女がストーカーとか笑えない話だ。
それならまだカグラ王女の方が可愛く見えると言うものだ。
「冒険者で実践を積んだつもりだったが、盗賊と戦ってわかった。俺たちはまだまだ弱いな」
「ああ、やっぱりこの世界で最強は魔女だ。彼女たちに勝てるほどの力がいる。俺たちは師匠のようにパワースーツの力を100%は使えていない。厄災の魔女に対抗するためにも、まずはそこからだ」
「ああ、そうだな」
俺は白石を持ち上げて、盤上に一手を指した。
中央にある天元と呼ばれる場所に打ち込んで、そこから盤上を睨む。
誰が味方で、誰が敵なのか、ハッキリとはわからない。
今、頼りにできるのはレオとマシロだけだ。
その上で、俺は自分にできることに頭を捻って挑むだけだ。
「それで? 好きな女はできたか?」
「なんで真面目な話をしていたのに、その話になるんだよ!」
相変わらず、レオを揶揄うのは楽しい。
やっぱりこいつの親友でよかったな。
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