第35話 演習 4
俺は一年前よりも進化したパワースーツを纏った。
初めて着用した時は羽根しか出せなかった。
だけど、今の俺は手足にもパワースーツを着用できるようになっている。
これによってパワースーツの力を3割ほど使用できるようになった。
「カグラ王女!」
「あなたその姿は!」
「そんなことは今はいいだろ! 協力して倒すぞ」
「何を偉そうに言っていますの! あれを倒せると?」
「カグラ王女ならできるだろ?」
「なっ! ふん、好きに言ってくれるじゃありませんの。ですが、言われてできないとは言えませんわね」
カグラ王女はスペックで言えばマシロと変わらない。
むしろ、子供の頃からの英才教育で鍛えられている分、今の能力はマシロよりも高いぐらいだ。
もしも、この世界に悪役令嬢なんて言葉があれば、彼女がそれに該当するのだろうな。
「俺が奴の気を引くからデカい一発を頼むぞ」
「男のあなたがタンクの役目を?」
「ああ、俺を信じろ」
「いいでしょう。皆さん! 彼のサポートを! 周りの盗賊に気を抜かないでください」
俺はカグラ王女の前に出る。
他の女子たちでは、ブラックウルフの対応をするのは荷が重い。
だが、レオとマシロの三人で冒険者をしていた俺は、他の子達よりもレベルが高くて魔物にも慣れている。
今から思うとアネモネ師匠の指導は厳しかったと思い知らされる。
「おい! ブラックウルフ、かかってこいよ!」
俺が挑発すると咆哮を上げる。
「ビリビリするな! 久しぶりだ」
アネモネ師匠が死んでから、俺はレオに自分の身を人前ではやる気のないように見せることを告げた。
それは厄災の魔女ベリベットから自分自身を守る術がそれ以外に思いつかなかったからだ。
一年間は隠れながらレベル上げをしていた。
学園に入ることで、教師やネームドキャラに会うことで、自分を高めながら対抗できる手段を探していた。
もしかしたらカグラ王女は、その筆頭になれる人物かもしれない。
マシロが誰を選ぶのかわからない。
俺としては悠々自適にハーレム生活を送りたいだけだが、ヤバい奴に狙われているのも事実だからな。
生き残る術は模索し続ける。
「WAOOOOーーー!!!」
ブラックウルフが襲いかかってくる。
鳳凰のパワースーツを炎を纏って、死を超越した存在になれる。
「不知火」
それは俺の存在を表しながら希薄にして、ブラックウルフを翻弄する。
「ギャウ!」
俺に向かって噛みつこうとしたブラックウルフが、炎に包まれる。
これを魔法と呼んでいいのかわからないが、成長するパワースーツは魔法に似た効果を発揮することができる。
「今だ!」
「ええ、わかっています! 漆黒なる力を我が声に応えて力を示せ」
カグラ王女は特殊魔法使いだ。
普段は強化魔法と自然魔法をベースに戦っているが、本気で戦う時は特殊魔法を使う。
「神卸し!」
カグラ王女の体に神が降臨する憑依魔法で、全魔法能力だけでなく身体能力も全てがアップしてステータスを向上させる。
「退きなさい」
「ああ。任せた」
俺はカグラ王女と交代して戦闘する場所を譲り渡す。
カグラ王女は、それまで苦戦していたことが嘘のようにブラックウルフを圧倒していく。
「凄い!」
武術クラスの者たちよりも鋭く。
魔導クラスの者たちよりも盛大に。
その力は見ている者を圧倒する。
「おしまいですわ」
ブラックウルフを討伐したカグラ王女をみて、残っていた盗賊たちが逃げていく
他の戦場でも一応の決着はついたようだ。
増員された騎士や学園の教師たちが森へと侵入を開始していた。
「ふぅ、なんとかなりましたわね」
「とっ」
フラついたカグラ王女を抱き止める。
「どうやらまだまだ鍛え足りないようですわね」
「あれだけの魔法を使ったんだ。今は休め。みんな見張り続けながら、先生たちが来るまでは警戒を解かないでおこう」
俺が声をかけると全員が頷いて、陣形をとったまま休息を取ることにした。
寝るわけにはいかないので、全員で固まって警戒を強めた。
しばらく続けていると、騎士たちがやってきて盗賊が撤退したことを告げてくれる。
「どうやら無事に戦いを終えることができたようだな」
「あなたには少し聞きたいことがありますわ」
「それは秘密だ」
「なっ!」
「男には多少秘密があった方がミステリアスでいいだろ。それよりも大きな力を使った代償で全身に筋肉痛が出ているのだろ? 今は休むといい」
俺はカグラ王女をテントの中へと連れて行って休ませた。
テントを出ると各々が緊張から解放されてリラックスを始めているようだ。
ふと、丘に一人で立っていたキャサリンが気になって近づいていく。
「キャサリン。さっきはありがとう。俺を守ろうとしてくれて」
声をかけた俺を見た瞬間に、キャサリンの瞳は光を失っているように見えた。
「どうして?」
「えっ?」
質問をされた瞬間にキャサリンに手を引かれて丘から転げ落ちていく。
途中でパワースーツを発動しようとしたが、その瞬間に二人の体は投げ出されて崖から川に落ちてしまう。
「キャサリン! 大丈夫か?」
抱き上げた彼女は意識を失っていた。
どうやら何かの魔術にかかっていたようだ。
仕方なく俺はキャサリンを抱き上げたまま、河岸を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます