第34話 演習 3
アネモネ師匠に指導を受けて冒険者を始めた日から、熟睡することがなくなった。
そのため、「敵襲」の声に目が覚める。
だが、このような野外学習で「敵襲」とはどういうことだろうか?
「いったい何が?」
テントの外に出ると、ダイアウルフという魔物を連れた女性の集団が、騎士や生徒を襲っている姿が、丘の向こうに見える。
暗くてハッキリとは見えないが、どうやら彼女らが敵ということだろうか?
「起きましたのね。どうやら盗賊の襲撃を受けたようですわ」
「盗賊?」
戦う力がありながらも、社会に馴染めない者たちで構成されている爪弾き者たちで作られた盗賊集団がいくつか存在する。
冒険者ギルドで掲示板を確認しにいくと危機を知らせる警告書なども張り出されていた。
だが、実際に見るのは初めてだ。
学園の生徒を襲う規模の盗賊集団は珍しい。
「ヒャッハー!!! ここに男がいるって来てみれば、本当に見た目がよくて若い男たちがいるじゃないか! お前たち存分に蹂躙してやりな!」
叫び声をあげている女性を見て、乙女ゲームに登場するネームドキャラに驚いてしまう。
「ブラット・タイガー!」
「ブラット・タイガー? なんですのそれは?」
「あの盗賊の名前だ。血を操る魔法使いで獰猛な戦士でありながら、強力な魔法を使う魔女だ」
クイーンバトルの強敵として登場する彼女は、この時代では盗賊をしていたのか。
「あれが頭目ということですの? あいつを倒せば襲撃は終わるということですのね」
「やめておけ。特殊魔法である血の魔法は強力だ。騎士たちがいるならそちらに任せた方がいい」
「それはどうでしょうか?」
「えっ?」
「ここまで入り込まれたということは、盗賊たちはすでに騎士への襲撃を成功させていると言っていいでしょう。それもダイアウルフを従えているということはテイム魔法を使える者が潜んでいる恐れがあります」
テイム魔法は魔物を使役することで使う操作魔法の一種だ。
俺も魔法が使えるなら使ってみたい魔法の一つだな。
あのダイアウルフを、モフモフしてみたい。
「皆さん。隊列を崩すことなく我が隊の宝を守りますわよ!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
宝?
「ミルディン様。大丈夫です。私が必ず守ります」
キャサリンに声をかけられて理解する。
隣にはカグラ王女。
後にはキャサリン。
前にはウスク。
彼女たちがいう宝とは俺のことを指しているようだ。
「おいおい、こんなところにいるじゃねぇか!」
盗賊の集団が、こちらに現れる。
幸い、ブラッド・タイガーはこちらには来ていないようだ。
奴が来ていたら、俺もパワースーツを使って戦いに参加する必要があると思っていたが、普通の盗賊ならカグラ王女が負けるとは思えない。
「盗賊たちよ! 我々が王国学園の生徒だと知ってのことですの?」
「当たり前だろ。この時期に男を連れてわざわざ外に出てきてくれるバカな学校なんだ。襲ってくれと言っているようなもんだろうが」
盗賊の言葉に、カグラ王女は笑みを作る。
「そうですわね。そういうことも想定して、多めのチーム構成を組んでいるのですから。さて、武術クラスの皆さん、敵の足止めをお願いします。魔導クラスの皆さん。敵の殲滅を! 容赦は必要ありません。リリー、ララ。私と共に臨機応変に」
「「はい!」 カグラ様」」
さすがはカグラ王女。
ゲームでは闇堕ちして登場するか、マシロのライバルとして登場する。
そのどちらでも高いスペックを持って戦闘を行える人物であり、この場ではブラッド・タイガーを除いては、カグラ王女と対等に戦える者はいないだろう。
戦闘が開始して連携の取れている学生たちが優勢な状態を保てている。
あちらはダイアウルフが三体と、盗賊が五人。
数ではこちらが有利だが、魔物は一体でこちら三人分の強さを思えば、カグラ王女の強さが理解できる。
武術クラスの三人も無理をしないで防御を徹底しているので、崩れないで済む。
何よりも、魔導クラスの三人が素晴らしい戦いをしていた。
女性同士の戦闘では、武術クラスは肉体強化系の魔法を得意としていて、魔導クラス。自然系、操作系、精神系が得意なことが多く。
戦い方に合わせて成長させる教育をする。
キャサリンは、精神系。
メリッサは、自然系。
アンジェラは、操作系。
それぞれ得意ジャンルが違うので、それを上手く連携させて敵を倒している。
そんな彼らの穴を埋めるのが座学クラスの三人だ。
彼女たちは座学クラスと言われるが、武術、魔導、どちらも疎かにすることなく、その上で貴族として政治を行うための勉強を強化させるために座学を受けている。
リリーとララは、具現化魔法師だったようで、二人とも似た拳銃を作り出して魔法を使う。威力に応じて拳銃の形を変えたり、属性を変えることで使える魔法効果が変わるようだ。
そして、圧倒的な力を見せるのはやはりカグラ王女だろう。
強化魔法と自然魔法をバランスよく使いこなして、体に纏わせた魔法によって攻防一体の戦いを見せながら、ダイアウルフを相手にしても負けない。
「くっ! なんなんだ、こいつら強いぞ!」
「おい! あれを出せ!」
奴らが劣勢を悟って、何かを仕掛けてきた。
「何か来ます! 警戒を!」
盗賊たちも魔法を使ってくるので、常に相手の先を読んだ戦いが必要になる。
それをカグラ王女は指示しながら戦う余裕すら持っていた。
本当に凄いことだ。
「WAOOOOOO!!!!」
そう言って現れたのは真っ黒な体をしたダイアウルフの進化種だった。
「なっ!」
「ブラックウルフですわね。厄介な!」
一体でチームを全滅させられる力を持つブラックウルフの登場に、流石にカグラ王女も表情を曇らせる。
「皆さん。あいつの相手は私がしますわ! 皆さんはアンディウスを連れて逃げてくださいませ!」
カグラ王女の覚悟に、チームメンバーが戸惑いを見せる。
その間にもブラックウルフが向かってくる。
「ミルディン様、こちらへ」
キャサリンが俺の手を掴んで、逃げようとする。
だが、俺はキャサリンの手をそっと離した。
「えっ?」
「キャサリン、ありがとう。だけど、大丈夫だ」
カグラ王女の覚悟は本物で、彼女をここで死なせるのは惜しい。
「不死の鳥よ炎と共に生まれ、何度でも甦れ。
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