第33話 演習 2

 演習の行程としては、学園から魔誘いの森に向かって行軍をする。

魔誘いの森に着くと野営地を決めて、テントで拠点を作り、周囲の調査を行って食事を取る。

 騎士団が周囲を警戒してくれているが、魔物の襲撃も考えられるために、見張りをしながら食事を行って、一晩を過ごさなければいけない。


 一夜を過ごすと、今度はチェックポイントに向かう。

チェックポイントにたどり着いた証拠を持って、学園に戻ると言うルートが決められている。


「と言うことですわ」


 魔誘いの森に向かう途中の行軍はカグラ王女の説明を聞きながら歩いて、彼女の説明はわかりやすいので退屈することはなかった

 

「皆さん、この辺りはいかが?」


 カグラ王女が選んだ野営地は、見晴らしの良い丘の上で、水場から少し離れているが、野営地としては申し分のない場所だった。


「良いと思います」

「うん。ここならいいかな」


 魔導クラスも武術クラスも、冒険者経験がある様子なので、カグラ王女の意見に対して反対することなく、テントの準備に取り掛かっていく。


 意外だったのは、カグラ王女もテントを張ることに協力して準備をしていた。

 さすがは女性が強く魔物がいる世界だ。

 野営や戦いに関しては全員が経験者であり、美しさ、強さ、賢さを大事にしているだけあって学園に通っている者たちは、全員が無駄のない動きを見せている。


 俺はテントを武術クラスのウスクが張ってくれているのですることがなく。

 キャサリンに護衛を頼んで水汲みと、料理を作ることにした。


「すまないな。一人で行動することは禁じられているんだ」

「いえいえ、護衛ができることが嬉しいので気にしないでください」

「そうか? 俺でよかったのかな? 他にも人気の男子がいるだろ?」

「とんでもないです!」

「えっ?」


 キャサリンから以外にも大きな声での否定を口にされて驚いてしまう。


「あっ、ごめんなさい。だけど、ミルディン様はご自身を下げる必要はありません。確かに学園の殿方は、どの方もカッコよくて、素晴らしい方々がおります。ですが、私はミルディン様の護衛ができて誇らしいと思っているんです」


 つまりは、俺の護衛を誇りを持って行いたいから、下げるなってことか。

 まぁそうか、自分の守る対象が他の男性よりも劣っているとは思いたくないよな。


「うん。ありがとう」

「いえ、それにチームで集まった際に、カグラ王女様が言われていましたが、ミルディン様はやる気がない人だから、みんなでしっかり助けてあげてほしいと言われていました」


 楽しそうに語るキャサリンは笑っていた。


「えっ? カグラ王女が? だから、みんな俺が声をかけると協力的な態度をとってくれるのか」


 カグラ王女には後でお礼を言わないとな。


「それだけではありませんが」

「よし、今日はちょっとだけ俺も頑張るよ」

「えっ?」

「少しだけ、このへんを散策してもいいかな?」

「もっ、もちろんです」


 二人きりで散策をしながら、俺は食べられるキノコや野草の採取をしていく。


 キャサリンは終始ニコニコとして優しい人だった。

 この世界の女性は少し傲慢で、男性を下に見ている人もいるが、貴族やある程度の教養を持っている女性は優しいのでありがたい。


「よし。これでいいな。キャサリン、ありがとう。そろそろ戻ろうか」

「はい。私も色々とできましたから、ありがとうございます」

「色々とできた?」

「はい。ミルディン様と二人で散歩が」

「そんなことで喜んでもらえたなら嬉しいけどな」


 キャサリンは本当に優しいな。


 テントがある場所に戻って、俺は汲んできた水の半分で、野草やキノコを洗って、残りを鍋に注いでお湯を沸かしていく。

 キャサリンが組んでくれた水はみんなの飲み水とした。


 野草、キノコ、干し肉とソーセージを、ナイフで切って鍋に入れていく。

 塩分は、干し肉から出てくれるので、ここで実家から持ってきていた味付け用のソースを入れてスープを作る。


 カレー粉とか、コンソメがあればもう少し味が整うんだけど、持ち運びできる味付けが醤油に似た味わいがあるブイヨンだけだったので、これを代用品として持ち歩いている。


「なんですの? いい匂いがしますわね」

「ああ、野営用の干し飯や干し肉だけじゃ味気ないだろ? だから、スープを作っているんだ。みんなにはテントや周囲の警戒を任せているからな」

「あなた、料理ができますの? 家庭的ですのね」

「家庭的ではないが、冒険者をしているときに暖かい食事ができるありがたみを知っているだけだよ」


 持ってきていた皿にスープを注いで、カグラ王女に手渡した。


「いただきますわ」


 色々な準備をしている間にランチには丁度良い時間になっている。

 見張の子達にも声をかけて、俺はスープを配っていった。


「美味しいですわ!」

「素朴な味ではあるが、普段から食べられる薬草や、キノコを勉強しておいて良かったよ」

「えっ? この食事は現地調達ですの?」

「ああ、さっき水を汲みに行った際にキャサリンととってきたんだ」


 俺がキャサリンの名前を出すと、キャサリンがこちらに頭を下げてくれる。

 素朴な味だが、暖かくて美味しいと思ってもらえたようだ。


「あなた良いお婿さんになりますわね」

「そうか? ぐうたらで寝てばかりだと思うぞ」

「ふふ、本当にそうなのか知りませんが、料理を簡単に作って出してくるなどポイントが高いですわよ」


 何やら好感度が上がったらしいが、俺としてはここまでの護衛と、テントを張ってくれたお礼なので、たいしたことはしていない。


 ランチをとった後は、チェックポイントや周囲の散策などをしている間に、夕方はすぐにやってきた。

 夜は残ったスープの出汁を使って、干し飯を入れた雑炊にして振る舞った。


「みんなそれじゃ休ませてもらうな」


 俺のテントを囲うように三つのテントが貼られて、それぞれが順番に見張りをしてくれる。俺は見張りをする必要はないと言われたので、テントで休ませてもらう。


「敵襲!!!!」


 誰の声だったのかわからないが、俺は敵襲の呼びかけによって目を覚ました。

 

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