第32話 演習 1

 野外学習の当日になって、集合場所に向かう。


 女生徒には、先にチーム分けと守るべき男性が告げられている。

 男性は自分を守ってくれるチームに行って、始めて選抜されたメンバーを知ることになる。


 俺を守ってくれるチームに辿り着いて、見知った顔に出迎えられる。


「よく来ましたわね」

「カグラ様?」

「ふふふ、あなたを守るナイト役を務めますわ。このチームのリーダーを務めさせていただきます」


 野営するために動きやすい姿で、スッキリとした胸元を張って、カグラ様がリーダーの宣言を行う。

 王族である以上は、血筋や能力的には問題はないが、学園から忖度がありそうなメンバーではある。


 俺を守ってくれるチームリーダーは座学クラスのカグラ様がリーダーを務め、カグラ様の派閥に属している女生徒が二人が入っていた。


 武術クラスから三名。

 魔導クラスから三名。


 合計九名で俺を守ってくれるそうだ。


 カグラ様以外に、知り合いはいるだろうかと顔を見れば、以前廊下でぶつかったショートモブに薄紫色の髪をした美少女がいた。


 乙女ゲームでは登場していないキャラだが、美少女なので覚えがある。


「ミルディン様、その節はご迷惑をおかけしました」


 俺が見つめていると声をかけてくれたのでありがたい。


「いや、俺の方こそぶつかってしまってすまない」

「此度は守護の任を務めさせていただきます。キャサリンです。それと友人のメリッサさんと、アンジェラさんです」


 魔導士三人組を紹介してもらって、三人とも魔女っ子風の衣装なのが可愛い。


「わっ、私たちもご挨拶してもいいですか?」


 そう言って防具をつけた武術組の三人がやってくる。


「はい。アンディウス・ゲルト・ミルディンです」

「イシキって言います」


 うん? イシキ? どっかで聞いたような?


「セエです」

「ウスクだよ」


 あっ、三人の名前を聞いて思い出した。


 レオと同じ武術クラスでレオをチヤホヤとしていた女の子たちだ。

 

 イシキさんが、槍使い。セエさんが剣と盾。ウスクさんは弓と短剣を使う。


「君たちはレオと同じクラスの?」

「はい! レオガオン様には色々と教えていただいています」


 名前を聞いたことがあるメンバーだったので、なんとなく親近感を持つことができた。

 全く知らない人間たちよりも、名前を聞いて親しみを持っていた分、彼女たちで良かったと思えた。


「随分と顔が広いようですわね」


 俺が全員と挨拶をしていると、カグラ王女が話しかけてきた。


「その方が俺は気が楽でいいよ」

「むっ、ふん。私が一番親しいと思っていたのですけど」

「それはそうだろ? この中では一番一緒にいる時間が長いしな」

「ふふん、そうでしょうとも」


 なぜか勝ち誇った顔をする。


 座学教室でいつも一緒な二人は、リリーさんとララさんと言って双子の姉妹だ。

 カグラ様のお付きをしていて、子爵家の出身だと自己紹介をしていた。


「それでは皆さん、野外学習に行きますわよ。私についてきなさい!」


 不意に他の集合場所に意識を向ければ、レオとマシロは別々のパーティーになっていた。マシロはクロード王子のチームに入ったようだ。


 意外にも王道ルートを進んでいるのだろうか? 俺の知らないところでマシロの交友関係は広がっているのかもしれないな。


「アンディウス。何を呆然としているんですの? 行きますわよ」

「ああ、俺はどこに行くのか知らないんだが、どこに行くんだ?」

「あなたはいつも寝てばかりだからそんなことになるんですよ。仕方ありません。私が教えて差し上げましょう」


 カグラ王女は、クロード王子とは違うチームになったのに気にしていない様子だ。


「ここから南に魔誘いの森と呼ばれる場所に向かうのです」

「ああ、冒険者時代に何度か行ったことがあるよ」

「まぁ、アンディウスは冒険者をしていましたの?」

「ああ、修行の一環でな」


 カグラ王女の相手をしながら、武術クラスの三人が先導してくれて、魔術クラスの三人が後方支援を担当してくれる。

 どうやら、俺が来るまでに隊列の取り決めなどはしておいてくれたようだ。


「いつもダラケてばかりだから、体を動かすのが嫌いなのかと思っておりまたわ」

「うーん、確かに体を動かすよりは頭を動かす方が好きだが、別に体を動かすのが嫌いじゃないぞ。ほら、体も鍛えているしな」


 俺はきていたシャツを捲って六つに割れた腹筋を見せる。


 レオとよくどっちの腹筋が凄いのか比べるぐらいには、鍛えている。


「なっ、何をしているのですか!?」


 俺がシャツを捲った瞬間にカグラ王女が顔を真っ赤にして、俺の腕を掴んでシャツを下ろさせた。


「えっ?」

「はっ、ハシタナイことをしないでください! あなたたちもよくぞ守ってくださいました」


 カグラ王女の言葉に従って周りを見れば、俺がシャツを捲ろうとした瞬間に、八人は囲いを作って外部から見えないようにバリケードを作ってくれていた。

 なので、俺の腹筋を見たのは、ここにいる九人だけだ。


「はは、ついいつもの癖ですまん」

「本当に! 恥じらいを持ちなさい! 男性なのですから!」


 それは男女差別だと思うが、確かに軽率だったことは認めないとな。


「本当に、ありがとうカグラ様」

「うっ、ふん。もういいですわ……良い物も見れましたし」

「えっ? すまない最後の方が聞こえなくて」

「なんでもありませんわ! あなたはしっかりと守られる自覚をお持ちになって」

「は〜い」


 九人の連携は完璧だったから、このチームならなんとか上手くやっていけそうだな。

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