第30話 野外学習
学園に入学して行われるイベントの一つとして、野外学習が存在する。
数名のパーティーで、森で一日を過ごすイベントだ。
序盤のイベントということもあり、マシロが仲良くなりたい男子生徒とパーティーを組んで、さらに親交を深めていく。
ゲームではマシロが選ぶことができるのが、現実の世界ではどうなるのだろう……。
「皆さんも知っていおられると思いますが、毎年この時期には課外学習を行います。課外学習では、十人の大きなグループを作ります。その中に男子生徒をお一人お迎えします。男子生徒を守りながら、野外で野営をしていただきます」
野営といっても、テントを張って外で寝るだけだ。
しかも九人の女生徒が、三人ずつ一つのテントを囲むように野営を行う。
さらに、その森は王国の魔導騎士団が守っているのだから、危険な出来事は滅多に起きない。
学園に入学した貴族の令嬢は、冒険者の経験が少なくて、野宿をしたことがない者も存在する。
それに対して、平民で学園に入学した者たちは、幼い頃から生活費を稼ぐために冒険者をしながら実践を積んでいる者が多い。
十人という数字は互いを牽制するために多めに設定されている。
少ない人数で抜け駆けが起きて、男性に危険があると学園側にも問題があると判断されてしまう。
生徒同士で牽制させることで、一人の男性を守るという意味がある。
野営や戦闘など、普段は交流しない者同士がチームを組むので、互いに知識の共有をして、相手の常識を学び、経験を積んでもらうために行われる。
「チームのメンバーはランダムです。座学クラスから三名。武術クラスから三名。魔法クラスから三名選出されます。どんな人と組んだとしても、活躍ができるようになってくださいね。そして、男性もランダムで振り分けられます。女生徒はしっかりと男性をエスコートしてください。男性は女性に守られ、共に過ごすことを勉強してください」
先生の話が終わって、数日が経てば。
開かれるイベントに向けて学園内では、誰と組むのかと話題に上がっているようだ。
「ご機嫌よう。アンディウス」
「カグラ様、ご機嫌よう」
カグラ王女との接し方を変えた日から、挨拶をちゃんとするようにした。
当たり前のことではあるが、人間とは慣れるものだ。
慣れた先にあるのは、飽きだ。
カグラ王女に対して普通に接することで、カグラ王女に特別な感情を抱くことなく俺と話しても他の男子と話しているのと同じだと思えば飽きるはずだ。
時間はかかるかもしれないが。ふふふ、完璧な作戦だ。
「あなた。またよからぬことを考えているのではなくて?」
「なっ! そっ、そんなことはありませんよ。俺はいつも通りです。それでは寝ます」
「それが普通ではないと、どうして気付かないのでしょうね?」
何か言われているが、窓の外を見るとマシロの姿が見えた。
座学を行う教室からは、武術演習場と、魔導演習場がどちらも見える。
そこに知っている者が現れれば意識が向けられてしまう。
マシロは、覚醒前なので、強化魔法を使って加速した体を使った戦闘訓練をしている。ランダムということはマシロが誰を攻略するのか、まだわからないということだ。
やはり、この世界は現実でマシロの思い通りに行くようなご都合主義はないってことだな。
ただ、気になるのは、厄災の魔女と闇の結社の動きだ。
この世界には女王を快く思わない。
男性主義を訴える闇の結社が存在する。
悪役貴族堕ちしたレオを裏から操る存在で、マシロの敵対者となる。
学園に入学当時から暗躍しているはずだが、未だにその影を掴むことができていない。俺としてはやる気がない様子を装って、他の生徒とは違う態度を取ることで釣っているつもりだが、なかなかひっかかってはくれない。
厄災の魔女ベリベットが俺を諦めるとは思えない。
それに、闇の結社の者たちは男性を崇める傾向にあり、邪神である男神を探していると言われている。
「随分と熱心に見ておられるのですね」
「えっ?」
俺が考え事をしながら、マシロを見つめているとカグラ様から声をかけられる。
「いえ、何も見てません。ちょっと考え事をしていて」
「嘘おっしゃい。あなたはいつもマシロさんを見ているじゃない」
「うん? マシロのことを知っているんですか?」
「なっ! はっ、話を逸らそうとしないで」
「いえ、カグラ王女に知られているなんて、平民のマシロにしては凄いなぁ〜って」
「何が凄いのですか?」
「いえ、カグラ王女に気にしてもらえるなんて、マシロも出世したものだと思って。冒険者の娘で、平民なので、気にも留めておられない存在でしょ?」
「うっ!」
何やら言葉を詰まらせるカグラ王女に、俺は視線を伏せて眠りにつくことにした。
「ちょっ! もう、あなただけですよ。そのような態度を取るのは!」
何やらブツブツといっておられるが、適当に相手をしていればいいだろう。
外を眺める視線から完全に授業を聞く姿勢(寝ている)をとって俺は先生の話に耳を傾けた。
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