第29話 幼馴染の二人
《sideマシロ》
子供の頃は、お父さんと二人でずっと楽しかった。
だけど、お父さんはもういない。
お父さんは私を守るために二人の幼馴染を作ってくれた。
学園に入学してからはあまり一緒にいられない二人。
幼馴染と言っても付き合い出したのは二年前からで、二人とも私とは違って貴族様で頭も良くて、礼儀作法も出来るから上品な雰囲気を持つ。
男性が少ない世の中で、男性と幼馴染だというと、同じ平民クラスの子達に羨ましいと言ってもらえる。
私はお父さんと暮らしてきたから、男性が少ないことは知っていたけど、男性と一緒にいることが当たり前で、今の方が戸惑うことが多い。
それに出会った頃の二人は、頼りない感じだった。
レオは、子供っぽくて剣術剣術とうるさかった。
全然強くないから戦っても面白くない。
アンディは大人びていて、戦闘では弱いくせに小細工ばかりしてくるから、あまり好きじゃなかった。
だけど、一年間お父さんの元で一緒に修行をするようになったことで二人は強くなった。
レオは剣術の才能をメキメキと上げていった。
魔法が使えないのが嘘のように体を使うのが上手くなった。
強化している私と剣裁きで対応してくるのだ。
アンディは、一年が過ぎてレオとは違う成長の仕方を遂げた。
お父さんが死んだことは自分の判断が甘かったからだと悔やんでいた。
私やレオと訓練するだけじゃ足りなくて、一人で隠れて勉強をしたり、私たちを守るためにたくさん気を遣ってくれている。
二年間、一緒に過ごしていたから二人のことがよく見えるようになった。
それと同時にあの二人は対極に見えるのだ。
レオは貴族らしい貴族だ。
自分を俺様と言って強く見せているけど、名誉を大事にしていて、剣と友人のことばかり考えているバカな奴。
勉強も出来て、礼儀作法も出来るのに、あまり人の心がわからない。
女の子は好きだから、色々な女の子に声をかけられては嬉しそうな顔をする。
だけど、お父さんが殺されてから、どこか人と一歩距離を取るようになって、大人っぽくなった。それは正しい道を歩もうとするようにしていると思う。
逆に、アンディはお父さんが死んでしまってから人が見ている前では決して真剣な顔をしなくなった。
いつも眠そうにしてやる気がない風している。
だけど、寝ているのに凄く頭が良くて勉強はレオよりもできる。
レオとは逆に人の機微を見ていて、気遣いもできる。
レオと同じなのは、女の子が好きとところだけど、レオが正しい道を歩めるように後ろから支える影のような動きを見せる。
光と陰。
正しい道を歩むレオと。
レオに正しい道を歩ませるために、陰に徹するアンディ。
とても不思議な二人の関係に私は守られていることを実感する。
お父さんが死んだ時、お貴族様は私を放り出すこともできた。
だけど、二人が私を一緒に学園まで連れてきてくれて、戦闘訓練や冒険者を続けさせてくれた。
「ねぇねぇ、マシロさんはどっちが好きなの?」
どうして幼馴染二人のことを考えているのか、それは最近クラスメイト質問される内容が二人の話題が多いからだ。
他にも男子生徒はいるはずなのに、二人は凄く目立っている。
レオが習う武術の授業で、剣術の腕前が高いことが評価されている。
最初は男性であることや、見た目の美しさが際立っていたが、剣術を披露してからは、女性たちから剣術の手合わせや練習、一緒に強くなってほしいと多くの女性に声をかけられている。
それを見たクラスメイトがいいのかと聞いてきた。
だけど、レオの印象は昔と同じで子供っぽくて、どこか弟のような感覚がある。
一緒に遊ぶのにはいいが男性としては見れない。
それよりも……。
「またカグラ様が、アンディウス様を追いかけているわよ」
「あれも名物になりつつあるわね」
アンディは、カグラ様の追いかけられていることで有名になった。
王女様のお気に入り、ミステリアスで大人っぽいアンディとして、女生徒の注目を集めている。
たくさんの女性に囲まれるレオと、一人の女性追いかけられるアンディ。
幼馴染は、見た目が良くて、能力があって、おモテになることで。
だけど……。
「あっ、マシロ。今度一緒に練習しようぜ」
他の子の前では、かっこよくしているくせに私の前では無邪気な顔を見せるレオ。
「うん? マシロ? レオ? こんなところにいたのか? 夕食に行こう」
誰も寄せ付けない雰囲気で大人っぽいのに、レオと私を思って声をかけてくれるアンディ。
二人は今でも私を大切にしてくれている。
そして、私にしか見せない顔がある。
どっちが好きかと聞かれた時に、考えないわけじゃない。
だけど、どっちかを選んで、この関係が壊れてしまうのが怖い。
それに選んだ時に、私が相手に選ばれなかったら?
それを思えば、私は一歩が踏み出せないでいた。
「おいおい、マシロ元気ないのか? 食べる量がいつもの半分だけだぞ」
「熱でもあるのか?」
レオは向かいの席で、大きな声を出して、アンディが私の顔に触って熱を測る。
「んん!」
顔が熱くなるのを感じる。
ダメだ!
意識しちゃダメ!
「少し熱いな。今日は休め」
「なんだ本当に体調が悪かったのか、マシロは仕方ないな」
「レオ、うるさい。二人ともありがとう部屋で休むね」
「ああ、片付けはしておいてやる」
私は二人から離れて寮の自分の部屋に向かう。
部屋に入った瞬間に、ズルズルズルと扉にもたれたまま座り込んでしまった。
膝を立てて顔を埋め、二人の顔が浮かんでくる。
「決められないよ。どっちも大切だもん」
自分の気持ちがわからない。
大人になって、こんなにも悩むなんて思いもしなかった。
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