第26話 俺もモテたい

 レオがモテている。


「レオガオン・ドル・ハインツ様〜」

「ハインツ様、私の剣術も見てください〜」

「レオガオン様、私と稽古をしましょう」

「皆の者よ。順番に、順番に頼む。俺様の体は一つしかないんだ」


 デレデレとした顔で嬉しそうに女子から声をかけられるレオ。


 この世界の顔面偏差値は高い。


 どの女性も乙女ゲームでは見かけたことがない女の子達だが、十分に美しく、可愛い。

 それにレオが貴族であるために、敬意を払っているのも見受けられる。


 悪役貴族として成長しなかったレオは、甘いマスクに真面目な性格。

 厨二病気質はあれど、女性に優しく惚れやすい。


 どの子も可愛いので、羨ましいとしか思えない。


「何を見つめておるのじゃ?」


 黒髪黒目の超絶美少女が俺に声かける。

 いや、それは嬉しい。

 嬉しいが、完全な地雷だ。


「何も、親友がモテていたので羨ましいと思っていただけです」


 答えないで無視をすると余計に絡んでくる。

 寝入っていても、チラチラと視線を向けてくるのでウザい。

 

 マシロのライバルであり、攻略キャラを落とすための障害であるカグラ・ダークネス・ヤンデーレ様は完全に近づいてはいけない女性の一人だ。


 俺はレオみたいに、普通の女性と、普通の恋愛を楽しんで、チヤホヤされて子作りを出来ればそれでいい。

 

 そんな普通な学園生活が、カグラ様が隣に座ってくるので、誰も俺にはお近づきなってくれない。


 絶対に、この女のせいだ。


「なんじゃお主はモテたいのか?」

「ええ、モテたいですね。可愛い女の子にチヤホヤされるのは、男冥利に尽きると言うものでしょう」

「はっ、何を言うておる。一人の女子に生涯を尽くし、愛する方が尊いに決まっておろう」

「別にそれを否定はしません。ですが、俺の思想とは違うので」

「なっ!」


 得意気に平べったい胸を張って主張しておられるが、俺はハーレムが作りたいのだ。


 常に俺を愛してほしいなんて言わない。


 何人かの女性に受け入れてもらって、楽しく過ごせればそれでいい。


「きっ、貴様は助兵衛スケベエなのだな!」

「スケベッて」


 顔を赤くして、自らの体を抱きしめるカグラ様。

 いや、あなたのことは狙っておりませんのでご安心を。


「誰から構わず誰でもいいなんて思ってませんよ。たくさんの女性と話をして、フィーリングが合えば1番です。あとは体を重ねて、子を成していくのもありだと思っているだけです。一人の女性に縛られるよりも自分には合っていると思うので」

「む〜、どうして一人に縛られるのはダメなのじゃ!」


 最近、口調が砕けて老人のような言葉遣いをしてきやがる。

 高貴な身分の女性は、語尾に「じゃ」をつけるのか? ハァーそれに話しかけてくる回数も増えてきて、ますます他の女性が寄ってこない。


「ダメとは言っていませんよ。ただ、俺は大勢の女性に愛されたいだけです」

「大勢の女性のう。不純フジュンじゃな」


 何やらブツブツと言い出したので、教室を出て気分を変える。

 次の授業はサボっても良いかもしれないな。


 考えごとをして歩いていると、誰かにぶつかってしまう。

 

「あっ、すまない」


 謝罪を口にして相手を見れば、ショートモブに薄紫色の髪をした美しい女の子だった。


「大丈夫。私もごめんなさい」


 学園に入るまでに一気に身長が伸びて、体は俺の方が明らかに大きい。

 ぶつかったことで彼女は尻餅をついてしたので、手を差し出す。


「本当に大丈夫か? 怪我とかしてないか?」


 俺が問いかけると不思議そうな顔をされる。


「うん? どうした?」

「いえ、あなたのような人は珍しいと思って」

「珍しい?」

「ええ。男性は数が少なくて優遇されているから、偉そうにしているのが普通。たまに女子が苦手で怯えている人がいるくらい。だけど、あなたからはどちらも感じない」


 男女の影響に、女性だけが魔法を使えることで、格差はどうしても生まれてしまう。


 男性の方は強い女性に見惚れられて、偉そうにする奴がいる。


 他にも女性を化け物のように怖がって怯えている者もいる。


 魔法が使えない男からすれば、未知の存在なんだろうな。


「まぁ、俺は貴族で色々と人と接しているから慣れているだけだ」

「貴族様! ごめんなさい。私は平民なのに偉そうな口調で」

「何言ってんだよ。貴族って言っても子息なら、立場は女性の方が上だろ? むしろ、俺の方が礼を尽くさないとな」


 そう言って、俺は尻餅をついたままの彼女に手を差し出す。

 この世界の女性は恥じらいにかけるので、スカートが完全に捲れてしまっているのを直してから立ち上がらせる。


「……別に見られても減らないのに」

「別に慎みを持てとは言わないが、男は恥じらうぐらいの女の方が好みだぞ。たまには弱い部分を見せると男は落ちやすい」

「そうなの?」


 少しボーとした印象のある子だが、素直に俺の言うことを聞くので面白い。

 何よりも美少女なのがいい。


 登場人物かと考えてみるが、心当たりもない。


「ああ、そうだ。俺はアンディウス・ゲルト・ミルディンだ。アンディと呼んでくれ」

「私はキャサリン。平民」

「キャサリンだな。よろしく」

「うん」


 俺が握手を求めると嬉しそうに頬を染める。

 

 こういう反応は新鮮で、可愛いと思ってしまう。


「あなたたちそんなところで何をしていますの?」


 面倒なやつの声が聞こえて、俺は振り返る。


「ぶつかって倒してしまったから、手を貸してただけですよ」

「ふ〜ん、その割には随分と仲良く手を繋いでいるのですね」


 カグラ様に指摘されて手を見れば、確かに手を握り合っていた。


「キャサリン。すまん」

「うっ、ううん」

「あなた! 彼は貴族です。あまり勘違いしないように」

「はい」


 カグラ様の威圧に、キャサリンは走り去ってしまう。


 せっかく、いい感じの雰囲気になったのに……。


 俺もレオのようにモテモテになりたい。

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