第21話 睡眠学習?
九割近くが女性の学園の中で、入学式は行われる。
そんな中で堂々と昼寝をしている人物は俺だ。
別にいびきを発するつもりはない。
ただ、眠くて眠くて仕方ない。
「おい、おいって」
「うわ?」
「そろそろ終わるぞ」
「ああ、ありがとう。レオ、いつもすまない」
入学式の席は自由でありながら、上位貴族は最前列に座らされる。
隣に座っているレオに起こされて、目を覚ました。
「全くほどほどにしておけよ。目をつけられるぞ」
レオが視線を向けた先には、壇上に立っている首席合格者のカグラ・ダークネス・ヤーデレー様がこちらを見ていた。
さらに、クロード王子や、ブルームまでこちらを見ている。
確かに面倒な相手をわざわざ敵にする必要はないだろう。
「ふわ〜」
上位貴族として最前列に並んでしまっているので、どうやら目立ってしまったようだ。イビキなどは出していないが、船を漕いでいたのは見られてしまっていただろう。
男子生徒は全体で二十名ほど、それに対して二百名ほどの女性がこの場に集まっている。
「以上を持ちまして生徒代表の挨拶を終えさせてもらいます」
カグラ様の挨拶を終えて、入学式が行われた講堂を後にする。
「おい、貴様!」
外に出たところで、ブルームに声をかけられた。
俺は聞こえなかったフリをしてレオと共にマシロに合流する。
レティシア姉さんと共に四人で集まった。
「ちょっと待て! 貴様だ! アンディウス・ゲルト・ミルディン!」
わざわざ大きな声で呼ばないでもらいたい。
講堂から出てきた生徒も大勢いるというのに、面倒なことだ。
「なんでしょうか? マックーロ様」
「貴様! 入学式の間、ずっと寝ていたな。どういうつもりだ! ふざけているのか?」
大勢の前で俺の罪を問いたいわけか、うーん、相手をするのも面倒だが、ここで罪を見つめればレオやマシロに迷惑をかけることになる。
「えっ? 何を言われているのですか? 私は学園長やカグラ様のお言葉を一語一句、聞き漏らさないように目を閉じて拝聴していただけですよ」
「ふざけるな! 貴様は船を漕ぐようにユラユラと体を揺すっていたではないか?!」
「ああ、それはカグラ様の美しい声があまりにも心地よくて、音楽を聴くように素晴らしいお声に合わせて体を揺すっていただけです。あなたは気持ちいい音楽を聞いて、体が自然に動くことはないのですか?」
「うっ!」
ブルームがここで否定をすれば、カグラ様の声を否定することになる。
それは大きな声ではできないだろう。
「それではあなたは私の言葉を覚えているのですか?」
そう言ってブルームを救ったのはカグラ様だった。
「はい。もちろんにございます」
「でしたら、私が発した言葉一語一句間違えることなくおっしゃってくださいませ。できますか?」
ブルームは勝ち誇った顔をして、我が意を得たりと嫌らしい笑顔を向けてきた。
後ろを振り返れば、レオやマシロは不安そうな顔をしている。
そんな心配した顔をするなよ。
俺が何度も悪役貴族であるレオを救う方法はないか、考察するためにゲームをやったのか、お前たちは知らないよな。
入学式のイベントは飛ばすこともできない説明イベントなんだ。
聞かなければゲームを開始することもできない。
「それでは失礼して」
俺はカグラ様の前で一礼して、ゲームのオープニングでカグラ様が発する言葉を一語一句間違えることなく発してやる。
「なっ!」
「えっ?」
ブルームは驚愕して、カグラ様は口を押さえる。
「いかがでしょうか?」
「……完璧ね。私が昨日の晩に練習したものだから忘れるはずがないわ。マックーロ様、あなたの方がちゃんと見ていなかったようですね」
「うっ」
カグラ様も壇上から俺を睨んでいたくせに、責任をブルームに押し付ける。
俺とカグラ様の二人から見つめられて、ブルームは逃げることもできない。
「わっ、私の勘違いであった。すまない。貴殿はちゃんと入学式を聞いていたようだ」
「謝罪を受け取ります。マックーロ様を誤解させたのは僕の不出来な態度です。お顔をお上げください」
「そうか、ありがとう」
俺は即答で謝罪を受け入れる。
ある意味で、俺とブルームの度量の違いを見せつけることができただろう。
まぁ、入学式はほとんどが寝ていたがな。
「あなた。面白いわね」
「いえいえ、カグラ様のお声が素敵でしたので聞いて覚えてしまっただけですよ」
「ふふ、ありがとうと言っておきます。それでは」
ブルームを引き連れて離れていくカグラ様。
振り返ると三人が驚いた顔をして俺を見ていた。
「どうかしたのか?」
「いや、お前寝ていただろ?」
「ああ」
「なら、どうして?」
「睡眠学習?」
「もう、相変わらずアンディって凄いけど、よくわからないところで、その凄さを発揮するよね?」
レオもマシロも付き合いが長くなってきて、呆れているようだ。
「アンディは物覚えがいいんだな。ふふ、姉として鼻が高いぞ」
「ありがとう。レティシア姉さん」
「さぁ、学園の説明をするから、食堂にでも行こう。ここは優しくオリエンテーションをしてくれるような学校ではないからな」
「「はい!!」」
真面目な二人が元気よく返事をして、俺はレティシア姉さんの顔を見て頷いておく。
不意に視線を感じて、顔を向ければ一人の少女が、虚な瞳をしてこちらを見ていた。
「アンディ、置いていくぞ」
「ああ。分かった」
レオに呼ばれて、もう一度視線を向けるとそこには少女はいなくなっていた。
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