第18話 ズーの遺跡 終

 感じることができる。


 鳳凰の力を……。


「この力ならいける」


 吹き飛ばされる師匠に交代して、俺は魔女の前にでる。


「なっ!?」

「アンディ!」


 二人が俺の登場に意表をつかれる。


「あら〜、わっちの胸に飛び込んでくれるんですか?」


 両手を広げる厄災の魔女ベルベット。

 俺はにっこりと笑って、その胸目掛けて火の玉をプレゼントする。


「不死火」


 俺は師匠のように多彩な技を持っていない。

 まとものにやり合っても、勝てるとも思わない。


 火の向こうで捕まえられると確信を持っていたベリベットが、表情を歪める。


 この技は攻撃ではない。


「小賢しい!!!」


 相手をおちょくるだけの技だ。

 光を屈折させて、姿を騙す。


 俺は師匠を抱えて、マシロやレオの元へ戻った。


「逃げろと言ったじゃない!」

「師匠」


 俺が師匠を下ろすと怒鳴り声を上げる。


「あんた一人じゃ勝てねぇ。俺様は足手纏いだ。だけど、それで俺様の気が済むと思うなよ。舐めんなぁ!!!」


 レオが吠えた。


 獅子王としてパワースーツを発動したレオは、どこか獅子として雄々しい印象を受ける。


「師匠一人でダメなら、協力してやればいい。俺様が足手纏いでも、師匠が負ければ俺様だって死ぬ。なら最初から協力させろ!」


 レオの啖呵に師匠は驚き、マシロが強く頷く。


「そうだよ。お父さん。私たちは、お父さんみたいに強くない。だけど、力がないわけじゃない。あの人は魔法でしか倒せない。私がやる」

「レオ、マシロ。ふふ、子供だと思っていたけど、いつの間にか大きくなったのね。ハァー嫌になるわね。私ももうろくしたものだわ。そうね。ここは絶対に逃げ切る」

「王都まで逃げ切ったら僕らの勝ち。捕まれば負けだ」


 俺たちの決意が固まった。


「話し合いは終わったかしら? わっちをおちょくったこと許しませんよ」


 先ほどのように遊んでいる雰囲気ではない。

 どうやらフェーズが移行したようだ。


「指示は僕が出してもいいですか?」

「いいわよ。あなたにはその才能があるわ」


 俺は師匠に許可をもらって、三人に指示を飛ばす。


「おいでなさい! デュラハン!」


 ベリベットの呼びかけに応じて、真っ黒で巨大な馬と首なしの騎士が現れる。


「ヤバいわね。あれが厄災の魔女ベリベットが扱う死霊召喚魔法よ。魔法を受け付けないわ」

「魔法をほとんど受け付けな召喚獣と、魔法攻撃しか効かない魔法使いか。むしろありがたいな」

「アンディ! どう言うことかしら?」

「レオ、お前の相手だ」

「ほう、あのデカブツを俺に相手させるのか?」


 レオはデュラハンを見ても全く怯んでいない。

 むしろ、どんどんレオが頼もしく見えてくる。


「ああ。師匠は臨機応変に対応を」

「ええ」

「マシロは魔女を狙え」

「うん!」

 

 俺はもう一度不知火を発動する。


「逃げろ!!!」


 俺の叫びと共にやる気満々に見せて、一気に王都へ向けて走り出す。

 

「逃すわけないでしょう!」


 ベリベットの声と共に、俺たちの前に死の軍団が現れる。


「師匠!」

「師匠使いが荒いわね! 白道」


 師匠が死の軍団の間に道を作ってくれる。


「マシロ!」

「うん!」


 この中で一番、早いのはマシロだ。

 今すぐ、攻撃に転じても魔女を討てない。

 なら、道を通り抜けて助けを求めに走った方が早い。


「チッ! さっきから小賢しい!!! デュラハン!」

「ブオオオ!!!」

「レオ!」

「押忍!!!」


 レオが蛇腹剣を振り回してデュラハンを牽制する。


「そんな攻撃が!」

「師匠!」

「本当にもう!」


 レオに意識を奪われたデュラハンを師匠がぶっ飛ばす。


「俺たちは雑魚だ。だがな、意識を逸らしたら邪魔する手立ては持ってんだよ。それに、俺たちのうちの一人が逃げられれば、助けは来るんだ!」

「本当にイライラする子ね。だけど、あなたは判断を間違った」

「えっ?」

「私の目的を話していないでしょ?」

「それは俺が欲しいって」

「ふふ、それは後付け。私がここに来た理由は、危険になりそうな魔力を感知したから。そして、その魔力の持ち主は」


 ベルベットが視線を向けたのはマシロだった。


 そうか!!! こいつは乙女ゲーの主人公であるマシロの力を狙ってきたのか!?

 マシロが将来的に覚醒すれば、確かにこいつを倒せるぐらいに強くなる。


 それを見越して!


「さようなら」

「やらせるか!?!」


 巨大な漆黒の矢がマシロへ向かって放たれる。

 

「マシロ!!!」 逃げろ!!!」


 俺の叫びが届いたのかマシロが振り返ろうとする。


 だが、すでに迫った漆黒の矢に対して俺は成す術がない。


「グフっ!」


 いつの間にあなたがそこにいるのですか?


「お父さん!」

「あらら、結局死ぬなら邪魔しないで欲しかったわね」

「いいや、あやつの時間稼ぎがあったからこそ、私が来ることができた」


 真っ青な髪をもつ美しい容姿の女性が舞い降りる。


 アイス・ハーラー・マックーロ。

 ブルームの姉にして、氷結の魔女。


「チッ、あなたが現れるとはね」

「弟を探しにきて、こんなことに遭遇するとはな」

「どうでもいいなら、死ねば?」


 デュラハンがレオを吹き飛ばして、アイスに迫る。


 だが、アイスとデュラハンの間に分厚い氷の壁が出現して、さらに、ベルベットを氷の中へと閉じ込める。


「貴様との相性は私の方が強い」

「くっ、今日はもういいわ。坊や、また会いましょう」


 そう言ってベルベットは漆黒の中へ消えていった。


 俺はベルベットのことなど見ることもなく師匠の元へと走った。

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