第17話 ズーの遺跡 5

 迫る死の軍団を前にしても師匠は一切怯んでいない。

 全身に纏われた真っ白な虎を模したパワースーツ。


 変身をした師匠が拳を握り構えを取る。


 師匠が真っ白な発光を始めて、光は拳に集まっていく。


「一閃・白道」


 師匠が放った一撃は、迫りくる死の軍団をものともしない威力を発揮して、一直線に厄災の魔女ベリベットに向かっていく。

  

 その先で待っているベリベットは不敵な笑みを浮かべて、師匠の攻撃を迎える。


「グフっ!」

「あなたに見せてあげる男の輝きを」


 師匠の拳が、ベルベットの突き刺さり、その体をくの字に折り曲げる。


「乱閃・白日」


 師匠は一撃で終わることなく、厄災の魔女ベリベットへ乱撃を放って、どんどんダメージを蓄積させていたく。


 だが、ベリベットはそれを嘲笑うように、攻撃を受けているのにも関わらず、死の軍団を生み出していく。


 まるでゾンビのように、攻撃を受けても痛みを感じていないようだ。


「くっ! ならこれはどうかしら? 生閃・白週」


 師匠の気配が変わる。

 それまで魔女が使う肉体強化に近い攻撃だったものが、別種の力を加えたようにベリベットの体を撃った瞬間に光が体を突き抜ける。


 ベリベットが吹き飛んで地面を転がった。

 それでも揺らぎながら立ち上がる。


「ハァー、男なのに本当に強い。あなたを殺して手駒に出来たなら最高の死霊になるでしょうね。わっちに殺されて下さるんですからありがたい」

「くっ、手応えがあるのに。本当に化け物ね」


 師匠の一撃一撃はA級の魔物を殺してしまうほどに強力だ。


 師匠は傷を負うことなくA級を倒せるんだ。

 S級の魔物でも師匠なら一人で倒せてしまう。


 最強だと思っていた師匠が苦戦している。


 それだけの相手が目の前にいる。


 そして、師匠の戦いを見逃さないでおこうと、レオも、マシロも真剣に戦いを見つめていた。

 だけど、俺たちは本当に見ているだけでいいのか? 師匠一人に負担をかけて、俺たちが逃げれば、師匠も逃げられるんじゃないのか? 


 判断を誤れば絶対に後悔する。


 師匠は逃げろと言った。

 ベリベットは逃さないと言った。


 俺たちが逃げようとすれば、ベリベットは俺たちを追いかけて攻撃を仕掛けてくる。


 師匠は俺たちを囮に攻撃に転じてくれるか? いや、きっと俺たちを守る方に動いてしまう。


「なぁ、アンディ、マシロ」


 迷っている俺に声をかけたのはレオだった。


「レオ?」

「俺様たちは一年間で、何をしていたんだろうな? 目の前で行われている戦いは明らかにレベルが違う。俺様はあのレベルに到達できるのか?」

「出来るかじゃない。到達しないといけないんだ」

「ああ、その通りだ。そんな俺様がこんなところで足手纏いになっている。悔しいな」


 俺はレオを見誤っていた。


 こいつは天然で、厨二病で、不器用なだけなんだと思っていた。

 親友という言葉でチョロく操れて、言葉の誘導に弱くて。


 だけど、どうしてこいつは悪役であり続け、嫌われるような行動を取り続けたのか? 乙女ゲームの世界でマシロに好意をぶつけることを、続けられたのか?


「この場で出来ることはあるか? 俺様はバカだから、出来ることが思いつかない。だけど、アンディ。お前なら思いつくんじゃないのか?」


 確かに行動や、やっていることはバカみたいなことだ。

 

 だけど、諦めない心を持っている奴なんだ。


 なぁ、レオ、どこかでお前を見下していたのかもしれない。

 俺がなんとかお前を救ってやらないといけないって。


 だけど、違うんだな。


 お前はお前という存在なんだ。


 くくく、面白いなレオ。

 お前の親友でよかったよ。


 物語を最前列で見れているような気分だ。


「任せろ、レオ。マシロ、お前の親父さんを救うぞ」

「うん! 私はずっとそのつもりだよ」

「相手は死霊魔法を使う。多分、系統は特殊魔法。性質や原理は全くわからない。だけど、物理攻撃はあまり大した効果を出していない。師匠の猛攻を受けても、ダメージを受けている気がしないからな。だから、攻撃手段として魔法か、魔力を帯びた武器での攻撃になるだろう」


 レオが決意を示してくれたから、俺も頭が回るようになった。

 俺はこの場で一番弱い。

 だから、この小賢しい頭を使って対抗手段を考える。


 あいつは俺を欲しいと言った。

 

 つまり、殺される可能性が一番低いのは俺。


 そして、物理攻撃が通らない以上。


「決め手はマシロ。お前だ」

「私が?!」

「そうだ。レオ、絶対に死ぬことは許さないぞ。俺とお前でスキを作る。だが、メインは俺がいく」

「えっ? 剣を使う俺が前衛じゃないのか?」

「あいつは俺を欲しいと言った。つまりは俺は殺される可能性が低い。だからこそ俺自身を盾に使う。その間にマシロ! 相手を殺せる魔法を頼むぞ」


 マシロにも特殊魔法が存在する。


 だが、乙女ゲームの終盤で覚醒して使うことができる。


 今それを求めても、出来るのかどうかわからない。

 なら、マシロが出来ると思うことをしてもらった方がいい。


「うん! わからないけどやってみる!」

「ああ。頼んだ」


 本当に頼みはお前だけだ。


 俺は自分のパワースーツを発動する。


「不死の鳥よ炎と共に生まれ、何度でも甦れ。鳳凰フェニックス!!!」


 俺の背中が熱くなって、真っ赤な羽が生える。

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