第16話 ズーの遺跡 4
パワースーツを取得した後に、遺跡崩壊なんてイベントはなかったはずだ。
どういうことだろうか?
俺は何が起きているのか観察しながら走り、先ほどから遺跡が揺れているというよりも、振動によって揺らされているように感じる。
「二人とも待ってくれ」
「アンディ! 何を言ってんだよ。崩れたら助からないだろうが!」
「アンディ君。何かあるの?」
レオは慌てながらも俺の静止を聞いて立ち止まる。
マシロは俺の言葉で観察を始めた。
「確かに、全体的には揺れているけど、壁は壊れていないね」
「うん? 言われてみればそうだな」
「ああ、もしかしたらこの上で誰かが戦っているのかもしれない」
「戦っている?」
俺の言葉で、状況を確かめるようにゆっくりと歩き出す。
「確かに崩れるって感じはないな」
「ああ、外で誰かが戦っているなら巻き込まれないようにしないとな」
「そういうことだね」
俺の警戒に二人が頷いて、出口へと向かう。
出口から、そっと顔を出して辺りを伺えば、遺跡の外ではブルームが尻餅をついていた。
その隣にアスタルテさんが倒れている。
「二人が倒れているぞ!」
「あの二人は巻き込まれちゃったってこと?」
「多分な。相手は…」
「あれじゃないか?」
レオの声で空を見れば、真っ黒なローブを纏った魔女が箒に乗って飛んでいた。
「えっ!」
俺は一気に顔が青ざめるのを感じる。
二人を遺跡に戻して息を潜める。
「なっ、何をするんだよ?」
「アンディ君、あの人を知っているの?」
声を小さくして聞いてくる二人に俺は頷く。
「あいつは、災厄の魔女ベルベット。王国最強の魔女であり、かつて女王と王国を二分して戦った化け物だ」
「女王様と!」
「あいつがそうなのか?!」
歴史を知らないマシロは信じられない様子で驚き。
歴史を学んだレオは実物を見て驚いたようだ。
災厄の魔女ベルベットは、一人の男性を傀儡として女王戦に参加した。
女王戦では、大量の参加者を殺しまくって強さを証明して見せた。
しかし、あまりにも残虐な手口に現在の女王が残された参加者と協力して撃退したという。
その際に王国を二分したというが、実際にはベルベットの魔法である死霊集団と、王国の戦士たちがベルベットを退けるために戦ったというのが真実だ。
「でも、どうしてそんな人がこんなところに?」
マシロの質問に答えようとして、俺は二人を抱きしめて飛び退いた。
「ふふふ、教えてあげましょうか?」
ゾクッ!!!
恐怖が一瞬で背筋を駆け上がる。
いつの間にか背後を取られていた。
警戒をしていたはずなのに!!!
「あなたいいわね。可愛い。それにあなたからは死の匂いがするわ。もしかしてあなた……、一度死んでいるんじゃない? ふふふ、あ〜いいわ。あなたのような人間に初めてあった。興奮する」
俺が転生者だとバレた? いや、アンディが死ぬキャラだからか? どうしてそれがわかるんだ?
「二人とも、相手は最強の女性だ。目的があるまでは動くな」
俺の声に二人からの返事がない。
だけど、相手から視線を外すことができない。
「うふふ、無駄よ。だって二人とも死んでいるもの」
「なっ!」
ベルベットの言葉に、俺は抱えている二人を見る。
死んではいない。
気を失っているようだ。
「わっちの前で油断しちゃダメよ」
死ぬ!
……
…………
こない?
「あら〜ベルベットちゃん。どこに行ったのかと思えば、私を放って灼けちゃうわね」
「チッ!」
目の前に迫った絶望が遠のいていく。
師匠がベルベットの攻撃を受け止めてくれてんだ。
「早いじゃない。男のくせに」
「あなたは女らしいわね」
「師匠!」
「アンディ。よく二人を守ってくれたわね。ごめんなさい。まさか、この女が現れるなんて予想していなかったの」
いつも通りに見える師匠の額には大粒の汗が浮かんでいる。
あの師匠が苦戦している? 相手がどれだけ危険な魔女なのか、理解させられる。
「今は、逃げることを優先して頂戴」
「逃がすとでも? その子はわっちがいただくわ」
「させないわよ」
俺は冒険者アネモネと、厄災の魔女ベルベットの戦いを見つめることしかできなかった。
一歩でも動けばその戦場では死んでしまうかもしれない。
この場を打開するために俺にできることはなんだ? 観察しろ!
生き残って、たくさんの女の子に囲まれてハーレムを作るんだろ?!
俺のパワースーツを使うか? どんな能力なのかわからないのに? クソ、さっき使っておけばよかった。
ドカン!!!
俺が悩んでいる間に師匠が地面に叩きつけられる。
「男が女に勝てると思っているのかしら?」
「女なら、もっと男に優しくしてもいいんじゃないの?」
「男を捨てた奴が良く言う」
あれだけ強い師匠でも勝てない存在。
厄災の魔女ベルベット。
「老いぼれなんて興味がないのよ。私が欲しいのは彼」
そう言って指されたのは俺だった。
「お目が高すぎない?」
二人のやりとりをしている間に、マシロとレオも意識を取り戻す。
「ここは?」
「何が?」
二人を下ろして、俺は素早く状況を説明する。
「お父さん!」
「師匠!」
「ふふ、師弟仲良く殺してあげるわよ。可愛い坊や以外わね」
ベルベットの粘着的な瞳が俺を舌なめずりするように、見つめてくる。
「そんなこと私がさせるはずがないでしょ! 白き道を歩む虎を私に力を貸しなさい!
師匠が魂の叫びを放つと全身に纏った真っ白なパワースーツを着た師匠が現れる。
「ふふ、やっとね。いいわよ。私を退かせて見せない。伝説の白い虎さん。死の
厄災の魔女が魔法を使うと地面から大量の霊が現れる。
「三人とも見ておきなさい。戦いが如何に困難であるのか」
俺たちの前で師匠は初めて構えをとった。
拳に全体重を乗せるような構えに息を呑む。
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