第19話 決意

 戦闘をしていることも忘れて、俺は師匠の元へと急いで、レオも同じように師匠の元へ駆けつける。


「お父さん! お父さん!」


 大粒の涙を流したマシロに抱きしめられている師匠。


「マシロ、泣かないでお願い。教えてきていたでしょ。この世は弱肉強食、強くなければ生きていくことはできないって」

「うん! うん! 聞いたよ! 聞いたけど。嫌だよ。お父さん!」

「もう、あなたは泣き虫なんだから。あなたが助かってよかった」


 師匠が震える手でマシロの涙を拭う。


「お父さん」

「マシロ、聞いて頂戴」

「うん! 聞くよ!」

「「師匠!!」」

「レオ、アンディ。あなたたちにも一緒に聞いて欲しいの」

「「押忍!!」」


 厄災の魔女が放った矢は師匠の心臓を貫いている。

 

 もう……残された時間は少ない。


「マシロ、あなたを一人にしてしまうこと、ごめんなさい。後のことは二人に頼んでいるわ」

「うん」

「二人ともマシロをお願い。私の宝物なの」

「「押忍!」」

「ああ、本当にあなたちに出会えたことは幸福だった。ねぇ、マシロ」

「うん」

「この国は女王次第で政治は変わってしまう。弱いことで涙を流すなら強くなりなさい。女王にならなくてもいい。みんなから認められる強い女性になって」


 もう目も見えていないのだろう。

 手の位置がズレ始めている。

 

 マシロが師匠の手を掴んで頬に当てた。


「二人とも、あなたたちの戦い見させてもらったわ。一年だったけど、あなたたちと過ごせた時間は私にとって、穏やかで心休まる時間だった。ずっと、マシロと二人で落ち着かない日々の中で生活してきた。そんな私たちがやっと得られた安らぎの時間。ありがとう。あなたたちがいるからこそ、マシロを託すことができる」


 師匠は俺たちへの言葉を吐くと、ゆっくりと息を吐いた。


「ああ、少し寒いわね。三人ともどうかいつまでも仲良く。強くなりなさい」


 師匠はその言葉を最後に息を引き取った。

 最後まで俺たち三人のことを思ってくれていた。


 師匠が、俺たちといて平穏を感じてくれていたなら嬉しいことだ。

 

 だけど、もっと生きていてほしかった。


「うううう」

「くっ!」


 マシロは泣き崩れて、レオもボロボロと涙を流している。

 俺も、どうしていいのかわからないほどに涙が流れた。


「……冒険者だな」


 そんな俺たちに声をかけてきたのは、アイス・ハーラー・マックーロだった。


 泣き崩れる二人に相手をさせることはできない。

 俺は涙を拭って立ち上がる。


「はい」

「貴殿らの戦いがあったからこそ、我が弟を救うことができた。最上級の感謝をしたい」


 アイスの両腕には意識を失ったブルームとアスタルテさんが抱かれていた。


「いえ、あなたが来てくれたことで僕たちは命拾いをしました。こちらこそ感謝します」

「仲間の死についてご冥福を申し上げる。もしも、君たちが何かを願う時、今回のことは貸しに思っていてくれ。アイス・ハーラー・マックーロは貴殿らに尊敬を、死した者に敬意を払う」


 冷たい印象を受けるアイスさんではあったが、それでもその言葉には武人として敬意を込められていた。


「ありがとうございます」

「うむ。貴殿は強いな。護衛をしようか?」

「いえ、大丈夫です! 絶対に僕らは生きて帰ります」

「わかった。それでは失礼する」


 アイスさんが立ち去って、俺は二人に呼びかけて家に帰ることにした。

 師匠をちゃんとした場所で葬ってあげたい。


「師匠のために強くあれ」


 俺の言葉を聞いて、二人は涙を止める。

 レオが師匠を抱き上げ。

 マシロと俺が周囲を警戒して、王都へ帰り着いた。

 

 それからは両家に今回の出来事を報告して、師匠の葬儀が行われた。


 参列者は少ないが、両家の母上と顔を合わせたことがあった従者たちが集まってくれた。


 師匠には立派な墓を作り、花を添え、祈りを捧ぐ。


 ♢


《sideマシロ》


 私は一年前に亡くなったお父さんのお墓を掃除して、手を合わせる。

 お父さんが大好きだったお花を添えてあげる。


「お父さん、あれから色々となことがあったよ。レオとは相変わらず喧嘩ばかりで、でも一緒に強くなろうって冒険者を続けてるんだ。だけど、アンディは少し変わっちゃったかな。それもお父さんの出来事がきっかけだと思う。みんなお父さんの死をきっかけに自分の道を歩き始めたんだよね」


 ヤダな。


 今でもお父さんのことを思い出すと涙が出ちゃう。

 やっぱり悲しいな。


 お父さん会いたいよ。


「今日からね。学園に行くんだ。あれから勉強も戦闘も頑張ったんだよ。学園にも合格できて、私はもっと強くなる。そして、いつか女王になるのが目標! お父さんは目指さなくてもいいって言ったけど。女王候補戦には厄災の魔女が出てくる。私は絶対にあいつを許さない」


 これは少しだけ復讐なんだ。


 だけど、それ以上にお父さんとの約束だから。


「私は絶対に強くなるよ。あの厄災の魔女よりも強くなってみせる」


 私も、お父さんの死がキッカケで強くなる決意ができた。


「お父さん、しばらく来れないけど、約束を果たすためだから待っていてね。いってきます」


 立ち上がると風が吹き抜ける。


 まるで、お父さんがいってらっしゃいって言ってくれているような気がする。


「うん。ありがとう」


 お墓を後にして、レオとアンディと共に学園へ向かう。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 以上でプロローグが終わりです。

 一旦整理で、今日の夕方には、人物紹介を作ろうと思います。


 楽しんでもらえていると嬉しいです。

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