第14話 ズーの遺跡 2
どんなに頑張っても叶わないことがあるように、突然不意に訪れる幸福もある。
「あれだ!」
俺がそう叫んだ先にあるのは、遺跡の最新部に見える扉だ。
乙女ゲームの世界なら、あの扉を超えた場所に課金ガチャカプセルが課金した分だけ置かれている。
「やっとかよ。ここまで30分ぐらいは歩いてきたぞ! 魔物と戦いながらだから疲れた」
「そうね。しかも出てくるのはスライムとゴーレムばっかりで、倒すのも厄介だから大変だったわ」
二人は文句を言われながらもついてきてくれる。
俺たちは冒険者の装備として、水や食料も1日分は確保している。
それ以上の遠征になれば、師匠が引率してくれるので、何かあればアドバイスをもらえる。
「はいはい。夢のお宝はもうすぐだから我慢してくれ。ほら、扉を開けるぞ。気を引き締めてくれよ」
ゲーム通りになんでも上手くいくとは思っていない。
だから慎重に俺は遺跡の扉に手をかける。
「お前ら! そこで何をしている?」
そう言って扉を開けた瞬間に声をかけられた。
振り返った先にいたのは、ブルーム・ハーラー・マックーロと引率者らしき女性だった。
「なっ! どうしてお前がここにいる?」
「お前たちが遺跡に向かっていく姿が見えたから後をつけたんだ。まさか遺跡の墓荒らしをしているとはな」
ブルームの言葉に引率者の女性がクスクスとこちらを見て笑いだす。
「墓荒らしではない。そもそもここは誰かの墓じゃない」
「うるさい! こんな何もない遺跡! 戦場としてたくさんの乙女たちが死んでいるんだ! 墓以外になんだというのだ!」
頭の固い奴は面倒だ。
だが、奴も攻略対象者だからな。
後をつけていたとしても、パワースーツを手に入れるのを邪魔するつもりはない。
今後の展開に変な影響を与えたくない。
「それは自分の目で確かめろ」
俺は一気に扉を開いて奥へと入っていく。
「コラっ! 待て!」
俺に続いて、レオとマシロも部屋に入ってきて、三人で固まって警戒する。
俺たちを追っかけるようにブルームも部屋の中に入ってきた。
「待てと言っているだろ!」
ブルームの叫び声応じるように地鳴りが始まり、中央の岩だと思っていた塊が動き始める。
「なっ! なんだこれは?!」
それはここまでに戦ってきたような膝までのドワーフ人形とは違って、俺たちを悠々と見下ろすことができる巨大なゴーレムだった。
「ボスゴーレムか!」
扉からの脱出ができるのか意識を向けると扉は閉ざされてしまった。
この場には師匠もいない。
それなのに強力な魔物と対峙してしまった。
「くっ」
「アンディ。どうするんだ?」
「レオ、俺たちがやることは変わらない。観察しろ」
「うん。私もそれが一番だと思う」
三人にできることはこの場でどのように対処すれば、生き残れるかだ。
ブルームの護衛はどれだけ強い? ブルームは戦えるのか?
「アスタルテ。あんなゴーレム倒してしまえ!」
「はいはい。もう坊ちゃまの護衛で、可愛い男の子を見れ目の保養をしてたのに。まさかこんなことに巻き込まれるなんて」
マシロと変わらない程度の身長なのに、持っている武器は巨大な大剣で、それを構えてゴーレムと対峙する。
見るからに、強化魔法系のパワータイプだ。
「一撃で死んどけ!」
アスタルテと呼ばれた女性の一撃がゴーレムを襲う。
しかし、ゴーレムはアスタルテの攻撃を硬い岩のボディーで弾き返した。
「なっ!」
「ロックゴーレムだ。サンドゴーレムのように柔らかくない。確実に急所を狙うか魔法で倒すしかない」
俺の言葉に二人が頷き、勝手に戦ってくれている奴らのおかげで、こちらにも余裕ができた。
周囲を見渡して、ゴーレムを操っている物はないか? 他に使える道具はないか? そうやって見渡すと、俺がよく知るアイテムがゴーレムの後にある台座に置かれてある。
「マシロ、俺とレオはあの台座に向かう。もしも、こちらに意識が向けられるようなら、意識を逸らしてくれないか?」
「わかったよ。でも、どうして二人で?」
「あそこに俺たちが求めるお宝があるからだよ」
「おい、アンディ! こんな時にお宝かよ!」
「いいから、レオは一緒に来い。マシロ、援護を頼んだ!」
俺たちは合図を出し合って走り出す。
アスタルテさんの実力はわからないけど、女性魔法が使えるならすぐには負けないだろう。
もしもの時はマシロが援護をする。
「GUOOOOOO!!!」
俺たちが台座にたどり着く前に、ロックゴーレムに気づかれる。
「マシロ!」
「うん! 任せてよっと!」
足元の筋力を増加させて、跳躍したマシロがロックゴーレムに蹴りを放つ。
攻撃が効いているわけではないが、少しだけ押し戻すことに成功した。
「よくやった!」
礼を告げて、レオと共に台座にたどり着く。
そこには見慣れたガチャカプセルが置かれていた。
選んでいる暇はない。
俺は赤いカプセルを。
レオは金色のカプセルを手に取った。
「レオ、開けろ!」
「押忍!」
俺の言葉にカプセルを叩き割って開いた。
その瞬間に、背中に焼けるように痛みが走る。
「ぐっ!」
「うわっ! なんだこれ!」
レオの右手の甲に焼印が刻み込まれる。
「レオ! 叫べ! 獅子王と!」
「ええええ!!! このタイミングでか?!」
「お前ならできる!」
「ぐっくううううう!!! 獅子王! レオガオン!!!」
レオの叫びに応じるように右手の焼印が金色に光を放ち、レオの両腕に金色の小手が現れる。
「なっ! なんだこれ!」
「ふふ、レオ。お前の背中に剣が生えてるぞ」
「えっ?」
それは尻尾にも見えるジャバラ状の剣だった。
「なっなんだこれ!」
「お前のパワースーツと武器だ。魔法が使えない男でも、これがあれば肉体強化ができて、魔法に対抗できる」
「マジか!!! それなら先に言えよ!!!」
「俺も賭けだったんだ。本当にパワースーツが手に入るのかな」
「全く、お前らしくないぞ。いつも冷静なアンディで頼むぞ。突っ込むのは俺の仕事だ!」
そう言って武器を持ったレオがマシロに並ぶ。
「レオ?」
「だから、呼び捨てにすんなよ。まぁマシロならいいけどさ」
「なにそれ!? かっこいいじゃん!」
「アンディにもらった。パワースーツだとよ」
「へぇーそれがそうなんだね」
あの二人が並んでいる姿を微笑ましく思ってしまう。
「良い物を教えてくれるじゃないか」
俺が二人に気を取られていると、ブルームがパワースーツのガチャから青色のガチャを取り出していた。
残念ながら、ガチャの中身はそれで終わりのようだ。
「くくく、わかるぞ! 伝わってくる!」
そう言ってブルームが青いガチャを叩き割った。
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