第13話 ズーの遺跡 1
俺は二人を連れて王都の南にあるズーの遺跡へやってきた。
魔物も棲みつかない古代の遺跡で、朽ち果てたようにボロボロの建物は崩れている。
それは多くの発掘者が訪れて、この場にあった宝を全て取り尽くしたからだ。
強者たちが、戦い崩れた痕跡だけが残っている。
「初めて来たけど何もないね」
好奇心旺盛なマシロを先頭に、遺跡の中へと入っていく。
「おっ、おい! 魔物が出ないからって油断してんじゃねえよ。こんな場所でもゴブリンは住み着くんだからな」
「そんなことわかっているよ。もう新人冒険者じゃないんだから」
相変わらず口論する二人に俺は笑ってしまう。
緊張感のないことだ。
「だけど、あれだな。こういう遺跡っていうのは心燃えるな」
「レオは古い建物や、魔法的な道具が好きだな」
「それはそうだろ? 男は魔法が使えない。だからこそ余計に不思議なことに興味が湧くんだよ」
「私は使えるから、全然わからないや」
「使えるやつはいいよな」
意外なことだが、レオは勉強をするのが好きだ。
それも古い物や、魔法的なことを勉強するのが好きだ。俺やマシロと接することで落ち着きも出てきた。
マシロと口論はしているが、配慮も感じられる。
相変わらずの厨二病は治っていないが、それもまた愛嬌に思える程度になりつつある。
「ここからは誰も知らない領域に二人を招待する」
「誰も知らない領域?」
「どういうことだよ、アンディ?」
二人が疑問に思っている前で、俺は課金アイテムのある場所に続く扉を開いた。
それは崩れて瓦礫の下敷きになっている扉で、本来は何もないとされる遺跡の中に通じている。
だが、師匠は言っていた。
成長するバトルスーツはあると……。
確信が持てていなかった俺に与えられた確かな情報に心が躍る。
「うわっ! なんだよこれ?」
「どういうこと? アンディ君!」
二人は俺が開いた扉を見て驚いた声を出す。
これは乙女ゲームで課金をすると、マップにパワースーツの場所が表示される
そこに行くと扉が開かれていて、最深部に辿り着くとパワースーツのコアを得られる。
今回は、扉の位置でノックをすると、下へ降りるための階段が開いた。
「入るが、大丈夫か? 引き返すなら今だぞ」
「何言ってんだよ! 遺跡の探検ができるんだろ?! 行くに決まってんじゃねぇか」
「うん。私もちょっと興味あるかな」
歴史好きなレオは遺跡の中に入れることを喜び。
好奇心旺盛なマシロが中を覗きながら興味を示した。
「なら、行こう。俺はこの中にあるお宝が欲しいんだ」
「お宝?!」
「そんなものがあるの?」
俺の発言に二人の意欲はさらに上がっていく。
「ああ、だけど中は魔物も出るし罠もある、二人とも観察を忘れるなよ」
「任せろ。師匠の教えだぞ」
「うん! ふふ、なんだかアンディ君も師匠みたいだね」
俺は視線を感じて振り返るが、そこには誰もいない。
だけど、その視線の主は、師匠であろうと推測している。
「アンディ? どうしたんだ? 行くぞ」
「ああ、気をつけろよ」
「先頭は何かあったらいけないから私が行くね」
この中で観察力があって、魔法が使えるマシロが先頭で遺跡の中へと入っていく。
階段を降りていくと地下には砂と遺跡の壁、それに水が流れ落ちる空間ができていた。
俺たちは違和感がないのか、確認しながら進んでいく。
「こんな綺麗な場所があったんだね」
「ああ、上にある遺跡が崩れてできた空間なんだろうが、長年この状態を維持していたから綺麗な空気が入り込むようになったんだろうな」
俺たちが遺跡の奥へと進んでいくと、スライムが現れる。
スライムは弱い魔物ではない。
的確に見えている魔石を攻撃するか、魔法で一気に消滅させなければ、こちらの方が被害を受けてしまう。
「マシロ! 倒せるか?」
「う〜、スライムって、一番苦手なんだよ〜。あの大きくてウニョウニョしているのがダメで」
ダンジョンの通路を埋め尽くすほどの大きさを持つスライム。
マシロが氷結系の魔法が得意なら、簡単に倒せることができるが。
マシロは強化魔法以外はあまり得意ではない。
勉強をして、使えるようになってきてはいるが強化に比べればどうしても弱くなってしまう。
「あんな奴、俺がどうにかしてやるよ」
そう言ってレオがスライムの不規則な魔石の動きを動体視力だけで追いついて、剣を突き立てた。
「お見事!」
俺の声の通りに、レオは一撃でスライムを倒してみせた。
「やるじゃん。レオ!」
「ウルセェよ。お前はもう少しそっち系の練習をしろよ」
「ぐっ!」
今回はレオに軍配が上がったようだ。
マシロは魔法が使えることで、魔法頼りになって、戦いを躊躇う時がある。
対してレオは魔法が使えないことで、剣術に極振りしたような鍛え方なので、剣術に自信があり、今のような場面でも魔物に遅れを取らない。
二人の性格を合わせるとバランスがいいのに、なかなか上手くいかないものだ。
「次が来たぞ」
「次は私が!」
「いや、ここは俺がやらせてもらう」
二人ばかりに魔物を倒されては、俺のレベルアップができないからな。
俺は二人の前に出てグローブを嵌める。
グローブには三本の刃が付けられていて、両手に鉤爪をつけたような武器を使って、現れたスライムを切り裂いた。
レオほど技量がない俺は、数打ち当たる作戦で、この武器を選んだ。
「やる〜」
「アンディは効率がいいな」
二人から褒めてもらえるが、俺が一番体術が弱い。
魔法と体術のマシロ。
剣術特化のレオ。
観察と奇襲の俺。
それぞれの長所を生かして、これまでやってきたんだ。
「どんどん進むぞ!」
「ええ!」
「楽しくなってきたな」
二人がいれば大丈夫だ。
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