第12話 三人で過ごす日々

 戦い方がわかるようになると、魔法がチート能力だと思い知らされる。

 マシロが得意としている強化魔法は、こちらの反応速度を超えてくる。

 攻撃をしても、強化された肉体ではこちらの攻撃は無効化されてしまう。


「アンディ、マシロの魔法を見てどう思うかしら?」

「家族の魔法もそうですが、反則級に凄いと思います」

「そうね。だけど、女性たちはその魔法を駆使して戦うことが当たり前なの。男性は魔法が使えない。だからこそパワースーツを着用して戦うことになる」


 師匠からパワースーツの言葉が出て不思議な顔をしてしまう。


「あら、アンディは知っているのでしょ」

「はい」

「ふふ、パワースーツには色々な物があるんだけど、成長するパワースーツを知っているかしら?」

「成長するパワースーツ?」


 俺がレオに用意しようと思っていたパワースーツ。

 それは師匠が言ったパワースーツのことだ。


「ええ。王国の南にあるズーの遺跡という場所に封印されているそうなの。あなたは興味があるかしら?」

「あります!」

「ふふ、いつも冷静に見えるアンディもパワースーツに興味があるなんて、男の子なのね」


 つい、興奮して立ち上がってしまった。

 本来、乙女ゲームの攻略が難しい際に、登場する課金アイテムなのだ。

 乙女ゲームでは、ゲームオーバーの一つとして、男性キャラの死亡がある。


 課金して手に入れられるパワースーツは、初期機能は低いのだが、男性キャラを育てていくうちにキャラに合わせた能力向上を上乗せしてくれるので、他のパワースーツと一線を画すことができる。


「……僕らに手に入れることができますか?」

「それはあなたたち次第よ。今すぐ遺跡に挑むことはオススメしないけど。あと半年、あなたたちの修行が一年に達した時の最終課題にしようと思っているわ」

「先に教えてもらっていいんですか?」

「あなたは私が教えなくても、そこに辿り着いてしまいそうだったからね。これは釘を刺しているのよ」

「あっ!」


 さすが師匠だ。

 どうやら俺が課金アイテムの所在を探していたことを知られてしまったようだ。

 まだ半年の付き合いだが、師匠には頭が上がらない。

 戦闘訓練をしているとき、マシロを含めた三人で挑んでも体に当てることすらできない。


 マシロが魔法を使ってもだ。


「あと半年ですね」

「ふふ、そうよ。あなたも、レオも素質がある。だから頑張りなさい。あなたたちのおかげでマシロも苦手を克服したわ。魔法の勉強をするようになった。とても感謝しているのよ」

「師匠」

「ん?」

「いえ、なんでもありません」


 俺はこれほどまでに強い師匠が、どうして乙女ゲームの世界に登場しないのか疑問だった。そして、今のマシロを見ていると、どうして乙女ゲームのように志が高く女王を目指そうと思えたのか理解できなかった。


 今のマシロは天真爛漫で、純粋な強さを求めているだけだ。

 女王を目指す素振りはない。 

 それを聞こうと思ったが、なぜか聞いてはいけないような気がしたんだ。


「アンディ、もしも私に何かあった時。マシロの力になってくれるかしら?」

「えっ?」

「別に危険なことをするわけじゃない。だけど、いつまでも私があの子を守ってあげることはできない。それまでにあの子が誰かと歩む道を見つけてくれればいいけど、もしもそうならなかったら」


 レオと模擬戦をするマシロ。


 二人は、マシロが優勢だが、レオも随分と戦えるようになった。

 たまに、二人で変なポーズを取り合って罵り合っているが仲も良い。


「案外、俺なんかよりもレオがマシロを支えるようになるかもしれませんよ」

「ふふ、それはそれで良いわよ。あなたたち二人は珍しいぐらいに良い子だから、どうかお願いします」


 師匠が真剣な表情で、俺に頭を下げた。


「やっ、やめてくださいよ、師匠! そんなことをしなくても、俺たちはもう友人ですから」

「本当にあなたは良い子ね。成長が楽しみで仕方ないわ」


 師匠と話す一つ一つが俺にとって勉強だった。


 この世界を生き抜くために俺たちは強くならなくちゃならない。


 ♢


 一年の月日が過ぎ去るのがあっという間に思える。

 師匠と話をしてから半年、俺たちは三人で修行とレベル上げを行っていた。


「おい、アンディ。あっちに魔物がいるぞ」

「ああ、レオが倒すか?」

「すでにマシロが」

「いやーー!!!」


 叫び声と共に魔物がマシロによって倒される。


「マシロ、俺たちにも残しておいてくれよ」

「ごめんね、アンディ君。レオも」

「俺様を呼び捨てにしてんじゃねぇ!」

「はいはい」


 この一年でマシロの身長は20センチ伸びて150センチ。

 胸やお尻も女性らしくなって、元々美少女だった顔は女性へと変化しつつある。


 現在は師匠の許可をもらって冒険者としての活動をしていた。


「魔物を倒すことでレベルが上がるって聞いていたが、実際に体験すると不思議な感覚だな」

「だな。俺は二人ほど魔物を倒せていないからレベルが低いが、二人は凄いな」


 三人でパーティーを組んで師匠が引率をしてくれる。

 

 最近、師匠はAランクに昇格してしまったと嘆いていた。

 元々実力があるのに、パーティーのリーダー適正が足りなかっただけということで、冒険者ギルドのマチルダさんには感謝されてしまった。


「だけど、模擬戦をすると私はアンディ君に勝てないや」

「それは俺もだな。アンディってなんかやりにくいんだよな」

「レオには負けないけどね」

「何を! この前一本取っただろうが」

「魔法なし、武器なしの、なしなしルールだけどね」

「くっ!」


 実際、マシロは確実に強くなっている。

 強化魔法以外は、あまり得意ではないようだが、体術は俺たちの中で一番だ。

 動くたびに、大きな二つの塊が揺れるのだけはどうにかしてほしい。


「アンディ君には、魔法を使えば勝てるけど。それ以外は勝てないから不思議なんだよね」

「観察しているだけだよ」


 俺は師匠に教えてもらった日から二人を観察している。


 そして、俺の中で一つの目的を達成できるレベルに来たと思っている。


「なぁ二人とも」

「どうした?」

「何?」


 師匠から許可ももらった。

 多分、師匠もどこかで今のやりとりを見ている。


「行ってみたい場所があるんだ。一緒に来てくれないか?」

「アンディの行くところならどこでも行くぞ! 親友だからな」

「うん。私たちのリーダーはアンディ君だからね。もちろん一緒に行くよ」


 この一年、俺たちは友人として、修行や勉強、互いの誕生日パーティーをしたりと親交を深めてきた。


 だけど、男女の友情がいつまでも続かないと俺は思っている。

 三人の関係性は、いつか崩れてしまう。


 それは一年後にやってくる学園なのか、それとも学園を卒業した後なのか、それはわからないけど、いつか終わりがやってくる。


 その前に……。


「ありがとう。なら、ズーの遺跡に行きたいんだ」

「ズーの遺跡? あそこは魔物も住まない遺跡だろ?」

「そうだね。何もないってお父、お母さんも言っていたし」

「それでも行きたいんだ」


 そこに俺の欲しい物があるから……。

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