第8話 親友だろ

 壁際に下がった俺たちは、飲み物を口にしていた。

 レオはシルバー様に叱られていた。


「お前は何がしたいんだ?! ミルディン子息が機転を利かせてくれたから良かったが。一つ間違えれば、敵対派閥の者たちに付けいるスキを与えるところだったのだぞ! 貴様は将来、私の夫になる婚約者候補なのだ。しっかりしてもらわねば困るぞ」


 おや? それは新しい事実だな。


 シルバー様の婚約者が、レオだったのか? まぁ順当に行けばそうなるよな。

 貴族の頂点である公爵家の婚約者として、侯爵家のレオが選ばれるのは必然だろう。


「うっ、うむ。すまぬ。俺様がどうかしていた。あのカグラ王女様を見ていると居ても立ってもいられなくなってしまったのたんだ」

「全く、エスコートしている私の顔を潰すつもりなのか?!」


 しばらくレオがシルバー様に叱られていたので、俺は会場に視線を向ける。


「どうだ? アンディ」

「レティシア姉さんは、社交界の場でも堂々としているんだね」

「それはそうだろう。立場というのもあるが、この国は良くも悪くも女性の強さが評価される。強い者は生き、弱い者は淘汰される。だからこそ私は強者であり続けるつもりだ」


 そう言って胸を張るレティシア姉さんは強く気高い女性だ。


「アンディ〜」


 泣きそうな声で俺を呼ぶレオ。


「どうしたんだ?」

「俺様が悪いのか? 俺様はダメなのか?」


 あ〜シルバー様にコテンパンにされたんだろうな。


「レオ」

「うん?」


 情けない声を出すレオに俺は真剣な目を向ける。


「お前は何か恥じることをしたのか?」

「えっ? いいや。そんなことはしていないと思う」

「なら、自分を悪いと思うな。ダメだと思うな」

「うん」

「僕たち男は、強さを求められていないかもしれない。だけど、庇護されるだけの弱い存在で、いていいわけがないだろ。だから、強く自分の意思を持て」


 俺はレオの胸を叩いた。


「アンディは強いんだな」

「強くはないさ。まだまだ僕も勉強中だ。そうだな、レオに足りないのは、知識と強さだ」

「知識と強さ?」

「そうだ。勉強をして知識を増やすだけじゃない。男として女性への対応の仕方。世間の常識。礼儀作法の所作。ただ計算や文字が書けるだけじゃダメなんだ。相手の機微がわかる賢さが俺たち男にはいるんだ」


 レオはわからないような顔をして首を傾げる。

 

 俺の言葉を聞いていた、シルバー様とレティシア姉さんは驚いた顔をしている。


「うん?」

「レティシア。お前の弟は凄いな。どうだ? 私の婚約者に差し出さないか?」

「シルバー様、申し訳ありません。アンディは我が家の大切な宝ですから選別はまだまだ厳選中です」

「くっ! 我が家に男が生まれていればな」


 レティシア姉さんが俺を抱きしめて、シルバーさんから守るようにする。


「アンディ、お前は凄いな」

「そうか? お前も一緒に賢くなればいいだろ」

「あっ、ああ。うん! ありがとう!」

「何言ってんよ。親友だろ」

「ああ、親友だ」


 俺が親友と口にするたびに、レオは嬉しそうに笑う。


 それを見ていたシルバー様が優しくレオを抱きしめた。


「ふむ。これはこれでありだな」

「シルバー様、男を育てるのも女の器量です」

「レティシアのいうことももっともだ」


 俺たち四人はパーティーが終わるまでお茶を飲んで話をした。

 その間、なぜか俺とレオは抱きしめられたままだった。



 社交界を無事に終えることができたことで、俺は一つの考えを持つようになった。


 この世界は強さこそが全てであり、レオを悪役貴族として陥れようとする反対派閥が存在している。

 それを排除できなければレオは悪役貴族に落ちてしまう。


 相手は攻略対象であり、簡単に排除できる存在ではない。


 こんな時に転生チート能力でもあればいいが、男は魔法が使えない。

 地道に体を鍛えて、剣術の訓練をするしかない。


 屋敷の外を見れば、シンシアが魔法の練習をしていた。


 人形を操作して、鉄でできた鎧を切り裂いていた。

 

 生身の人間だと思うと怖くなる。


 この世界の魔法の系統は六つに分けられている。


 1、操作魔法

 2、自然魔法

 3、強化魔法

 4、精神魔法

 5、具現化魔法

 6、特殊魔法


 系統に応じて得手不得手があり、全てが使える者もいれば、一系統しか使えない魔法使いもいる。


 だからといって弱いわけじゃない。


 一系統でも極めればというやつだ。


 シンシアは操作系の魔法を得意としていて、存在する物質や生物を操作して操ることができる。

 回復魔法などもここに分類されていて、体内の傷修復機能を操作して、俺の傷も治してくれたのだ。


 アリシア母上が得意なのが自然系で、大気中に存在する火、水、風、土、雷、光、闇。など自然に存在する元素を魔力で操ることを得意としている。


 その中でも火の上位である炎を最も得意としているそうだ。


 レティシア姉さんが得意なのが強化系で、強化系は己の肉体にだけに作用する魔法で、己の肉体を強くして跳躍力や筋肉の強さや骨の硬さを強化することができる。

 

 単純な魔法に見えるが極めれば、超人的に強くなれる。


 ・精神系は、生物に対してのみ効果のある魔法で、魔力によるバフ効果、デバフ効果、異常攻撃を他者に施すで行うことができる。


 ・具現化系は、一定の物質に限られるが、無から魔法によって物質を生み出すことができる。

 ただ、具現化系を得意としている魔法使いはほとんどいないので、廃れた魔法と呼ばれていた。


 ・特殊系は、これら五つに属していない魔法を全て指す。いわゆるその他というやつらしい。

 例題としては、召喚魔法やエルフが使う精霊魔法などが分類されるそうだ。


「ふぅ、魔法の勉強をしても男は使えないのが悲しいな」


 ただ、俺には目論見があった。


 男は魔法を使えない。

 だが、この世界は乙女ゲームの世界であり、男が戦いに参加しないかと言えばそうではない。

 

 男キャラも鍛えて、戦闘参加が認められている。


 特に、女王を決める戦いでは婚約者の力が必要になる場面が度々現れる。


 そんな時に、使われるのがパワースーツと呼ばれる。

 アーティファクトから作られた戦闘服だ。


「アンディは本来死んでいる設定で、ゲーム上は戦闘服が存在しない。だが、レオや他の攻略者には存在する」


 悪役貴族に相応しい漆黒の鎧をレオが着ている想像をしてニヤニヤしてしまう。


 

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