第6話 攻略対象者たち

 三人から驚いた顔を向けられる。


「アンディ……」

「うん?」


 レオに名前を呼ばられて、首を傾げる。


「エスコートしておられるシルバー様に声をかけられてから挨拶をするのだ」


 レティシア姉さんが驚いた理由を教えてくれた。

 どうやら女性の貴族様から声をかけられるまでは、挨拶をしてはいけなかったようだ。


「世間知らずと聞いていたが、変わった弟なのだな。レティシア」

「はい。そうなのです。ですから、どうかご容赦ください」

「ああ、初の社交界だ。多少の無礼は目を瞑るとしよう。レオガオン、いくぞ」

「はい。シルバー姉さん。アンディ、後でな」


 レオが俺に手を振って社交会場へと入っていく。


「レティシア姉さん。先ほどの方は?」

「ああ、あの方はシルバー・シュウ・ビジョップ公爵令嬢様だ」

「ビジョップ公爵令嬢様?」

「ああ、二大公爵家の次期当主様だ。我々からは身分が上の方にあらせられる」


 なるほど、今の現状はレオに声をかけられたが、本来はシルバー様に声をかけられるまでは挨拶をするべきではなかったわけだ。

 レティシア姉さんは、シルバー様から声をかけられてから返事をしていたな。


 こんなところで男女格差を知ることになるとは、乙女ゲー社会は難しいな。


「さぁ、我々も会場に入ろう。会場内は私の腕を掴んでおくんだぞ」

「はい。レティシア姉さん」


 俺は知らない人ばかりの社交会場で唯一の味方であるレティシア姉さんにエスコートしてもらう。

 豪華なシャンデリアが飾られた会場は、煌びやかな貴族令嬢がたくさんいて、好奇の視線が突き刺さってくる。他の貴族にも男性はいるだろう。

だが、今回のデビュー組を見ようとして、視線を向けているんだ。


「さぁ、まずは同年代の男性たちが集まる場所に向かうぞ」

「はい」


 同い年の男子が集まるテーブルへ向かっていく。

 席にはレオがいて、それ以外に二人の少年がテーブルにいた。


 幼く見える青い髪をした童顔な美少年は俺の衣装に似ている短パンに青いブラウス。

 呆然とした顔に緑髪をした高身長の少年は緑色の長ズボンのスーツ。

 一番目立つレオは、金髪に真っ白な軍服を連想させる長ズボンのスーツ。


 三人ともタイプの違うイケメンだが、レオが一番目立っている。


「アンディ、彼らのことはわかるか?」

 

 レティシア姉さんが耳打ちしてくれるので頷く。

 男性の顔は、ゲームの攻略対象者なので俺の記憶に残っている。


・ブルーム・ハーラー・マックーロ伯爵子息

 

 あざとい系ロリショタ美少年、腹黒で抗戦的な性格をしている。

 主人公の攻略対象で、女性に甘える可愛い系男子。

 同じ男には異常に厳しい。


・グリーン・ムー・カーン公爵子息


 二大公爵のカーン家出身で、優しき巨人。

 無口で多くを語らないが、気遣いのできる男性として、主人公の攻略対象だ。

 優しいというよりも他人に無関心で、こちらを一度も見ようとしない。


 乙女ゲームの主人公には五人の攻略対象がいて、見た目や性格の違うイケメンを攻略していくのだ。


 レオにとっての敵であり、レオの親友である俺にとっても敵になる。


「アンディ、そろそろ女王陛下への挨拶だ」

「はい。レティシア姉さん」


 今回の上位貴族子息は四人だけ……ではない。


 もう一人。


「皆の者よ! 今宵もよく集まってくれた。今宵は我が息子であるクロード・ダークネス・ヤンデーレの紹介からさせてもらう」


 ヤンデーレ女王陛下の挨拶と共に、隣に立つクロード王子。


 真っ黒な髪に、漆黒の瞳。

 

 レオのライバルであり乙女ゲームの主人公が攻略するメインキャラ。

 

・クロード・ダークネス・ヤンデーレ。


 我儘で厨二病チックなレオと対照的に、大人しく優秀で頭が切れる王子様。

 温厚そうな態度と見た目ではあるが、独占欲が強くて、ヤンデレな部分をもつ。

 主人公と結ばれた際には、主人公が他の男と話をしただけで、他の男を呪い殺そうとするような奴だ。


「さぁ、今宵の主役たちよ。前に来なさい!」


 女王陛下に呼ばれて、俺たち四人はエスコートしてくれる者と共に前に歩いていく。

 ブルームが足がもつれたフリをして、レオを転ばせようとしたので、ブロックした。


「なっ!?」

「大丈夫ですか? マックーロ様」


 レオに何かを仕掛ける前に、俺が受け止めて心配そうに声をかける。

 そんな俺を睨みつけるブルームに対して、心から親切心で受け止めたことを表すように、優しそうな笑顔を浮かべた。


「ああ、ありがとう」


 こいつは平気でこんなことをする。

 大勢の場でレオが転倒すれば笑い者になる。

 それを計算でやっているのだからヤバい奴だ。


 女王陛下の前に来ると、クロード王子が膝をついて頭を下げる。

 クロード王子の後ろで、同じポーズで膝をついた。


 クロード王子の横には黒髪の美女が膝をついている。

 彼女はクロード王子の双子の妹で、悪役令嬢ポジションのキャラであるカグラ王女様だ。

 その優雅な所作と綺麗な佇まいは、見惚れるほどに美しい。


 ただ、俺の隣で膝を折って頭を下げるレオから「美しい」と、カグラ王女に向けられた声が発せられたことに俺は驚いてしまう。


「皆の者よ。新たな少年たちを迎えてやってくれ!」


 女王の声と共に、エスコートしてきた女性たちが、俺たちのベールをとってハットを奪う。


 どうやらこういう演出のようだ。


 五人の顔が晒されて、周りを固めていた女性たちが歓声を上げる。


「うむ。お披露目は終わった。あとはゆっくりとパーティーを楽しんでくれ」


 女王の挨拶と共に、社交界のお披露目は終了を告げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る