第3話 家族はヤベー女しかいない
ハインツ侯爵家を後にした途端、馬車で母上に抱きしめられる。
「ごめんなさい。あなたに消えない傷をつけることになってしまって……」
ハインツ邸で、母上は気持ちを我慢していたようだ。
向こうの方が高位の貴族だからだろう。
ただ、三十歳にも達していない母親に抱きしめられるのはちょっと照れる。
レオに殴られたことで、一生消えない傷を作られてしまった。
「ハインツ侯爵家とのお付き合いは、今後しないでおくわ。あんな凶暴な子がいるところに私の大切なアンディを近づけさせるわけにはいかないもの! 本当に信じられない。絶対にハインツ侯爵家のレオガオンは許さない! 陛下に言って貴族社会から排除してやるんだから!」
おや? 俺が死んでいなくても、ヤバいんじゃないか?
母上の周りにメラメラと火花が舞っているように見える。
女性しか、魔法を使えないということだが、魔法が使えるって羨ましいな。
「アンディも怒っているわよね? あなたは誰とでも仲良くできる心が広くて優しい子だけど、レオガオンはやりすぎよ」
プリプリと怒る姿は怖いような、可愛いような。
「乱暴者で我儘なクソガキが!」
次第に怒りが増幅して、火花が業火になってきた。
メチャクチャ怖かった。
「アンディなら、レオガオンを相手にしても大丈夫だと思った母を許して頂戴。あんなクソガキ、私の手で焼き殺してやってもいいぐらいよ」
女性が強い世界なのを実感させられる。
母上が荒ぶっていると炎が散ってヤバいことになってきた。
このまま何も言わなければ、レオは貴族社会から爪弾きにされて、親友を傷つけたトラウマをもって悪役貴族の道に進んでしまう。
ハインツ侯爵様も反論はするだろうが、俺の頭には証拠となる傷があり、母上の荒ぶりっぷりからすれば反論しても厳しいだろう。
「母上……ダメです」
「えっ?」
「レオは僕と友達になったんだ。だから、今回のことを許してあげて」
「まぁ!」
抱きしめられたまま、胸に挟まれた顔をあげて、上目遣いに母上におねだりする。
ウルウルと瞳を潤ませて、これでもかと媚を売る。
あざとい方法ではあるが、男性が少ない世界なら有効なはずだ。
有効であってくれ!
「アンディ、あなたは本当に心の優しい子なのね!」
先ほどまで燃えていた炎が一瞬で消えて、ギュッと抱きしめられる。
なんとかなった?
「だけど、傷ができてしまったのよ。怒っていないの?」
「レオは素直になれないやつなんだ。僕がレオと友達になって、教えてあげないとレオはずっと素直になれないままなんだ。お願い、母上! 僕にレオと友達になる時間をください」
「ええ、ええ! アンディがそうしたいなら、母は何も言いません!」
チョロい! 思っていた以上に即答だった。
レオに続いて母上もチョロいぞ。
まぁ、男性が少なくて大切にされている世の中だから、当たり前なのか?
「ありがとう、母上。大好きです」
「まぁ! だっ、大好きって! ふふふ、そんなことアンディは一度も言ってくれなかったわ! クソガキ、いいえ。レオには感謝をしないといけないわね」
強くギュッと抱きしめられて、俺は美人の母上に甘やかされながら、家へと帰ってきた。伯爵家は侯爵家よりも屋敷の規模は小さいが十分に広い。
「さぁ、今日は怪我をしたのだから、ゆっくり休みなさい」
「はい。母上」
手を繋いで馬車から降りる。
使用人も、御者も全て女性しかいない。
男性の姿は見ることがない。
屋敷の玄関に入っていくと、赤茶色の髪をした二人の美少女が出迎えてくれる。
「アンディ! お帰りなさい!」
「アンディ兄さん、お帰りなさい」
姉レティシアと妹シンシアが俺を抱きしめてくれる。
どっちも美人で可愛い。
母上と一緒で、家族が美しいことは嬉しい。
ただ、母や姉妹は恋人にできないので、モテても仕方がないけどね。
今は可愛い姉妹に抱きつかれることを喜ぶとしよう。
「ふふ、二人ともアンディが大好きね。だけど、ダメよ。今日のアンディは怪我をしているの。あまり抱きついては傷口が開いてしまうわ」
母上に嗜められて、二人は驚いた顔を見せる。
「アンディ、怪我をしたの? 大丈夫? 何があったの?」
「お兄様、どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
二人とも涙を浮かべながら、俺のことを心配してくれる。
可愛い姉妹に心配されて悪い気はしないな。
「うん。大丈夫だよ。少し頭が痛いから今日はゆっくり休ませてもらうね」
実際に、治癒師に回復魔法はかけてもらったのに、ズキズキと頭が痛む。
「ハインツ侯爵家のクソガキに木刀で殴られて殺されかけたのよ。あら? 思い出したら鉄で出来た花瓶を溶かしてしまったわ」
母上が強すぎる! いくら女性が強い世界だって言っても異常に強い。
「えっ、アンディを殴って殺しかけた? お母様、私にそいつを殺す権利をください。秒殺で殺して参ります」
「私も私も! クマちゃんで捻り千切ってあげるの?!」
えっ! 二人の様子が急変しすぎだよ。
ヤンデレなのかな? ヤンデレ姉妹はちょっと怖いよ。
「ダメよ。これはアンディからのお願いなのだから」
「アンディからの?」
「アンディ兄さんからの?」
母上は先ほど馬車で話したことを覚えてくれていたようだ。
二人を嗜めて止めてくれる。
「ええ、アンディは、怪我を負わされた相手を許して、友達になるから殺してはダメだって」
「くっ! アンディが優しくて眩しすぎる」
「アンディ兄さん素敵なの」
なぜか、家族の好感度が青天井だ。
とりあえず、過激な家族の心を止めることはできたようだ。
色々と心労が溜まったので、部屋に帰って休みたい。
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