第2話 現状の認識は説明会

 レオガオン・ドル・ハインツ侯爵子息によって、アンディウス・ゲルト・ミルディン伯爵子息は殺されてしまう。


 レオの人生は殺人を犯したことで狂っていく。


 アンディの親が王様に事件を報告して、貴重な男性を殺した罪は同じ男でも重く。

ハインツ侯爵家は他の貴族から阻害され、領地を没収されてしまう。


 いくら侯爵家であろうと、王国貴族社会から排除されては、生活はままならない。


 レオガオンが成長して十五歳になった時、王立学園に入学する。

 それが乙女ゲームの始まりになる。

 入学するまでのレオの生活は、悲惨なものだった。


 貴族社会から弾かれたレオの母は心労によって、病を患い死んでしまう。

 頼りの母を失ったことで、レオは国からの支援で生きることはできても、頼れる人がいない生活は精神が崩壊して捻じ曲がっていった。


 人殺しの最低男。


 貴族社会に生きている女性から向けられる侮蔑の視線。

 レオを見下し蔑む男たちによって、どんどん悪い方向に人生を歩んでいってしまう。


 最後のキッカケとなったのは、平民である主人公の女性に出会ったことだった。

 入学式の日、他の貴族子息から嫌がらせを受けていたレオ。

 そこに主人公がやってきて、無意識にレオを助けることになる。


「大丈夫ですか? お怪我はしていませんか?」


 この世界で魔法が使えるのは女性だけだ。そのため平民であっても、立場は女性の方が高く。下級貴族の子息にとっては、目をつけられないように逃げてしまう。

 

 誰からも優しくされることない日々によって、主人公との出会いはレオに一筋の光を与え、一目惚れしてしまう。

 

 運命の出会いに思えたのだろう。

 

 彼女がクイーンを目指すために必要な旦那に選んでもらうために、主人公が他の男と仲良くなるのを邪魔ばかりするようになる。

 

 それを闇の組織に操られるようになり、思いが通じることはなく、最後には主人公によって殺されてしまう。


「今思うと悲しい奴だよな。だけど、俺もどうして殺されるキャラに転生してしまったんだ?」


 ある程度記憶が戻ってきたので、頭の整理を終える事が出来た。


 レオを見れば、金髪金瞳のユルフワ天然パーマの美少年が、俺を心配そうな瞳で見つめている。

 黙っていれば気の強そうな吊り目ではあるが、まだ幼い感じで可愛い印象を相手に与えるだろう。


 悪役貴族になったレオは、精神が歪んで心が濁ってしまう。

 金色に輝いていた髪は光を失い、金色に輝く瞳はくすんで、頭のおかしいキャラが出来上がる。


「なっ、何をさっきからジロジロ見ているんだ!」

「お前は可愛いな」


 前世の記憶が蘇ってくると中学生ぐらいのレオが幼く見えてきた。

 特に厨二病の経験を持つ身としては、うっすらと遠い目をして共感してしまう。


「なっ! アンディ! 俺様をからかっているのか? この黄金の瞳がお前を滅することになるぞ」


 うん。わかるよ。わかるけど、将来恥ずかしさで身悶えるからね、そのセリフ。

 厨二病っぽい思考とツンデレな性格、上位貴族の子息として、大事に育てられてきたんだろうな。


 友人が一人もいないから誰も指摘しない環境が増長させる原因になっている。

 まぁ、指摘は俺もしないけど……、面白いからついつい増長させてしまう。


 アンディが「獅子王レオガオン様だ!」と煽ったのも悪かった。


 うん。こいつ面白い。



 アンディという少年は、飄々とした態度で、レオの側にいることも苦痛には感じていない人物だった。

 親友になりつつあったアンディを殺してしまうことで、レオ自身の心にトラウマを植え付けてしまう。


 俺が転生したことで、アンディが死ぬ未来が変わった。

レオはトラウマを抱える事無く、初めてできた友達を心配する瞳をしている。


「はいはい。俺の母上は?」

「ああ、お前のことを心配しておられた」


 治療師を呼んでくれて、自分の罪を隠さず告げたのだろう。

 申し訳なさそうにしている姿は、素直な良い子だ。


「なら、呼んできてくれ」

「なっ! 俺様を小間使いにするのか?」

「なんだ? 親友の頼みが聞けないのか?」

「親友! ふっ、ふん。仕方ない。親友の頼みなら聞いてやるしかないな」


 チョロい。


「ああ、頼む」

「待っていろ」


 俺はベッドに頭を預ける。

 殴られたところはタンコブでもできているのか、ズキズキと痛む。


 だけど、まぁいいさ。


 本来死ぬはずだったアンディに転生したってことは、日本人だった俺は死んでしまったのだろう。

 どんなやつで、どんな人生だったのか、断片的にしか思い出せない。

 大学生ぐらいの年齢で、乙女ゲームをプレイしていたことは覚えている。

 

 そして、鮮明に覚えている記憶として、前世の俺は全くモテなかった。

 もうモテなさ過ぎて女ではなく、付き合ってくれるなら、男性でもいいと考えたぐらいだ。


「アンディは、レオほどの美少年ではない」


 起き上がって部屋に有った鏡で姿を見る。


 顔は悪いわけではないが、レオに比べると平凡。

 赤茶色の毛は綺麗に整えられているが、目立つほどではなく、どこにでもいそうな子供が鏡に写っている。平凡であってブサイクではない。


 特別にモテそうにはないけど、この世界の基準はわからない。


「レオを上手く利用すれば、女性が多い世界なら、モテモテな人生を歩めるかもしれない」


 ゲーム主人公の目標は、女王戦と言われる、QBR《クイーン・バトル・ロイヤル》に参戦することだ。


 QBRに参加するためには条件がいる。

 それは生涯を約束した伴侶とクイーンバトルに登録する必要がある。

 この世界で男の仕事は、女性から愛され、多くの子種を提供することだ。

 

 貴族ではない男性は、仕事をしている者もいるが、貴重な存在として女性に保護されていることの方が多い。

 

 美少年であるレオの周りには女性が集まるだろう。レオがフった女性を俺が慰めて、いい雰囲気になれる。


 俺自身はモテなくても、レオのおこぼれ的な感覚で女性に優しくしていれば、勘違いして惚れてくれる女性もいるだろう。


 最終的に、そんな女性の伴侶になってもいい。


「よし! 情けない話ではあるが、女性に不自由することない人生を歩むために、レオの親友になってやろう! むしろ、悪役貴族にならない未来にレオを育てれば、あいつを餌に女子が寄ってくるはずだ。これは美味しい話だぞ」


 新しい人生をアンディとして生きていく。

 俺は全力で人生を楽しんでやる。

 目標はモテモテになって美少女や美女とイチャイチャすることだ。

 恋多き男として生きてやる。


「アンディ!」


 扉が勢いよく開かれて、美しい赤毛の女性が部屋に入ってきた。

 勢いのまま強力な胸部装甲で俺の顔を包み込む。


「うっ、うんん」


 苦しい! 息ができない。


「アリシア。そのままではアンディウスが死んでしまうわ」


 金髪の女性が部屋の扉で叫んで、アリシアと呼ばれた女性を止めてくれる。


「あっ! ごめんなさい。あなたが心配だったの。レオガオン様から、頭を殴ってしまったせいで、アンディの記憶が混濁してるって聞いて心配したのよ。私のことはわかるかしら?」

「はい。母上、大丈夫です」


 一応、アンディの記憶も多少は戻っている。

 彼女が母親だということは認識できる。


「そう! よかったわ」


 もう一度、巨大で柔らかな胸部に顔を埋めて抱きしめられる。

 パフパフとして、柔らかくていい匂いがする。

 記憶では母上だとわかるのだが、知らない女性に抱きしめられている感覚の方が強い。


「もう、過保護なんだから」


 先ほどから母上を嗜めているのは、レオの母親で、レーラ様という侯爵家当主だ。

 女性が貴族の当主になって、男性を保護する世界なのだ。

 貴重な男性が生まれると、母親は過保護なぐらい愛情を注いで育てる傾向にある。


「当たり前じゃない。私にとっては唯一の息子なのよ。可愛くて仕方ないわ」

「まぁ気持ちはわかるけど、あまり構いすぎると反抗期になるっていうわよ」


 レーラ様が、腕の中にレオを抱きしめる。

 レオは恥ずかしそうにしながらも、レーラ様を拒否することはない。


「アンディは大丈夫よね? そんなことよりも怪我をしたから帰りましょうね」

「はい。母上」

「レーラ、いいわよね?」

「ええ、もちろんよ」


 互いに息子を持つ親として、大切な気持ちはわかるようだ。

 俺はレオへ声をかける。


「またな」

「うっ、うん! また」


 嬉そうにするレオに別れを告げて屋敷を後にした。


 

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