俺の親友は悪役貴族。
イコ
プロローグ
第1話 記憶喪失は異世界転生の序章
「アン。アンディウス」
俺は自分の体が揺り動かされて、目を覚ます。
「うん? なんだ?」
「いい加減にしろ! 俺様に起こさせるとは、いい度胸だな! しっ、死んだふりをするなど、本当に死んだのではないかと思ったではないか?!」
そう言って、怒っているのか、心配しているのかわからない言葉をかけてくる少年の顔は、泣きそうな顔をしていた。
ただ、泣きそうな顔なのに酷く端正で美しい顔は綺麗だった……。
輝く金色の髪に、黄金の瞳を持つ美少年に見下ろされている。
ふと、ここがどこで、自分が誰なのか、混濁した記憶は、自分のことすらわからない。
「どうしたのだ? 何か言え! 俺様のことがわからないのか?」
「ああ、わからない。誰だ、お前?」
知っているのが当たり前という声に否定を口にする。
「お前だと!!! このレオガオン様の顔を忘れたのか?! 獅子王と貴様が呼んでいたではないか?」
「獅子王? うーん、わからん。どうして、俺はこんなところで寝ているんだ?」
「そっ、それは……、知らん」
完全に動揺して顔を背ける。
こいつは黒だな。レオガオンと名乗った少年にどこか聞き覚えがある。
「いや、絶対知っているだろ。ちゃんと話せ。何があった?」
「おっ、お前を驚かそうと思って、後から木刀で頭を」
「殴ったのか?」
「うっ!」
ハァー、年齢にして、12、13歳ってところか? 子供にしてもやっていいことと、悪いことぐらいはわかるだろ。
「それで? 気を失って倒れたから起こしたと?」
「そうだ!」
なんで、そこは腕を組んで、偉そうに胸を張れるのかわからんな。
お前が犯人だろ。
「ハァー、まぁいい。多分頭を殴られたことで一時的に記憶を失っているだけだろう。なぁ、俺とお前は友達なのか?」
「とっ、友達だと……!!!」
なぜ、そこで目をキラキラとさせる? そんなに嬉しいことなのか? お前絶対友達いないだろ。
「そっ、そうだな。私たちは友達だ」
「なら、二人のことを教えてくれ」
こいつの態度がイマイチ掴めん。
顔はいいのに、なんとも残念そうな雰囲気だけは伝わってくる。
「まずは、私は獅子王レオガオンだ!」
「嘘はいい。お前が王様なら、この国は終わってるぞ」
「うっ、嘘ではない。嘘ではないが、まだ本当でもない」
「なんだそれ?」
「我は、侯爵家の嫡男であり、王族の血筋は引いているが、遠縁なので王位の継承権は低い」
なんだかしょんぼりした顔をする。
俺は立ち上がって肩を叩く。
「まぁ、なんだ、元気をだせ。責任なんて背負うもんじゃねぇぞ。気楽に生きていけばいいじゃねぇか?」
「……本当に記憶を失っているのか?」
軽口をいったことで、疑われた。
「ハァ〜? 知らねぇよ。完全に記憶はない。ただ、お前がクソ真面目で融通の効かないくせに、厨二病全開なことだけは理解できる」
「厨二病? なんだそれは?」
厨二病? 俺も自分で言っていて意味がわからん。
「さぁな。なんとなく浮かんできたんだ」
だが、レオガオンと話していて、段々と自分の記憶が戻ってきた。
目の前の美少年は、レオガオン・ドル・ハインツ侯爵子息。
レオガオン……金色の悪役貴族!!
不意に、俺の記憶が一気に流れ込んできた。
《クイーンバトルロワイヤル! 旦那様は自分の手で勝ち取る》
乙女ゲームとして、見た目が良い男を取り合う。
女性主人公が女王になるために、己の能力を上げながら意中の男性と恋中になる乙女ゲームの世界が舞台になっている。
ただ、登場するライバル女性が魅力的で、男性人気も高くなり、男性キャラも豊富なので、男女どちらが遊んでも楽しめる仕様になっていた。
そして、女性向けの乙女ゲーと言いながらも、どっちの性描写もあるので、なかなかに映像の綺麗さと相まって人気を爆発させたゲームなのだ。
そんなゲームの世界に登場する悪役貴族がレオガオンだ。
見た目はいいのに厨二病チックな思考と、俺様主義な考えでお邪魔虫をしたり、女王を操りたい闇の結社に操られたり、まぁ厄介なキャラとして登場する。
「乙女ゲーム?」
「なんだ? 何を言っている? もしかして頭が痛むのか? 治療師を呼ぶか?」
「そんなに心配した顔をしなくてもいい。大丈夫だ」
「しっ、心配などしていない。誰がお前など心配するか?!」
このツンデレ俺様系野郎がレオガオン? もっと我儘放題で、厨二病が酷いイメージだった。
幼い顔立ちを見れば、悪化する前なのだろうか?
記憶を思い出したところで自分のこと、アンディウス・ゲルト・ミルディン伯爵子息について考える。
俺は日本で乙女ゲームをプレイしていた。
ただ、アンディウスなんてキャラは出てきていない。
「おっ、おい!」
「うん?」
「頭から血が出ているぞ!? 本当に大丈夫なのか?」
「ああ、そういえば目の前がクラクラするな。すまん、治療師を頼む」
「早く言え!」
急いで草原を駆けていくレオガオン。
うん。悪い奴には見えない。
だけど、乙女ゲームの世界に転生したことは間違いない。
俺はこのゲームをプレイして、キャラのことをある程度把握している。
この世界は、剣と魔法の世界で男女比1/10の女王制だ。
女王は、最も優れた女性がなることが習わしであり、王国中から見目麗しく腕っぷしに自身のある女性が集まってくる。
ただ、女王戦に参加するためには資格がいる。
それが、夫となる男性を連れてくることだ。
世は男性が少なく、基本的に男性は大勢の女性を妻に保つことで子孫繁栄に役立っている。
だが、そんな男性に一人の女性を愛することを誓わせて互いに相思相愛になるこで資格を持つことができる。
では、悪役貴族であるレオガオンが何故嫌われているか? ゲームではイタイ奴として登場するが、そのきっかけとなった事件が存在する。
奴は、幼い頃に、遊んでいる最中に親友の少年を殺してしまう。
それによってハインツ侯爵家は貴族社会から爪弾きにされて、それでも自分の存在をアピールするためにレオガオンが逃げ込んだ先が闇の結社であり、厨二病だったのだ。
酷い生活のせいで、性格が歪み、嫌な奴へと成長したレオガオンは様々な犯罪行為に手を染めて、最後は……。
闇の組織に利用されたあげく、主人公に断罪されてしまう
「つまり、俺がレオガオンに殺されるはずだった。親友の少年ということか?」
そんな少年に転生して、レオガオンの親友というポジションになるなんて。
「ややこしい!!!」
どうせなら、レオガオンに転生するか、全く関係ないモブに転生させろよ!
「ハァー、頭がズキズキしてきたな。死ぬほど殴るってどんだけ力が強いんだよ」
「おーい! アンディウス! 連れてきたぞ!」
レオガオンが連れてきた治療師を見て、俺は安心して意識を手放した。
♢
次に目を覚ますと見覚えのない重厚な造りをしたベッドに寝かされていた。
「目が覚めたか?!」
「よう、レオ。ここはどこだ?」
「おっ、お前! いきなり馴れ馴れしいぞ」
レオガオンという長い名前が面倒なので短縮した。
「うるさい。頭がズキズキしてるから、大きな声を出すな。俺のこともアンディと呼べばいいだろ」
「アンディ!!! しっ、仕方ないな」
男なのに、モジモジと嬉しそうな顔をするなよ。
「まぁいい。それで? ここはどこだ?」
「おっ、俺様の家だ。治療を行わせて連れて帰ってきたんだ」
レオの説明を聞いて、先ほどよりも頭がスッキリして感じる。
ハァー、やっぱり間違っていない。
俺は日本という国で大学生をしていた。
名前は……ダメだ思い出せない。
ただ、ここが乙女ゲームの世界であるとということは覚えている。
そして、レオは、そんな乙女ゲームの世界で男なのに嫌われる悪役貴族として登場するキャラだ。
最後は惨たらしく、悲しきバッドエンドを迎える。
「そうか、命が助かったんだな。レオ、ありがとう」
「べっ、別にお前のためにしたんじゃないんだからな! 俺様が人殺しになりたくなかったからしただけだ」
うん。なんだこいつ? 意外に可愛い奴なのか? 男のツンデレに需要があるのか知らんが、美少年のツンデレは女性人気がありそうだな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
電撃の新文芸5周年コンテスト用の新作です。
色々と遊び心を持って書いていきたいと思うので、1話1話丁寧に書くために投稿はゆっくりしていきます。
楽しんでもらえるように頑張りますので、応援と頂ければ嬉しく思います。
皆様の暇つぶしになれば嬉しいです(๑>◡<๑)
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