アドバイスを実践する日々

帰宅する時に、花屋に立ち寄る。

小さいながらも花束を店員さんに作ってもらった。

あんまり大きな花束にすると世話の問題もあって、亜香里が嫌がりそうな気がしたからだ。


「ただいま」


珍しくいい匂いがしていた。

リビングに行くと亜香里が料理を作ってくれている。


「あれ?今日は、一緒に食べる日だったっけ?」


コンビニ弁当を隠しながら話す。


「今朝の行動。大人気ないと思って、反省したの。ごめんね」

「いや、俺の方こそごめん」


花束を差し出すと喜んでくれると思った。


「花なんて世話が大変なのにわざわざ買ってこないでよ。お酒とかチョコとか消耗品にしてよね」

「ごめん……」

「取り敢えず、ご飯食べよう」

「うん」


亜香里は、花束を喜んではくれなかった。

昔は、凄く喜んでくれたのに……。

俺が差し出すものは、何でもありがとうって言ってくれたのに……。


「ご馳走さまでした。おいしかった」

「よかった」


食器を下げて洗い始めようとした。


「やめてよ。諒哉がやるともう一回洗い直さなきゃいけないんだから。二度手間だから触らないで」

「ごめん」


洗い物をする事を、亜香里はすごく嫌なようだった。


【アドバイスうまくいきませんでした】


乃愛さんの方も、俺のアドバイスはうまくいかなかったようだった。

翌日、会社で同僚に妻のどんな所にときめくかを聞いてみた。


同僚は、モコモコの部屋着を着ている奥さんが二割ましで可愛くてときめくと話してくれる。

俺は、乃愛さんにその事を送る。

乃愛さんからもアドバイスがやってきた。


【料理してる姿に惚れ直すみたいです。私も夫が料理してくれたら感動して泣きます】


料理か……。

一緒にご飯を食べる週末。

俺は、料理を作ろうと決めた。


「諒哉。やめてよ」

「ハンバーグ作ってみようかなって思って」

「ハンバーグ?そんなの作れないでしょ。貸して、私がやるから」

「亜香里は、座っててよ」

「余計な事しないでよ!焦げ付いたフライパン誰が洗うと思ってんの?食材が無駄になったら勿体ないでしょ。やめて」


亜香里は、俺をキッチンから追い出した。

このアドバイスもうまくはいかなかった。

それでも、乃愛さんはアドバイスをくれる。


「ちょっと、アイロンがけ自分でしないでよ。しわくちゃじゃない」

「もう、掃除機はロボットの方が上手なんだから」

「勝手にチェストの中身片付けないでよ」

「その下着どこで買ったの?」

「髪型。似合ってないよ、全然」


乃愛さんのアドバイスは、全部玉砕した。

普通の人には、効くのかも知れないけど……。

亜香里には、効かなかった。


【寝てる時に後ろから抱き締められたらときめいちゃいますよ。そのままの流れで……どうでしょう?】

【やってみます】


回りくどい事はやめて。

素直になろう。

ありのままの俺を亜香里に受け止めてもらおう。


亜香里が先に寝ているベッドに潜り込む。

いつもは、背中合わせだけど……。

俺は、亜香里にそっと抱きついた。

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