初めての女友達

ビールを開けて飲んでいると人影がちらつく。

薄明かりの中でもわかるさっきの人だと……。

声をかけて一緒に飲む事にする。

結婚してるってだけで、ナンパ紛いの誘いでもハードルが下がるから助かった。

挨拶を交わし、彼女の名前が乃愛さんだとわかった。

彼女にピッタリな可愛い名前だ。


「それで、友達が言うにはですね」

「猫ですよね?」

「そうなんですよ」


下らない話を交わすだけで、さっきの出来事が消えていく。

このままずっと、乃愛さんとお喋りをしていたいけれど、そうはいかない。


「レスなんです……」


酔った乃愛さんの言葉に自分だけじゃないんだと安心した。

こんなにも可愛い乃愛さんも、レスで悩んでいるんだと……。

そう思うだけで、心が軽くなる。

俺も、今まで誰にも打ち明けられなかった事を打ち明けれた。

俺達は、【友達】になった。


お互いにアドバイスをして、レスを乗り越えたいって思ったんだ。

今までと違って、一人じゃないから大丈夫だって思えた。


乃愛さんと俺。

どっちもレスじゃなくなる。

そんな未来を夢みていた。


「じゃあ、また連絡します」

「それじゃあ。お互いに頑張りましょう」


ハイタッチをして、俺達は帰る。

これから先に起こる出来事なんてこの時の俺達は知らなかった。


「ただいま」


さっきと違って静まり帰ってる。

亜香里は、もう寝てるんだと思う。

リビングに行くと当たり前みたいに机の上に資料を散乱させていた。

俺は、それを片付ける。

着替えて寝室に行くと亜香里が寝ていた。


「俺が行方不明になっても探さないだろ?」


寝顔を見ながら呟いた。


ブブッ……。

亜香里のスマホが震える。

画面に映る文章に固まった。


【亜香里さん、旦那とはうまくやってよ。こっちもやってるんだから。後、明日は、会えるんだよね。いつもの場所で待ってるから】


水沢と書かれた名字に覚えがある。

二年前……亜香里に出来た後輩だ。

あの頃は、使い物にならないって嘆いていた。

そっか……。

そういう関係になったのか……。

スマホを見ないフリをして、隣に眠る。


亜香里は、もう俺を好きじゃないのかな?

背中合わせに眠る。

この夜がいつもより長くて仕方ない。

隣にいるはずの亜香里が遠く感じる。


でも、こんな夜を過ごしているのは俺だけじゃない。

乃愛さんも同じだ。


一人じゃない。

一人じゃないから……。

前よりも頑張れる。

前よりも強くなれる。



目覚ましが鳴る前に起きるのはいつもの事。

亜香里を起こさないようにゆっくりとベッドから降りて洗面所に向かう。

朝御飯を一緒に食べない事にも慣れた。

晩御飯も週に三度。

一緒に食べれたら、いい方だ。


「おはよう」


起きてきた亜香里に声をかける。

俺から、歩み寄らないと亜香里からは謝ってはくれないから……。


亜香里は、あからさまに俺を睨み付けて大きなため息を吐いた。

どうやら、まだ許されはしないみたいだ。

謝ろうと思ったけれど、亜香里はさっさと用意して家を出て行った。


「最悪だな……。こんな時、どうしたらいいんだろう」


トースターで食パンを焼く。

冷蔵庫にあるコーヒーを取り出してグラスに注ぐ。


俺は、乃愛さんに仲直りをする方法を訪ねていた。


【ベタですが、花束なんかどうでしょう?】

【帰りに買ってきます】


そして、食器を洗うのがいい事をアドバイスされた。

次の休みは、一緒に晩御飯を食べる日だからやってみよう。




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