第42話(草壁視点)強すぎるライバル
昼休憩の半分が過ぎた頃、藤宮さんが桃華ちゃんの手を引いてテントに戻ってきた。桃華ちゃんは俯いていて、どんな顔をしているのかは見えない。
「大丈夫? そろそろ、応援団は集まらなきゃいけないけど」
「うん。急いでご飯食べないと。ね、桃華」
藤宮さんの言葉に、うん、と俯いたまま桃華ちゃんは頷いた。そしてそのまま、慌てて食事を始める。
おかしい。
昼休憩に入ってすぐ、二人を探しにいった。一緒に昼食を、と声をかけたかったからだ。
けれど結局二人を見つけることはできなかった。
そして、桃華ちゃんのこの様子だ。
二人はいったい、どこでなにをしていたのだろうか。
この二人は、ただの友達でも幼馴染でもない。それはもう確信している。しかし、まだそれ以上のことは分からない。
付き合ってる……とか?
でもなんか、それも違う気がするんだよね。
聞いても、きっと本当のことは教えてもらえない気がする。それに、知りたい、というのは俺の勝手だ。
だけどやっぱり俺は、桃華ちゃんのことをもっと知りたい。
♡
「草壁、次リレーでしょ。一緒に行こうよ」
藤宮さんが、わざわざそう俺に声をかけてきた。桃華ちゃんの視線を感じるのは、きっと気のせいじゃない。
桃華ちゃんは、俺と藤宮さんが接触するのがすごく気になるらしい。これは桃華ちゃんの様子を見ていて気づいたことだ。
「珍しいね。俺のこと誘うなんて」
「どうせ行く場所一緒だから」
俺も藤宮さんも、団対抗のリレーに出場する。とはいえ、各団2チームずつの編成だから、チームは別だ。
リレーは希望者ではなく、50メートル走のタイムが速い人が出場する決まりである。
「男子だったら、アンカー対決できたのに」
不満そうに藤宮さんが唇を尖らせた。子供っぽい表情だ。
どのチームも、男女の走る順番は決まっている。俺と藤宮さんが直接対決をすることはない。
俺も藤宮さんも、チーム内で一番足が速い。
そういえば桃華ちゃんは走るの、かなり苦手だって言ってたな。
「まあでも、こっちのチームが勝つから」
「同じ団なんだから、ここで張り合わなくてもいいのに」
「絶対、勝つ」
にこりともせず、藤宮さんは静かに宣言した。
……藤宮さんって、こんな顔もするんだな。
入学当初から、藤宮さんにはあまり好かれていない自覚がある。
俺が桃華ちゃんに馴れ馴れしいからだろう。
でも、よくある女子の友達への執着と藤宮さんのそれは、度合いが違う気がする。
「草壁ってさ」
歩きながら、藤宮さんが小さな声で話し始めた。
周りがうるさいはずなのに、なぜか、藤宮さんの声以外の音が聞こえなくなっていく。
「桃華のこと、好きでしょ」
否定すべきか肯定すべきか迷って、俺は黙り込んでしまった。
「分かるよ。桃華って美人だし、頭いいし。ちょっと人見知りだけど、優しいし」
藤宮さんは、誰でも思いつくような桃華ちゃんの長所をあげた。
これはわざとなのだろうか。
「……好きだ、って言ったら?」
試すように問いかけてみる。速くなった鼓動がバレないように、微笑んで藤宮さんを見つめる。
「絶対、負けないから」
そう言うと、藤宮さんは俺をおいて走っていった。元々、この話をするためだけに俺を迎えにきたんだろう。
負けない、か。
それって藤宮さんも、桃華ちゃんのことが恋愛的な意味で好きってこと?
それとも、そうじゃなくても、桃華ちゃんが誰かと付き合うのを許す気はないってこと?
もしも後者なら、すごく面倒で厄介だ。
「……藤宮さんかぁ」
薄々、分かってはいた。
けれど今日、確定してしまった。
俺には、藤宮さんという、あまりにも強すぎるライバルがいるらしい。
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