第34話(草壁視点)二人の関係
「おはよう、桃華ちゃん」
目を見てにっこりと笑えば、おはよう、と桃華ちゃんも挨拶を返してくれた。
桃華ちゃんとは、かなり仲良くなれた気がする。
入学当初は、初対面から距離を詰めてきたし、フレンドリーな子なのかな、なんて思っていた。
だけど今は、むしろその逆だと分かる。
桃華ちゃんはたぶん、人見知りだ。そしてそれ以上に、他人への関心が薄いタイプだと思う。
そんな桃華ちゃんが明らかに特別扱いしているのが、藤宮さんだ。
クールで落ち着いた感じの桃華ちゃんと、明るく賑やかな藤宮さん。
一見相性がよくなさそうに見える二人は幼馴染で、すこぶる仲がいい。
でも、それだけだろうか?
俺は最近、この二人が幼馴染以上の関係にあるんじゃないか、と疑ってしまっている。
「桃華ちゃん」
「なに?」
「昨日の練習のことだけど、特に新しいことはなかったよ。演舞の練習が中心だった」
体育祭まで、もうあまり時間はない。そろそろ、うろ覚えになっているところをちゃんと覚えなくては。
「よかった」
安心したように桃華ちゃんが息を吐く。
「桃華ちゃんは、ゆっくり休めた? っていうか、藤宮さんと遊んだ?」
藤宮、という名前を出した瞬間、桃華ちゃんの頬が赤くなった。
顔を隠すようにすぐ俯いたけれど、俺には分かる。
入学してからずっと、桃華ちゃんの横顔を見てきたから。
「桃華ちゃんと藤宮さんって、本当仲良いよね」
「……幼馴染だから」
「桃華ちゃんが藤宮さんと遊ぶ時ってどんなことするの?」
「……っ!?」
可哀想なくらい動揺した桃華ちゃんが、右手を胸元にあてた。
「……いきなりどうしたの、優希くん」
「正反対のタイプだから、なにしてるのか気になっただけだけど……どうかした?」
「ううん。ちょっと驚いただけ。別に、話したりしてるだけだよ」
そう、と納得したふりをして頷く。ふと視線を感じて振り向くと、そこには藤宮さんがいた。
俺と目が合うと、すぐに目を逸らして桃華ちゃんを見る。
動揺した桃華ちゃんを見つめる藤宮さんの顔に、俺はぞっとした。
勝ち誇ったような、安心したような顔だ。そのくせ、桃華ちゃんを見つめる眼差しは胸焼けしそうなほど甘い。
入学当初、藤宮さんはこんな顔をする人じゃなかった。
今までの間に、二人になにがあったのだろう。
「何の話してたの?」
笑いながら、藤宮さんが俺の机にもたれかかる。桃華ちゃんがとっさに顔を顰めたのは、きっと気のせいじゃない。
俺のことが好きだから嫉妬してる……なんて、ちょっと前の俺なら勘違いできたかも。
さすがに、今は無理だ。
あの日……桃華ちゃんが暑さに負けて倒れた日、二人は何の話をしていたのだろう。
どうして桃華ちゃんは、泣いていたのだろう。
「二人が仲良いねって話」
おどけて答えると、藤宮さんは満足そうに笑った。
俺に見せつけるように、桃華ちゃんの腰に手を回す。
ビクッと反応した桃華ちゃんの顔は、相変わらず赤い。
「そう。私たち、仲良いの」
勝ち誇ったように言うと、藤宮さんは桃華ちゃんの手を引っ張って立たせた。
「桃華、トイレ行こ」
高校生にもなって一緒にトイレかよ、なんてからかえない雰囲気が二人の間には流れている。
この二人はやっぱり、ただの幼馴染じゃない。
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