第32話 教えてよ
身体が火照っていて、先生の声が全く頭に入ってこない。
……まあ、高校の授業内容はほとんど頭に入ってるし、いいんだけど。
今度こそ渚を自分のものにする……ということばかりに意識が向いているけれど、他の事柄に関しても、高校生に戻れたという利点は多い。
勉強に関しては忘れている部分が多いとはいえ、教科書や参考書を少し見ただけで、かなり思い出した。
大学受験をもう一回やらなきゃいけないっていうのは、厄介だけど。
前の人生では、渚と草壁が付き合いだしてから、私は現実から逃げるように勉強に打ち込んだものだ。
……渚、本当に何考えてるんだろう?
さっき、もし誰かがきていたら、どうなってたんだろう。
想像するだけで心臓がうるさくなる。
でもそれは焦りだけじゃなくて、どきどきも混じっているのは確かだ。
「桃華ちゃん、桃華ちゃん」
草壁にシャーペンで腕を軽くつつかれ、はっとして顔を上げる。
「次、たぶん桃華ちゃんあてられるよ」
「わ……ありがとう」
危ないところだった。
ほっとしつつ周囲を見回すと、渚と目が合う。
渚は私を見て、くすっと笑った。
『さっきのこと、思い出しちゃった?』
口だけで渚がそう言った。私をからかうような笑顔が狡いくらいに可愛くて、私は両手で顔を覆うハメになったのだった。
♡
「桃華、帰ろ」
ホームルームが終わると、渚が笑顔で近づいてきた。
「あれ? 今日、応援団の練習だよね?」
当たり前のように、草壁が私たちの会話に割り込んでくる。
「桃華がまだ本調子じゃないから休むって、伝えといてよ」
「桃華ちゃんはいいとして、藤宮さんも?」
「桃華が一人じゃ寂しいって言うんだもん。ね、桃華?」
「そんなこと……」
言ってない、と言うよりも先に、渚が私の手をぎゅっと握った。
「……うん。そうなの」
「じゃあ、そういうわけだから。連絡事項とかあったら教えてね」
渚はそう言って私の手を引っ張った。
今から私たちは渚の家へ行く。
そしてそこで、私はまた渚とキスをするんだろうか。
♡
「飲み物持ってくる。コーラと烏龍茶、どっちがいい?」
「じゃあ、コーラで」
「オッケー、ちょっと待ってて」
渚が部屋から出て、ドタバタと階段を下りていった。
今日も今は、この家にいるのは私と渚の二人だけ。
今日は、どういう流れでキスするんだろう?
そして今日のキスには、どんな理由があるの?
頭がこんがらがって、あぁ、と変な呻き声が口からもれる。
両手で頭を抱えていると、二人分のコップを持った渚が戻ってきた。
「ついでにポテチもあったから持ってきたよ。コーラにぴったりでしょ」
「ありがとう」
私の隣に座った渚が、ポテトチップスの袋を大胆に開ける。
ポテトチップスを口に運ぶ渚をじっと見ていると、渚に笑われた。
「そんなに私のこと見て、もうキスしたいの?」
「……渚はなんで、私とキスしてくれるの?」
質問に質問で返してしまったけれど、うーん、と頭を抱えて渚は考え始めてくれた。
「桃華がしてほしそうだし」
「じゃあ、私がしてほしいって言ったら、キス以上のこともしてくれるの?」
じっと渚の目を見つめる。なんだか、前と逆の立場になったみたいだ。
「桃華」
いつもより少し高い声で私の名前を呼んで、渚は私の手を引いた。
そのままベッドに連れていかれて、呆気なく押し倒される。
「キス以上のことって、なに?」
「それは……」
「教えてよ、桃華」
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