第12話 マウント

「あんまり怒られずに済んでよかったね」


 渚が私を見てホッとしたように笑う。

 1限目をサボった私たちは、当然先生に注意された。


 しかし、体調が悪い渚に付き添ってトイレにいたと言うと、それほど怒られはしなかったのだ。


「まあ、本当のことがバレたら、生活指導ものだろうけど。ね、桃華」

「なんでそんなに嬉しそうなの?」

「だって、私たちだけの秘密って感じで、なんかよくない?」


 ふふ、と笑った渚はあまりにも可愛い。


「……次の授業もう始まるし、用意しないと」

「桃華、照れなくていいのに」


 渚は上機嫌だ。私だって本当はかなり浮かれている。

 私たちは廊下に設置されているロッカーから次の授業の必要な教材を取り出し、それぞれ席へ戻った。


「藤宮さんのこと、介抱してたんだよね」


 待ち構えていたかのように、草壁がそう言った。


「本当に?」


 からかうように笑って、草壁が私の顔を覗き込んでくる。


「本当は、サボってたりして」


 こんな風に笑われたら、ときめいてしまう子は多いのだろう。

 前は渚をこんな風に口説いていたのだろうかと思うと、なんだかイライラする。


 どう答えるべきかな。


 私がちょっと悩んでいると、いきなり右肩に誰かの手がおかれた。

 慌てて振り向くと、渚が立っている。


「さっきしてたこと、私と桃華だけの秘密だから」


 勝ち誇るようにそう言って、ねえ、と私の顔を見つめる。

 私と草壁が話しているのが気になって、わざわざきてくれたのだろう。


 可愛い。


「うん、私たちの秘密だね」


 学校を抜け出して、公園でアイスを食べた。それだけだ。

 でもそれも、私と渚、二人だけの秘密。


 教室の扉が開いて、先生が入ってくる。


「桃華、また後でね」


 軽く私の頭を撫でてから、渚は自分の席へ戻っていった。


「俺、藤宮さんに嫌われてるかも」

「え?」

「今、めちゃくちゃマウントとられた気がする」


 そう言われて、私はにやけそうになるのを必死に我慢した。


 そうよね。渚、今、マウントとってたわよね。

 自分の方が、私と仲がいいんだって。


 私の勘違いじゃないことが嬉しい。


「今度、俺ともサボってくれない?」

「だから、サボってないから」


 そう答えることで、私は返事を曖昧にした。





「応援団になりたい人?」


 ホームルームの時間に、先生はそう言った。各クラスから、男女2人ずつ応援団を選ぶ決まりだ。


 真っ先に手を挙げたのは渚である。私も遅れないように、慌てて手を挙げた。


 学校にもよるかもしれないけれど、うちの学校はそこまで応援団に人気はない。


 放課後に練習するため、部活や塾で忙しい人は参加しないからだ。


「女子はこの2人でいいか?」


 クラスの女の子たちが勢いよく拍手してくれる。やりたくない人からすれば、手をあげてくれるのはありがたいことなのだろう。


「男子でやりたい人は……お、草壁、やってくれるか」


 草壁は私と目が合うと、にっこりと笑った。

 そして声を出さずに、よろしくね、と言われる。


 その後すぐに草壁の友達が手をあげて、クラスの応援団員が決まった。


 応援団の練習で、草壁と渚の距離が近づかなければ、二人が付き合う可能性を完全に潰せるはず。


 そして、同時に渚の嫉妬心を煽ることもできれば、私と渚の関係性だって変わるかもしれない。


 応援団、死ぬ気で頑張らなきゃ。

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