第11話 変わらないこと
私たちはこっそり学校を抜け出して、近くにあるコンビニにやってきた。
ファミレスやファーストフード店でもよかったのだけれど、制服で長居するのはどうかと思ったのだ。
「アイスでも食べる?」
渚に言われ、うん、と頷いた。朝ごはんは食べてきたから、まだあまり空いていない。
でも、甘い物は別腹だ。
「どれにしようかな」
渚がアイスコーナーを覗き込む。どうしよう、なんて言いながらいろんなものを見ているけれど、渚はいつも同じ物を選ぶのだ。
昔からある、バニラ味のカップアイス。ミルクっぽさが他社の製品より強めで好きなんだと、小さい頃から言っていた。
「やっぱりこれにする!」
予想通り、渚はいつもと同じアイスを手にとった。
少し悩んだけれど、私も同じ物を手に取る。
「珍しいね、桃華がそれにするの」
「渚と一緒の、食べたくなっちゃった」
そっか、と呟いた渚は可愛くて抱き締めたくなる。
渚って本当、どうしてこんなに可愛いんだろう。
渚は可愛い。
私のタイプ、ど真ん中だ。いや、きっと、私の好みが渚をもとに作られたのだろうけれど。
「じゃあ、レジ行こっか。公園とか行く? ここで食べる?」
渚はそう言ってレジへ向かう。後ろを歩きながら、公園かな、と返事をした。
コンビニ内にイートイン用のスペースもあるけれど、この時間に制服でいるのは落ち着かない。
会計を済ませてから、私たちは近所の公園へ向かった。
♡
公園といっても、自動販売機とベンチが設置されているだけだ。
だからこそ人が少ないのはありがたいけれど。
「今日ちょっと暑いから、アイスにぴったりだよね」
アイスを開けながら渚が笑う。彼女の言う通り、今日は春にしては温かい。
「ゴールデンウィークが明けたら、夏服になるんだよね」
「まあ、すぐじゃなくてもいいけど。渚はもう夏服に変えたいの?」
衣替え期間は結構長くて、6月末までは冬服も認められている。
梅雨は雨が降って寒い時期もあるからだろう。
「うーん、悩む。正直もう夏服になりたいけど、冬服の方が可愛いもん」
「確かに」
夏服は冬服に比べるとすごくシンプルで、可愛いかと聞かれると微妙だ。
「それと、ゴールデンウィーク終わったら、結構すぐ体育祭だよね?」
渚が楽しそうに言う。こんなに喋っているのに、もう渚のアイスは半分くらいしか残っていない。
私も慌ててアイスを口に運びながら、うん、と頷いた。
うちの学校では、体育祭は5月下旬に行われる。
「私、応援団に入ろうと思ってるの」
知っている。だって、前もそうだったから。
渚はイベントごとが好きだ。応援団に参加して、楽しそうにやっていた。
目立つのも運動も嫌いな私は、ただ応援団姿の渚を目に焼けていただけだけれど。
「……私も応援団、入ってみようかな」
ぼそっと呟くと、渚が目を丸くした。まさか私がこんなことを言い出すなんて、想像してもいなかったのだろう。
前は、何回も誘われたのに、応援団に入るの断っちゃったんだよね。
思えばそれが、私にとって大きな失敗だったのだ。
だって、応援団の活動を通じて、渚は草壁との距離をぐっと縮めたんだから。
そして体育祭が終わってからも、二人は仲がいいままだった。
夏休みに、二人きりで出かけるくらいには。
「本当に?」
「うん。どうかな」
「いいと思う! 桃華とやれたら絶対楽しいし!」
嬉しい! と渚は満面の笑みを浮かべた。昔からずっと変わらない、私の大好きな笑顔。
「渚、元気出た?」
私が聞くと、渚はまた目を丸くした。
きっと、顔を真っ青にしてトイレに駆け込んだことなんて、もう忘れていたのだろう。
「うん。ありがとう、桃華。一緒にサボってくれて」
「どういたしまして」
私は渚が大好きだ。だから、渚を笑顔にするためならなんだってする。
ただし、その笑顔は私に向けたものしか認めない。
「二限目が始まる前には学校戻ろうか」
「えー、いっそこのまま、今日はサボっちゃわない?」
「渚と違って、私は荷物教室に置きっぱなしなんだよ」
そうだった! と渚が笑う。
本当は別に、このままサボっちゃってもいいけど。
「あ、桃華、アイス溶けてる! 急がないと!」
「え? あっ、本当だ」
慌てて残りのアイスを食べると、頭がキーンとした。
顔を顰めた私を見て、渚はまた笑う。
なんてことはない日常だ。私はただ、こんな日々が続いてほしくて、そのために自分の恋心を封じ込めていた。
でも、日常を守るためには頑張らなきゃいけないって、もう分かったの。
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