第9話(渚視点) 違和感
最近、私は二つの違和感を持つようになった。
一つ目は、桃華について。
もう一つは、私自身について。
溜息を吐いて、読みかけの文庫本を机におく。寝る前に少し読み進めようと思っていたけれど、3ページしか進んでいない。
飲みかけの紅茶もすっかり冷めてしまった。
「……なんで桃華、あんな男と仲良くするんだろ」
桃華の隣の席になった上に、委員会まで同じになったあの男。
格好いいと女子の間では人気のようだけれど、私はどうしてもあの男が苦手だ。
だって、桃華に馴れ馴れしいから。
高校生になって、桃華は変わった。前よりもおしゃれをするようになったし、男子とも喋るようになった。
それが、桃華に対して感じている違和感。
そして……
「なんで私、こんなに嫌なんだろう」
友達がおしゃれになって、男子嫌いを克服したのだ。
普通は喜ぶはずだろう。
それなのに私は、喜べないどころか、嫌だと感じてしまう。
それが、二つ目の違和感だ。
可愛いんだからもっとおしゃれすればいいのにとか、男子ともちゃんと喋ればいいのにとか。
そんなことを言ったのは私だ。
「でもなんか、なんか……!」
あー! と言葉にならない声を出して、ベッドへ飛び込む。
枕をいくら叩いても、このもやもやはおさまってくれない。
スマホに手を伸ばし、メッセージアプリを起動する。少し悩んだけれど、今なにしてる? と桃華へ送った。
『勉強してたよ』
すぐに返事がきて安心する。
私は本読んでたよ、と返事をすると、またすぐに返事がきた。
『嬉しい、渚が本読んでくれて。映画も楽しみだよ』
こんな風に言われたら、ちゃんと読まなきゃって気になるよね。
起き上がって、私は再び文庫本を手に取った。
♡
教室に入ってすぐ、桃華が軽く右手をあげた。
なんだろうと思って桃華の視線の先を見ると、そこには草壁がいる。
やっぱり、チャラそうだし、なんかむかつく。
中学時代も、元カノが3人もいたってクラスの子が言ってたし。
そんな奴、桃華に相応しくない。
「桃華」
「なに?」
振り向いた桃華の唇は赤い。少し前まで、色つきのリップすら塗っていなかったのに。
「なんでもない、んだけど……」
草壁と話さないで! なんて言えない。誰と話したり、仲良くするかを決めるのは桃華自身だ。
だけど私は、桃華があいつと話すのが嫌。
「渚? 顔色も悪いし、体調悪いの?」
桃華が私の顔を覗き込む。
さら、と艶やかな黒髪が揺れた。
ふわり、と甘い匂いがした。私の知らない、甘ったるいバニラの匂い。
「桃華、香水つけてるの?」
「ううん。もしかして匂った? 昨日から、新しいヘアミルク使ってるの」
桃華はずっと黒髪ロングだ。綺麗な髪の毛を保つために、ヘアケアをちゃんとしている。
でも、桃華はバニラの匂いなんて好きじゃなかったはず。
桃華が好きなのは、柑橘系の香りでしょ?
男ウケするような、甘ったるい匂いなんて嫌いなはずでしょ?
「渚? 本当に顔色悪いよ。どうしたの?」
その匂いは、誰かのためなの?
吐き気がして、私は桃華の肩を強く押した。
「ごめん、トイレ行ってくる!」
鞄を持ったまま、私は入ったばかりの教室を飛び出した。
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