第4話 世界で一番憎い敵
教室に足を踏み入れる前に、私は大きく深呼吸した。
だってこの教室には、大嫌いなあの男がいるから。
「桃華、緊張してるの?」
渚は笑って私の背中を撫でた。
「大丈夫だよ。私が同じクラスなんだから! 安心して?」
「……うん」
私は昔から、みんなの輪に入っていけるタイプじゃなかった。
でも渚は、いつもそんな私の手をとってくれた。
太陽みたいに明るくて眩しい子。
隣にいるだけでいつも温かい気持ちになれる。
そして渚がいないと、私の世界は真っ暗になってしまう。
渚が教室の扉を開ける。
私はすぐにあの男を見つけてしまった。
渚とおそろいの色素薄めの髪、温和そうな瞳、薄い唇。
客観的に見て、イケメンと呼ぶに相応しい容姿だろう。
渚は、顔で選んだわけじゃないとは言ってたけど、好みの顔じゃなきゃ付き合わないわよね。
優しそうな顔立ちの優希と異なり、私はちょっときつめの顔だ。
なんだか、少し不安になってしまう。
「えーっと、私たちの席は……」
黒板にはられた座席表を見ながら渚が席を確認している。
私は確認しなくても覚えているのだけれど、座席表を見らずに座るのは怪しいだろう。
「私たち、席はちょっと離れちゃったね」
記憶を頼りにすぐ二人の席を見つけ、指で示しながら言った。
私は窓際で、渚は廊下側。
前から3番目の列という共通点はあるものの、離れすぎていて授業中に喋るのは困難だ。
「でも、休み時間に桃華の席行くから」
「私が行く!」
反射的に大声で返事をしてしまった。
「どうしたの?」
「ごめん、なんか、気合い入っちゃって」
実は、私の隣の席は草壁優希なのだ。
二人を近づけたくない。
前回の人生で二人が話すようになったきっかけは、草壁が私の隣の席になったことだ。
同じ失敗はしないわ。
今度は私が渚の席に行って、極力二人の接触を防がなきゃ。
♡
席に座るとすぐ、草壁が声をかけてきた。
「隣の席だし、よろしく」
声も笑顔も、全部が憎らしい。今すぐ殴りかかりたいくらいだ。
だけど。
「うん、よろしくね」
私は精一杯の笑顔を作って、じっと草壁を見つめた。
渚と草壁を近づけたくない。
そのためにはきっと、こうした方がいい。
「結構緊張してたんだけど……隣が優しそうな人で安心した、かも」
草壁がびっくりしたように目を見開く。
でもその後、草壁はでれっとした笑みを浮かべた。
「あのさ、俺草壁優希っていうんだけど」
「私は
「改めてよろしく、五十嵐さん」
「あ、あの……よかったら、下も名前で呼んでくれない? 苗字で呼ばれるの、あんまり慣れてないの」
話しながら寒気がした。でも、これが正解のはず。
渚がこいつと仲良くなる前に、私がこいつと仲良くなる。
そして、私のことを好きにさせる。
そうすれば渚は、この男を好きにならないはず。
「分かった。よろしくね、桃華ちゃん」
「うん、よろしくね、優希くん」
絶対、貴方なんかに渚は渡さない。
にこにこと笑いながら、心の中で何度も草壁を殴ってやった。
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