第3話 2回目の人生
どうして? なんて考えても意味はない。
だって、考えたって分からないだろうから。
とにかく、死んだはずの私は高校生に戻ったのだ。
「じゃあ、未来も、変えられるってこと……?」
渚が他人のものになって、それに耐えられずに自殺した。
きっとお母さんのこともお父さんのことも、すごく悲しませてしまった。
そんな未来を、今なら変えられるのだろうか。
「渚が幸せならそれでいいなんて、絶対もう言わない」
渚を幸せにするのは私だ。
「絶対、渚を私のものにしてみせる……!」
♡
「じゃあ、行ってくるね」
家を出て、少しだけ歩く。
渚の家は、うちから徒歩1分のところにあるのだ。
インターフォンを押す。どたばたと騒がしい音がして、玄関の扉が開いた。
「ごめん桃華、ちょっと準備に時間かかっちゃって! って、桃華、メイクしてきたの!?」
「うん。渚が言ったんでしょ、高校からはメイクして学校行こうねって」
高校受験が終わってすぐ、渚と一緒にコスメを買いにいった。
だけど当時の私は化粧品に興味なんてなかったし、結局、面倒で高校にはほとんどメイクをしていかなかったのだ。
「それはそうだけど! 桃華あんまりやる気なかったじゃん。でも嬉しいな、それにめっちゃ似合ってるし! 可愛い!」
満面の笑みで近づいてきて、渚が私の顔を覗き込む。
くりっとした丸い瞳に見つめられてどきっとした。
高校時代の渚も、やっぱり最高に可愛い。
ブレザーがよく似合っているし、やたらとラメを使ったメイクも渚の顔には合っている。
髪は染めていないけどちょっと明るくて、肩より少し長いくらい。
あの男と付き合い始めてから、渚は髪を伸ばすのよね。
むかつく男だ。渚にはどんな髪型だって似合うのに、わざわざ自分の好みに合わせさせるなんて。
「ありがとう、渚。渚もすごく可愛いよ」
「え!? なに、もう、照れるじゃん!」
照れ隠しに渚が私の背中をばしばしと叩く。
高校生の私は恥ずかしくて、心の中で思うほどには渚を褒めることができなかった。
でも、今の私は違う。
渚を落とすって決めたんだもの。
これからは全力で、渚を口説いてみせるわ。
「クラス、一緒だといいね」
歩きながら渚がそう言った。
「絶対一緒のクラスだと思う」
「なんで?」
「だって私たち、運命の赤い糸で結ばれてるから」
「ちょっと! なにそれ、真顔で冗談言わないでよ」
もう、と言いながら渚は笑顔だ。
確かに、私が言ったことは事実ではないのかもしれない。
渚は私ではなく、あの男と結ばれたのだから。
でも、神様は私にもう一度チャンスをくれた。
赤い糸なんていくらでも自分で結ぶし、渚とあいつが赤い糸で結ばれているのなら、何度だってその糸をズタボロにしてやる。
「渚、高校でもよろしくね」
「当たり前じゃん! クラス離れても、絶対登下校は一緒にしようね」
「うん、約束」
今度は二度と、渚と離れたりしない。
渚と二人で最期まで生きて、同じ墓に入ってやるんだから。
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