第2話 人生最高の日
今日は渚の結婚式だ。
招待状が届いて、当たり前のように出席に丸をつけて送り返した。
友人代表の挨拶を頼めるのは桃華しかいないなんて言われて、すぐに了承してしまった。
憧れの結婚式場ではないけれど、値段のわりにはいい式場を見つけられたと渚は笑っていた。
私なら憧れの式場を予約できたし、ウェディングドレスだって、もっと高いものを用意してあげられたのに。
分かっている。そういうことじゃないってことくらい。
だけど想像してしまう。
人生で一番着飾った渚の隣を歩けるのが、私だったらって。
「そろそろ家、出ないと」
♡
すう、と大きく息を吸い込む。
夏の温かい空気が、私の肺を満たした。
今日は8月25日。どうしても記念日に式をあげたくて、婚約の一年後に結婚式をあげることにしたらしい。
渚にとって、今日は間違いなく人生最高の日だろう。
そして今日、私の人生は終わる。
いろいろ考えたけど、もう、これ以上は限界だ。
私は渚の結婚を受け入れられなかった。
「よし」
歩道橋の柵を越える。
人がこないうちに、さっさと飛び降りないと。
「渚、ごめんね。結婚式行けなくて」
幸せいっぱいな渚は、私が結婚式にこなくてどんな顔をするんだろう。
私が死んだことを聞いて、どう思うんだろう。
渚にとって8月25日が、旦那との記念日でも人生で一度の結婚式の日でもなく、親友の命日になりますように。
一番に愛してもらえないのなら、せめて私が、渚の一番大きな傷になれますように。
渚あての遺書は昨晩書いた。
伝えたいことがいろいろあったはずなのに上手くまとまらなくて、結局とても短い手紙になってしまった。
『渚、愛してる』
それだけだ。
ごめんね、渚。
貴女のこと、こんなに大好きで。
ぎゅ、と目を閉じる。誰より愛しい彼女の顔を思い浮かべながら、私は歩道橋から飛び降りた。
♡
「桃華、桃華、起きなさい!」
お母さんの大声で飛び起き、起きた瞬間、私は混乱した。
ここ、実家だよね?
なんで? 私、歩道橋から飛び降りたはずなのに……。
呆然として動けずにいると、部屋の扉が開いてお母さんが入ってきた。
「入学式なんだから、遅刻できないでしょ」
そう言ったお母さんの顔はずいぶんと若々しい。最近のお母さんは年をとってきていて、髪ももっと白かったのに。
これは夢なの?
「どうしたの、ぼーっとして。もしかして桃華、体調悪い?」
心配そうな顔で近づいてきて、お母さんはそっと私の額に手をあてた。
熱はなさそうね、と呟いたお母さんを見て心臓がぎゅっと締めつけられる。
私が自殺したことを知ったら、お母さんはどれほど悲しむんだろう。
「大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
「そう? それならよかった。朝ご飯もうできてるから、着替えておりてきてね」
「うん、分かった」
お母さんが部屋から出てすぐ、私は姿見の前にいった。
鏡に映る私はかなり若い。まるで、高校生の時の私みたいだ。
「もしかして、高校の入学の日に戻ったの……?」
高校は家から歩いて通えるところで、渚とも一緒だ。
高校二年生からは違うクラスになってしまったけれど、一年生の時はクラスも一緒だった。
そして渚はこの高校で、未来の夫……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます