二度目の人生は、全力で貴女を落とす〜最愛の幼馴染はもう誰にも渡さない〜
八星 こはく
第1話 絶望の薬指
『ねえ、明日の夜会えない? 聞いてほしい話があるの』
確か今日、記念日だから有給とったって言ってたな。
8月25日は、渚とその彼氏の記念日だ。
二人は何度も別れと復縁を繰り返しているけれど、一番最初に付き合ったのが8月25日。
今からもう、9年も前のことだ。
当時、渚も私もまだ高校1年生だったから。
渚がいきなりこんなことを言うってことは、また喧嘩でもしたのかな。
二人はよく喧嘩をする。そして、喧嘩をするたびに渚は幼馴染である私に愚痴をこぼす。
いつものことだ。
いいよ、とメッセージを送る。
渚の愚痴を聞くのは私の役目。誰にも渡したくない。
小さい時からずっと、渚のことが好きだ。
でも、一度も想いを伝えたことはない。
渚は普通に男の人が好きだし、私は渚が幸せならそれでいいから。
恋人にも夫にもなれないけれど、私は親友として一生渚の傍にいる。
それでいい。それだけで、十分だ。
恋には終わりがあるけど、友情には終わりがない。
どこかで見かけたお気に入りの言葉。
私は、この言葉を支えにずっと生きてきた。
♡
「よし」
仕事終わりにすぐトイレに駆け込んで、慌ててメイクをなおす。
渚に会う時は、一番可愛い私でいたいから。
黒髪ロングに、真っ赤なリップ。
どちらも、私に似合うと渚が褒めてくれたもの。
大学生になってすぐ、渚にパーソナルカラー診断へ連れていかれた。
そこで私はブルベ冬という診断を受け、以後渚はその診断に従ったコスメをくれるようになった。
私は渚がくれた物なら、どんな色のコスメだって嬉しいんだけどね。
メイクなおしが終わったら、首筋と手首にさっと香水を吹きかける。
爽やかな、シトラスの香水。
鏡に映った私は、我ながらいい女だと思う。
♡
「
改札を出て、渚が全速力で走ってきた。
ちょっとだけ、と返すと、渚が両手を合わせて頭を下げる。
「本当ごめん! 定時直前に上司に捕まっちゃってさあ」
話の内容なんて、全く耳に入ってこなかった。
だって、渚の左手の薬指に、見覚えのない指輪があるから。
「あー、これ、気になる?」
渚は幸せそうに笑いながら、指輪を私に近づけてきた。
「昨日、もらったの」
「これって……」
「うん、婚約指輪」
嘘。
今日の話って、愚痴じゃなくて婚約報告だったの?
「いや、
渚が幸せそうに笑う。
大好きなはずのその笑顔を、今は真っ直ぐに見つめられない。
私の方が絶対、いっぱい思い出があるのに。
私の方が絶対、渚のことを愛してるのに。
私の方が絶対……先に、渚を好きになったのに。
渚が幸せならそれでいい。
そう思っていた。そう思っていたはずだ。
なのに、上手く笑えない。
「桃華?」
早く言わなきゃ。おめでとうって。よかったねって。
大好きな親友が、結婚するんだから。
「おめでとう、渚」
渚の瞳に映った私は、完璧な笑顔を浮かべていた。
渚も笑顔で頷く。
もし私が、作り笑いが下手だったら。
もし私が、嘘が下手だったら。
私たちは、親友以外のなにかになれてたのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます