第5話 幼馴染のやきもち
「桃華ちゃん、またね」
ひら、と草壁が手を振った。その笑顔を恨めしく思いつつ、またね、と笑顔で手を振りかえす。
「ちょっと桃華!」
駆け寄ってきた渚に強く手を引かれる。
「どういうこと?」
「どういうことって?」
「さっきの人! 桃華のこと、下の名前で呼んでたじゃん」
渚が不満げな顔でちらっと草壁を見た。それを見て、私は内心で嬉しくなる。
「隣の席になったから、ちょっと喋っただけ」
「ちょっとって……桃華のこと名前で呼ぶ男子なんて、今までいなかったのに」
渚の言う通りだ。
渚以外に友達のいない私は当然男子との距離が遠く、五十嵐さん、と苗字で呼ばれるのが当たり前だった。
「気をつけなよ。なんかあいつチャラそうだし、桃華が可愛いから狙ってるのかも」
「可愛いって……それを言うなら渚がでしょ?」
にこっと笑って、じっと渚を見つめる。
渚は照れたのか、私から目を逸らした。
帰ろ、と言って渚が私の手を引く。このまま手を繋いで帰りたかったけれど、教室を出ると渚は私の手を離した。
「……桃華、メイクもすごい似合ってるし。なんか、寂しいな。みんなが桃華の可愛さに気づくの」
「……渚」
私は別に、みんなからの可愛いなんていらない。渚が私のことをそう思ってくれたら、それでいい。
「私は、渚に褒められるのが一番嬉しいよ」
「なんで?」
ちょっと拗ねたような顔をした渚は可愛い。いや、どんな顔をしていたって可愛いんだけど。
「渚のこと、一番好きだから」
直接的な言葉に渚はびっくりしたみたいだった。
そうだよね。今までの私なら、絶対言わなかっただろうし。
でも、今後はガンガン言っていくと決めたのだ。
普通にしていたら、渚に意識してもらえないだろうから。
「……わ、私だって、桃華のこと好きだからね」
照れたように言った渚は耳まで真っ赤だった。
本当、可愛い。
「でもとにかく、男子には気をつけてね。桃華が変な男に騙されないか心配だから」
渚が改めて念押ししてきた。
私は今まで男子と滅多に話さなかったし、免疫がないからと心配してくれているんだろう。
まあ、確かに高校生の私は本当に男子が苦手だったんだよね。
社会人になってからは仕事上関わる機会も増えて、特に気にならなくなったんだけど。
「渚も気をつけて」
「私は大丈夫だって!」
あはは、と口を大きく開けて渚が笑う。
「でも、高校生になったんだし、彼氏とかほしいな」
それ、彼女じゃだめなの? と聞くのはだめだ。直接的すぎる。
渚は高校生になったら彼氏がほしいと言っていた。そして夏頃、草壁と付き合いだした。
私が草壁とちゃんとコミュニケーションをとったから、ちょっとは未来が変わってるはず。
でもまだ、安心はできない。
絶対、二人が仲良くならないようにしないと。
そしてその上で、他の男にも気をつけなきゃいけない。
「どうしたの、桃華。怖い顔して」
「え? そんな顔してた?」
「もしかして、私が彼氏作るのが寂しいの?」
ふふ、とからかうように笑って渚は私の顔を覗き込んだ。
「安心してよ。彼氏できても、桃華との時間は作るから」
「……ありがとう」
この言葉は嘘じゃない。渚は彼氏を優先して女友達と遊ばなくなるようなタイプではないのだ。
だけど。
当日に誕生日を祝うことはできなくなった。クリスマスや年末年始も、優先したのは草壁だった。
そんなのもう嫌だ。
私は今度こそ、渚の一番になりたい。
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