第14話 ガヒシ会戦
西暦2031(令和13)年3月12日 フローティア島中部 ガヒシ平野
日本で言えば山梨県に匹敵する面積を誇るガヒシ平野に、多数の怪異が集う。人の上半身と蜘蛛の下半身を組み合わせた外見をした陸戦ゴーレム〈アラクネ〉は、両腕に高出力の魔光砲を備えた有人陸戦兵器であり、底部のホバーユニットと四本の脚による全地形対応能力の高さと優秀な戦術機動性を誇る。
「全軍、前進せよ!イスティオルダに襲撃を仕掛けた姑息な蛮族共をフローティアから蹴り落とせ!」
ハモル軍団長の命令一過、1000機以上の〈アラクネ〉がガシャガシャと足音を響かせながら前へ進む。3個鉄騎兵師団からなる第21機甲軍団は、パルシア大陸軍東部方面軍の中でも精鋭として知られる部隊であり、これまで負けなど経験した事はなかった。故に此度の戦争に対する感情は重いものがあった。
対する陸上自衛隊は、平野外縁部の森林に身を潜ませ、迎撃態勢を整えていた。流石に火力が不足気味な第1師団ではなく戦車部隊も有する第4師団と、北海道から海を越えて駆け付けた第7師団の1個戦闘団が対峙している。
「相手は数的優勢で押し寄せてきている…だが、それで捻じ伏せる事が出来ると思うな」
第7師団戦闘団を率いる
「敵戦闘機は空自が抑えるそうだが、油断はするな。特科、早速放り込んでやれ!」
『了解!』
命令が下り、遥か後方に並ぶ10両の99式自走りゅう弾砲はその長大な砲身をもたげる。と直後、一斉に咆哮。20キロメートル先へ10発の155ミリ榴弾を投射する。
「着弾まで、あと10秒、9、8…」
観測班は専用観測機器で見つめ、そしてついに着弾。空中でも第8航空団の戦闘機が敵機にミサイルを叩きつけ、陸と空の両方で盛大な爆発が起きる。
「着弾!続いて第二射、間もなく着弾!第三射着弾まであと10秒!」
99式自走りゅう弾砲は僅か10秒で砲弾と炸薬を装填し、射撃体勢を整える事が出来る速射能力を持つ。短時間のうちに数十発もの榴弾を敵軍へ叩きつける投射能力は、元々はロシア陸軍の機甲部隊に対抗するための力であり、戦列歩兵が如く横一列に並んで迫る敵軍には特段有効的であった。
「陸は早速おっぱじめたか。各機、掛かれ!格闘戦の何たるかを連中に見せつけてやれ!」
第8飛行隊所属の〈F-15EJ〉戦闘攻撃機部隊は主翼を翻し、敵戦闘機と空戦に突入。敵戦闘機は〈バンピール〉の様な全翼機型ではなく、フランスの〈ミラージュ〉戦闘機の様なデルタ翼機であり、速度も旋回性能も高かった。
だが、F-15〈イーグル〉の発展型たる〈F-15EJ〉の機動力とアビオニクスの前にはまるで歯が立たなかった。マッハ1の快速もマッハ2.5の超音速で振り切られ、直後に捻り込む様にして反転し、背後へ移動。瞬時にレーダーで捉え、ミサイルを放つ。
そうして空から敵機を一掃した後、今度は第7飛行隊が到着。99式自走りゅう弾砲の砲撃で攻めあぐねている敵軍へ襲い掛かる。胴体下部のAN/AAQ-33目標指示ポッドが赤外線レーザーで照射する目標に向けてLJDAMレーザー誘導爆弾を投下し、通過後に命中。〈アラクネ〉は魔光砲で応戦するも、音の速さで斬りかかる様に爆弾を放り込む敵機を捉えるには照準が遅すぎた。
「全車、前進せよ」
岡部の命令一過、28両の10式戦車がディーゼルの唸りを上げながら前進。それに対して〈アラクネ〉の一部は気付き、砲撃を飛ばす。が、10式戦車は横に広がる様に散開し、ジグザグ走行で攻撃を回避する。
「敵の光線は遅いぞ!しかも照準は甘い!スラロームで迫りながら掛かれ!」
第71戦車連隊長の
「う、狼狽えるな!数では我らの方が圧倒しておる!地を這う虫ごときに後れを取るな!」
ハモルは叫ぶ様に命じ、〈アラクネ〉は10式戦車を追い掛け回す様に複数機で走り、1両ずつ包囲して撃破しようと試みる。とその時、南部より幾つもの砲弾が飛んできた。
その正体は第4偵察戦闘大隊に属する16式機動戦闘車の砲撃だった。第1偵察戦闘大隊に属する16式機動戦闘車も北部から攻撃を仕掛け、三方向より半包囲される形で攻撃を受けたパルシア軍第21機甲軍団は動揺する。
「こ、後退!後退しろ!」
「このままだと包囲殲滅される!」
斯くして、『ガヒシ会戦』は自衛隊の大勝に終わった。パルシア軍は600機以上の〈アラクネ〉を喪失し、戦線は西へ移動。日本でも機甲師団に対する評価が変わる事となり、規模の大幅な増強が約束される事となった。
異世界に日が昇る時〜日本国異世界戦記〜 広瀬妟子 @hm80
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