第13話 フローティアを巡り

西暦2031(令和13)年3月9日 フローティア島東部


 フローティア島東部の開けた大地に、幾つものプレハブ小屋が並ぶ。その一角には数十人の人々が集っていた。


「しかし、こんなに貧しい暮らしを余儀なくされていた者達がいるとは…パルシアも酷な事をするものだ」


 仮設基地の一角で、陸上自衛隊第1師団長の工藤くどう陸将は呟く。その視線の先では現地住民が食事の配給を受けており、彼らはカレーライスや米粉パンをおいしそうに味わっていた。


 首都圏の防衛を主任務とする第1師団であるが、今回の戦闘は自衛隊全体での練度向上も狙っているため、辺境にしては交通インフラが整備されているフローティア島に機動力の高い第1師団を送り込む事としたのだ。他の師団はさらなる戦闘の拡大に備えて後方待機状態にしており、政府と市ヶ谷の本気度が伺えた。


「そもそも相手は収奪のみを目的に占領しているそうですからね。暮らしをよくしてくれる事無く圧政を敷くのみでは、生きるだけでも精一杯になりますよ」


「ともかく、中即と水機はいい仕事をしてくれた。第7師団も先発隊が到着しているし、後はイスティオルダへ進撃して制圧するのみだ」


 工藤はそう言いながら、別の方向へ目を向ける。そこでは数人の女性自衛官が現地住民の子供達の遊び相手となっていた。その多くが『東アジア大戦』後に入隊した者達であり、戦後の『軍拡』で幹部自衛官不足が深刻となった影響で、20代前半で曹にまで上げられた者が多数存在していた。


「まだまだ青春を過ごしたいだろう若者、それも女性が25かそこらで三曹か…フィクションの世界でしか見た事のない様な人事だと思わないか?」


「先の戦争の後、殉職者以上に退職者が大量に発生しましたからね…保安省と総務省の共同事業で公的な斡旋事業が行われたのも、退職者が左派勢力の駒にされるのを回避するためですしね」


 戦後、反戦運動団体を中心に元自衛隊関係者を祭り上げて『自衛隊に入隊するな運動』が行われたのだが、守るための力を持たなかった結果をインターネットで知る若者達はそれを白けた目線で見ており、影響も低かった。そして反戦主張を隠れ蓑に中国やロシアから活動資金を得て活動していた者達は悉く保安省の下で摘発され、今では南樺太の共同開発事業のための労働力としてロシア政府に貸し出されていた。


「ともかく、我々はどうにかしてこの世界で生き延びなければならない。燃料自体は当面は国内の油田や炭田再開発に、南樺太からの化石燃料購入で凌げるし、テージア共和国からも輸入が開始されつつある。だが、それ以外の地下資源を得る手段も欲しい。故にこの地は必要となる」


「…」


 工藤の言葉に、部下は複雑そうな表情を浮かべた。

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