第9話 福江島の戦い②

西暦2031(令和13)年2月21日 五島列島福江島上空


 福江島上空を6機の機体が舞う。その向かう先は福江空港の真上。〈C-2〉輸送機は福江島を奪還するべく、第一空挺団第1普通科大隊を載せて向かっていた。


「間もなく降下を開始する!滑走路や現地の機甲兵器は海自の攻撃で破壊されているだろうが、残党が残っている可能性が高い!激しい抵抗を受ける覚悟で飛び込むぞ!」


『了解!』


 中隊長の言葉に、一同は頷く。陸上自衛隊の空挺降下を専門とする第一空挺団は、敵地が味方の巡航ミサイルで叩き潰された地へ強襲を仕掛け、増援が無事に到着できる様に『地ならし』を行う事を主任務としている。その一例が『東アジア大戦』における与那国島と石垣島の奪還戦であり、しかし人民解放軍は撃破しきれない程の機甲戦力を揚陸させていた事により損害も大きかった。


 そして戦後、自衛隊志願者の全体的な増加によって人員は回復したものの、戦訓を反映するべく新たな装備を求めた。例えば隊員は全員、防弾装備と一体化した強化外骨格パワードスーツを装着しており、総重量20キログラムにも達する汎用機関銃を片手で持って撃ちながら走る事が出来る。そうして個人の戦闘能力を技術で強化し、これよりその成果を発揮しようとしていた。


「降下、用意!」


 機体後部のランプハッチが開き、風が舞い込む。そしていの一番に一人が駆け出した。機外へ勢いよく飛び出した隊員は紐を引っ張り、背部に背負うバックパックからパラシュートを展開。次々と空中に深緑色の花が開く。


 降下開始から数十秒が経ち、先行して降りる隊員はM240G汎用機関銃の安全装置を解除。滑走路周辺にチラホラ現れ始めた敵兵へ銃口を向ける。そして白い光を放ち始めたと同時に引き金を引いた。


 地上に7.62ミリ銃弾の雨が降り注ぎ、複数人が倒れる。そして降り立った隊員は急ぎパラシュートを折り畳み、バックパックへしまってから降ろす。45人の隊員が降り立った直後、1両の〈イーグル〉歩兵機動車がパラシュート付きパレットを用いて降り、滑走路に着地する。車上には12.7ミリ重機関銃と40ミリグレネード砲を装備した遠隔操作銃塔RWSが付いており、これが第一空挺団の貴重な機甲戦力であった。


「敵が来たぞ!」


 隊員が叫び、一同はその手に持つ武装を向ける。そして数十人の敵兵が杖を手に攻撃を開始し、戦闘が始まる。敵兵は火炎や電撃を飛ばす一方、隊員は〈イーグル〉の背後に回りつつ、20式小銃を撃つ。そして一人の敵兵が腰からサーベルを抜いて突撃を仕掛けようとした時、真横へ勢いよく倒れた。


「ヒット!」


「相手に反撃の隙を与えるな!撃て!」


 小隊長の声を受け、マークスマン選抜射手はHK417自動小銃の引き金を引く。敵兵の交戦距離は長くて200メートルであり、その数倍はある距離から放たれる必殺の一撃は次々と敵兵を倒していく。


 形勢は決した。敗走を開始する敵軍に対して第一空挺団は〈イーグル〉を先頭に進み、撃ち倒していく。そして後続の部隊は彼らに続かず、福江港へと向かう。


・・・


『福江港より煙幕が昇った!』


 母艦たる輸送艦「みうら」からの通信を受け、水陸機動団第1連隊に属する中隊長は指示を出す。


「よし…仕掛けるぞ!港湾部に敵の艦船はない、勢いに乗って攻め込め!」


 命令一過、10式戦車を載せたLCACは左右にAAV7装甲車を従えて前へ進む。そして浜辺に到達するや否や、建物の影から1機の巨怪が現れる。


「撃て!」


 だが、それも織り込み済みだった。LCACには上陸時の敵の応戦を想定して30ミリ機関砲が2門装備されており、即座に敵巨怪の頭部へ徹甲弾を叩き込む。そうして怯んだ隙にAAV7が上陸し、攻撃。そしてLCAC自体も着岸し、載せていた10式戦車を吐き出した。


「撃て!」


 車長の命令一過、主砲の120ミリ滑腔砲が吼える。1メートル以上の鉄板をも貫く威力を持つ装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSは怪異の武器を持つ腕を吹き飛ばし、次いで脚部を破壊。行動不能に陥らせた。

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