第8話 福江島の戦い①

西暦2031(令和13)年2月21日 長崎県五島列島上空


『オウル1よりタイガー各機、敵機群を捕捉した。福江島上空を中心に密集した形で展開している。恐らくはこちらの反撃を警戒しての事だろう』


 航空自衛隊第7飛行隊の各機は、〈E-767〉からの報告を聞き、パイロット達は苦々しい表情を浮かべる。


『捕虜からの聴取内容を元に解析すると、大型船は『ラジェンドラ級強襲艦』、巨大航空機は『イカルス級制空艦』だそうだ。火力はあるが防御力と射撃精度に難がある。タイガーはパンサーとともに敵航空戦力を引き剥がし、海自艦隊の支援を行え』


「了解!」


 一同は応じ、そしてレティクルに敵護衛機を捉える。出撃前に得られた情報によると、空戦型ゴーレム〈バンピール〉という敵UAVは、一対一では確実に勝てるものの、数の多さがそれをカバーしてくる。であれば出来る限り先んじて落とすべきである。


「タイガー1、フォックス2!」


 各機より一斉に99式空対空誘導弾が発射され、敵機へ飛翔。命中するその直前に散開を開始する。敵の攻撃を確認した敵機群は群がる様に第7飛行隊へ殺到を始めるが、直後に別方向よりミサイルの驟雨が降りかかる。それは第8飛行隊の強襲であった。


「格闘戦はなるべく避けろ!一度挑めばあっという間に囲まれるぞ、一方的に叩ける位置を保ち続けろ!」


 命令一過、20機の〈F-15EJ〉は40発の99式空対空誘導弾を発射してから再上昇。自分達の倍の数の敵機を粉砕する。それでも〈バンピール〉は100機以上も展開しており、制空権は未だに敵の手の中にあった。


・・・


「目標、レーダーに捕捉しました」


 海上自衛隊護衛艦「やましろ」の戦闘指揮所CICにて管制士が報告を上げ、艦長の鈴木すずき一等海佐は指示を出す。


 今彼らが乗る「やましろ」は、イージス・アショアの代替案として設計・建造されたイージスシステム搭載艦ASEVで、『東アジア大戦』後の人民解放軍艦隊との戦闘で減耗した護衛艦隊の主軸として就役した彼女は、弾道ミサイルを撃墜するための対空ミサイルのみならず、対地戦術攻撃用の巡航ミサイルや国産の対潜ミサイルなど、弾道ミサイルを発射する基地や潜水艦を直接攻撃する手段も有していた。


「僚艦とデータリンクを行い、共同で叩き落とせ。急げよ、陸自が今向かってきているからな」


 命令に従い、3隻のミサイル護衛艦は前進し、自身のフェーズドアレイレーダーで空中の強襲艦と制空艦を捕捉。そして狙いを定める。直後、艦隊指揮官より命令が下る。


「艦隊各艦、攻撃開始せよ」


「SAM、発射サルボー!」


 管制士はスイッチを押し、直後に甲板上に埋め込まれているマーク41ミサイル垂直発射装置VLSのハッチが開放。そして噴煙を吐き出しながらミサイルが次々と放たれていく。空中へ放たれたSM-2『スタンダード』艦対空ミサイルは、元々は開発国のアメリカより輸入していたものであったが、戦時中膨大な量が使用された事や、戦後に相当数の備蓄が要求された事、何より戦後経済の産業面の復興には工場を稼働させる契機が求められた事から、三菱重工業にてライセンス生産が成されている。


 その国産化された『スタンダード』は、レーダーで捉えられた目標に向けて超音速で飛翔し、直撃。衝突時の威力で相手を破壊する。対して敵は四方八方へ光線を放って抵抗するものの、撃墜は叶わなかった。

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